移り行く季節と共に語る百合

三椏咲

第1話 春の訪れ

「今日は立春なんだって」


私の膝の上で彼女が言う。


「そうみたいだね」

「でも……」

「でも?」

「とても寒いです」

「そうかなー?」


彼女の温もりを感じている。

心も頭の中も温めてくれるから、私はとろけそうになる。


「春香はさ、どういう時に春が来たなーって感じる?」

「うーん、そうだなー……私は桜が満開になった時かな」

「確かに。それは春だね」


桜は春という言葉と隣り合わせな気がする。

桜が咲かない季節は春じゃないって思えるから。


「陽菜はどう?」

「私?私は春香が学校の制服を着た時だね」

「え……」


彼女と初めて会ったのは確かに春だったし制服も着ていた。でも、そんなものを着ていたのはもう何年も前の話だ。

こんな歳になって学校の制服を着ていたら、不審者扱いされてしまいそうな気がする。

それに恥ずかしいし……。


「冗談だよね?」

「着てくれないの?」

「着ないよそんなの」

「えー、ケチ」


そんなこと言われたって、制服なんてものがここにあるわけがない。


別に彼女が喜んでくれるなら着てあげてもいいかもしれない……、なんて気持ちは陽菜にばれないようにそっと仕舞っておく。


「じゃあさ、替わりにでいいから、桜が満開になったらデートしようよ」

「お花見デート?」

「うん!」

「それならいいよ」

「やったー!」


にししっ、と笑いながら仰ぎ見る彼女と目が合う。

こんなに間近で彼女の顔を寝る時やキスする時以外に観られるのなら、もう少し寒い時間が続いてもいいのになとも思ってしまう。


春の訪れが待ち遠しい、冬が去っていくのはうら寂しい。

相反する気持ちが生まれる程度には、私は季節を贅沢すぎるほどに堪能しているのだろう。




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