第5話 過去を嘆く? それより猫になりたい。

 ———過去を嘆く。


 人間誰しも1度はある現象だ。

 その場のテンションやら、後のことを考えずに適当にとか、じっくりと考えた末に、などなど。

 人それぞれ辿り着くまでの過程はあるだろう。

 だが、例えどんな過程を通っていたとしても、結果的には誰しもが同じ結末に行き着く。



 ———あの時なんであんな決断をしてしまったんだ、と。

 


 かくいう俺も、その絶望に打ちひしがれている者の1人である。

 昨日は、俺は人生で最も愚かな選択をした自信がある。自分でも『何してんのガチで』と真顔でツッコんでしまいそうだ。何してんねんガチで。


「…………昨日に、戻りたい」

「どしたの、藤吾。たった1日見ない間に随分萎れたな」

「俺は草か……。実はな、やらかしたんだ……盛大に」


 机に突っ伏した俺の上から聞こえる真也の声。

 その声に俺は言葉を返すと、ぐでぇっと机に全体重を掛けた。今ならスライムになれそうだ。スライムになったら女の子にイタズラしよう。だから服だけ溶かすエロエロスライムになりたいです。


「……コイツガチで参ってんな。きっと今頃藤吾の脳内はくっだらねぇことしか考えてないな」

「何故バレる。顔も見てないのに」

「んー……勘?」


 それだと対処のしようがないじゃないか。

 お前は浮気に目敏い彼女か。いや、コイツは男だし、そもそも彼女も居ないから浮気もクソもないんだが。……言ってて更にテンションが下がってきたな。俺の前では彼女ってワードはNGです。


「……俺、猫カフェの猫になりたい。人に触られておやつ貰うだけで飯も寝床もある、チヤホヤ生活を一生送ってたい」


 因みに人間でこれをしたら『ニート』という称号が手に入る。まぁ手に入ったが最後、親から追い出されること間違いなしだが。

 やっぱりニートになるなら敏腕美女社長を嫁にするしかない。宝くじの1等を当てる方が確率高い気がする。特に俺みたいな奴は。


「藤吾……ガチでどうしたんだ? 普段のお前も大概おかしいけど、今は5割増でおかしいぞ」

「普段の俺はおかしくないだろ。漫画の一般人Aを名乗れるくらいには普通だろ」

「……知らない方が良いこともある、か」


 そう言って、残念な物を見るかの如き目を俺に向けつつ諦めたように小さくため息を吐く。危ない、もうちょっとで眼鏡を叩き割る所だった。


 厨二病が荒ぶる右手を抑えるかの如く、体内で湧き上がった衝動を鎮める。なるほど、厨二病が避けられる理由がよく分かった。もう2度とやらない。


 それはそうと。


「……聞いてくれるか、真也」

「だからずっと聞くっつってんだろ。良い加減にしないとキレるぞ」

「ごめんなさい」


 眉を吊り上げた真也に速攻謝る俺。とても情けない。将来上司に少しでも威圧されたら、ペコペコ頭を下げてしまいそうだ。やっぱニートしか勝たん。


 とはいえ、真也は怒るとガチで怖い。普通にギャン泣きしてもおかしくないレベルだ。

 つまりはこれが最善手なのである。


「それで?」


 不機嫌さを隠そうともしない真也に、俺は真顔で告げた。



「———この後、中村とデート」

「何がどうしてそうなった」



 ホントそれ。










 ———じゃあな、また明日!


 そう清々しい程の笑みを顔にたたえて帰った真也のことは、絶対に許さないことを心に誓った。

 まぁそんな親友を残して自己保身に走ったクズ野郎のことは置いておき。


「……いつまで待たせるんだよ」


 俺は裏門の近くのフェンスに寄り掛かり、無限にも思える時間を過ごしていた。まぁ無限といってもまだ10分も経ってないが。

 しかし、この待ち時間は心臓に悪い。鼓動の音が普段の3割増で聞こえる。このまま帰ろうかな。


「今帰ってもワンチャン『お前ら来なかったじゃん』で済むか」

「———ワンチャンもツーチャンもないからね?」

「うおっ!?」


 突然話し掛けられてビクッと震える。あとちょっとでスマホの画面が召されるところだった。何してくれるんだ。弁償させてやろうか。

 俺はスマホに落としていた目を声の方に向ける。


「……心音」

「なに? 随分不服そうね?」

「スマホが危うく天に召されるところだったんだぞ。可哀想と思わないのか」

「丁度良いじゃない。とーくんはスマホ依存症でしょ?」

「人のことを言える立場かよ」

「ちょっとっ、私もいますよぅ! 忘れないでくださいよっ!」


 はぁ……と肩を竦める心音と、ぴょんぴょん跳ねて自らの存在を主張する矢代。

 だが矢代、お前のことは忘れてないから安心していい。誰でもその立派な物が目に入ったら無視なんか出来ないから。全く、お前に好かれてる謎の男子が羨ま……羨まし……くもないかもしれない。


「……藤吾先輩、何か変なことを考えてません?」

「別に変なことは考えてないぞ。ただ、お前に好かれてる男子が可哀そ……羨ましいと思ってな」


 危ない、危うく本心がお口から飛び出す所だった。お口チャック。

 

「……なんでそんなに安心した感じを出してるんですか? 私、ちゃんと聞きましたからね」

「はいはい悪かった悪かった」

「面倒になってませんか? ……まぁ良いです。私は後ろを付けてますので、何かあればL◯NEでも何でも」


 付けてるって……堂々とストーカー宣言する奴初めて見た。

 流石脳内お花畑。ナチュラルに法を踏み越えてくるその無敵具合には脱帽だ。


 なんてドン引きは程々に。

 俺はため息が出そうになるのを抑えて、代わりに肩を竦めた。


「……それじゃあ心音、さっさと行くか。もうプランは貰ってんだっけ?」

「うん、もち」


 ならオーケーだ。

 もちろん緊張とか気まずさで全然オーケーじゃないけど。

 まぁ所謂痩せ我慢ってやつだ。俺の得意分野。


「ん」

「あ、ありがと」

「こんくらいはな」


 俺はカバンを肩に掛け直し、少し驚いた様子の中村のカバンをひょいっと取って反対側の肩に掛ける。

 深呼吸を1つ。緊張を紛らわせるようにアスファルトを踏み締めた。





「…………変わってないね、とーくん」


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