クラスで人気者の彼女と別れた。でも終わりじゃなかった。

あおぞら@『無限再生』9月13日頃発売!

第1章 元カレと元カノの関係

第1話 彼女と別れた。まぁ世の常だ、気にしてない。

「———あー、学校めんどくせぇ……」


 変わり映えのない日常。特別なことなど何も無い。

 毎日将来役に立つのか分からない授業を夕方まで受け、自転車でそこそこ長い帰り道を帰る。

 そんな面白みのない毎日を送っていれば、偶にはこんな言葉も出てしまうというものだ。


「藤吾、最近それしか言ってなくね? もはや口癖だろ」


 そうため息を吐いている俺の横でまたかと言わんばかりの目を向けてくるのは、俺の友達である眼鏡野郎こと真也。

 コンタクトにすればそこそこイケメンのくせにファッションに興味ない残念な奴だが、普通にいい奴だ。


「……別に毎日じゃないけど? ほら、昨日は『学校だるっ』で、一昨日は『学校キツ』で、その前が『学校めんどくせぇ』だからな」

「自信を持ってるところ悪いけど、全部意味は一緒な。なんも変わらん」


 全く……これだから真也は。

 どれもちょっとずつ差異があるから、全部一緒じゃないんだよ。

 現代文が10段階評価で9の俺が言うんだから間違いない。


「俺、現代文と古文は10だけどな」

「えっ!? 真也おまっ……俺より現代文高いの!? てか古文も10!? ガチで?」

「ガチで」

 

 ふ、ふざけんなよこの野郎っ!

 現代文だけが俺の唯一の取り柄だったのにっ!

 現代文で負けたら……俺に一体何が残るってんだ!


 なんて内心激昂する俺を他所に、真也は何処か含みのある視線を教室の一点に向ける。

 


 クラスの人気者の1人———中村心音なかむらここねに。



 明るい茶色のボブヘアと、髪から覗く耳にあるピアスの跡。

 可愛いと綺麗を両立させた、端整な顔立ち。

 160ちょいある身長に、思わず見惚れるほどのスラッとしたモデルのような体型。


 そんなお世辞抜きにしても整った外見をしている彼女は———所謂陽キャ女子というやつだ。


 俺はその少女を視界に納め……彼女と目が合うと共に直ぐに目を逸らした。

 真也はそんな気まずそうな俺の姿を気にしたことなく続ける。


「藤吾に今の口癖が発症したの、中村と別れてからだよな。てかお前が中村と別れてどんくらい経ったん?」

「待って、俺の口癖を病気みたいに言わないで?」


 これを言ったら不思議と頑張れるんだよ。

 ……あれ? これって病気よりタチが悪い薬物に似てね?


「いやさ、藤吾の口癖をずっと聞いてたらさ、俺まで学校が嫌いになるだろ。伝染病と何が違うんだよ」

「嫌いじゃねーの?」

「いや、最初から嫌い」


 なら良いじゃん。

 てか俺が言う前から嫌いだったなら、どう考えても伝染病じゃないじゃん。

 俺のせいじゃないじゃん。


「それで、別れて何ヶ月? 2? 3?」

「……3、だよ」


 俺が渋々言えば、真也が喉に引っ掛かった小骨が取れたといった風に頷いた。


「そーいえばそうだったな。でも、何で別れたんだよ? 中学はそうだけど、付き合ってからもあんな仲良さそうだったのに」

「何でって言われても……高校生の恋愛ってそんなもんじゃん」


 そう、俺は中村心音と付き合っていた。

 出会いは中学2年で、高校1年の春に付き合い始めて今年の春前に別れた。

 今が高2の梅雨くらいだから……10ヶ月くらい付き合ってた計算になる。


 だが、さっきも言ったように、所詮高校生の恋愛なんて破局するのが常だ。

 それでも誰かと付き合うのは……恋に恋焦がれている思春期だからだろう。

 

 つまり、恋を経験して恋を終わらせた俺は———思春期から大人へとステップアップしたと言えるのではないだろうか。うわかっこいい。

 あ、でも、まだ高校生の恩恵を受けたいから思春期のままでも良いかもしれない。金欠だし。


 なんて思考が脱線する俺に呆れを孕んだ視線を送ってくる真也。

 なんだなんだ、言いたいことがあるなら聞こうじゃないか。


「……お前ら、別れる瞬間まで普通にイチャイチャしてたじゃん」

「…………梅雨ってさ、自転車通学の奴は毎日のようにカッパ着ないといけないから、体臭が気になるんだよ。まぁ俺もその1人なんだが———」

「いきなりどうした? 頭でも打ったか?」

「打ってないわ。そもそも今真也の目の前にいるのに、お前に認知されずにどうやって頭を打つんだ?」


 俺は時止めの能力者じゃないぞ。

 でも空気破壊のスペシャリストではある。俺が自虐ネタかませば1発だ。

 仲の良い奴以外に自虐ネタなんかしても、ただ気まずくなるだけだからな。


 そして、俺は友達がそこまで多くないから最強だ。

 でも別に少ないんじゃない。あくまでもそこまで多くないだけだからな。そこの所を間違えちゃいけない。


 俺が声には出さずとも必死に説明していると。

 中学からの付き合いである真也は、俺の様子をジッと見つめてため息を吐いた。


「はぁ……お前、ずっとこの話したら惚けるよな。ガチで何があったんだよ……」

「まぁ……色々あったんだよ。ほら、お前の好きな———」

「おいおいガチか! それは見逃せな———」


 俺は、手渡したスマホに釘付けとなった真也を他所に、窓の外を眺める。

 外はどんよりとした曇り空で、今の俺の心みたいだ。ポエマーにでもなろうかな。

 

 とは言え、確かに、真也の言う通り俺達は上手く行っていたと思う。

 でもそれはあくまで表面上では、の話だ。

 人間関係は表面だけで済ませられるモノじゃない。もちろん表面で良いとかいう奴のもいるだろうが……俺には無理だ。

 


 だから———別れたことを後悔していても、間違ってはいないと思っている。



 後悔しているのだって、男の性というやつだ。

 何処かで聞いたことある『男はファイル保存。女は上書き保存』っていうの。

 きっと今の俺のこの感情もそれと同じなのだ。


 だから、今後彼女と関わることは殆ど無いだろう。

 あるとしても、偶に挨拶をして、お互いに取り繕いながら接するくらい。

 といっても、この3ヶ月はガチで全然話してないけど……まぁそれは時が解決してくれるだろう、多分。




 ———なんて、この時の俺、赤星藤吾あかぼしとうごは根拠も無くそう思っていた。

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