カジュアルで深刻な、詩と死に至る病


「拒食症」


痩せたい

ガリガリになりたい

知ってる、私細いの

けどもっと

もっと痩せたい

何着ても似合うように

けど本当はただ

不健康になりたいだけ

不健康って特別でしょ

普通じゃないでしょ

痩せて

キレイな私を見て

細いって言って

もっと食べなよって言って

かわいそうな目で見て

けどちょっとうらやましいでしょ

えー私、全然痩せてないよって

バカにしてあげるから


●● 22歳



十数年前、スガシカオのブログで見つけた詩。

彼がやっていた「輝け!My リリック!」という作詞講座的なものに投稿された作品だ。

スガはこんな感想を書いている。


・・・・・・


いいですねー。不健康だねー。神経質だねー。

「かわいそうな目で見て」→「バカにしてあげるから」

しかもツンデレー。

繰り返しや倒置法で、ぐんぐんリリックのスピードが上がっていくのも気持ちいい!!

実際はどんな体型なのか激しく知りたい、けどやっぱ知りたくないw


・・・・・


詩はもとより、この感想も気が利いていて、印象に残った。

これに曲がつけられたとき、誰が歌うといちばんサマになるのかな、などと思ったり。

でも、Jポップにするにはいろいろ難しいテーマだよな、と思い直したりもした。


なお、この詩については保存だけして、記事にはしなかったのだけど。

同じ時期、こんな記事を書いていたので、引用してみる。



今日見つけた、二つのニュース。

一つめは、摂食障害の予後についてだ。

スウェーデンの治療施設が1974年から2001年にかけて、201症例の追跡調査をしたところ、こんな結果が。

死亡していたのは23人で、約9分の1。

BMI11.5以上では7%が、同じく11.5以下では30%が死亡。

死因は、6例が餓死、9例が自殺、8例が他の原因だという。

ちなみに、BMI11.5というのは、160センチなら29.44キロ。

で、もう一つは、米国の精神医学会と栄養士会が、拒食症の栄養療法について見直しを求めているというもの。

「もっと入院当初から給与栄養量を高く設定」すれば「体格回復も早まるほか、回復までの日数が短くなり、入院期間も短縮できる」というのが、その言い分だ。

なお、日本では、低栄養時の急激な栄養投与が、心不全などのリスクを高めることから「給与量を少しずつ上げていくこと、としている」らしい。

別の国でのニュースとはいえ、摂食障害をめぐる事情の複雑さ、という点では相通じるものが。

死んでもいいから痩せていたい、とさえ願う患者と、死なせたくない、死なれては困る治療者。

この二つのニュースから浮かび上がってくるのは、そんな宿命的な方向性の違いだったりする。



スガシカオが紹介した詩と、この二つのニュースを並べると、カジュアルさと深刻さが共存するコントラストに、不思議な気持ちにさせられる。

でも、どちらがどうとかではなく、ともに本質的なものを体現しているのだろう。

そういえば、結核が身近だった時代、死に至る病として恐れられる一方で、かすかな憧れを抱く少女もいた。

摂食「障害」という言い方だとそうでもないだろうけど、拒食症という響きにはかつての結核以上に、魅惑を感じさせるところがありそうだ。

もちろん、その深刻さは強調され、認知されてしかるべきだと思いつつ、そのカジュアルさを無視してしまうと、本質を見逃すことになる、という気もする。



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