夢物語~パブレストラン『ブランコ』偏 1

クニ ヒロシ

第1話 ようこそ、パブレストラン「ブランコ」へ

 ようこそ、パブレストラン「ブランコ」にお越しくださいました。

 タイトルの通りこの店は夢の中に現れたものですが、ここに纏(まつ)わる話は現実と通じ合っています。

 言って見れば、夢と現実がシンクロ、若しくは錯綜して居る様な者です。


 先ずはその景観からお話しします。


 建物自体は平屋建てで、中に入ると直ぐにホテルの様な受付が有り、従業員が予約の有無と人数を確認しそれに応じてテーブルにご案内します。


 ホールは通常のファミリーレストランくらいで、普段は中央にホワイトボードの様な衝立が有りテーブルを仕切って居ます。

 催しに合わせその位置を移動させます。従って、テーブルの位置も固定されておらず、二度目にお越しくださった時に、「おやっ!」と思われるかも知れません。


 左奥にはステージと言うには及びませんが、それなりのスペースを設けてあります。ここでは何某(なにがし)かの事を、主に楽器の演奏等をすることが出来ます。

 いえ、別にプロの演奏家が演奏するのでは有りません。

 所謂、ストリート・ミュージシャンが屋根付きの場所で演奏して居ると思って貰えれば良いかと思います。


 こじんまりとした窓の間と、先ほど述べた衝立には主に絵画、写真、書画などが掛けて有ります。これも名立たる人物のものでは無く、素人の域を少しばかり超えた人の作品です。


 移動式のゴンドラには手芸品等を所狭しと並べています。

 

 これらの展示物はご要望にお応えして作者の同意の上でお譲りする事も出来ます。その様な時はホールに居合わせた店員に声を掛けて下さい。


 行って見れば、こじんまりとした美術館とパブレストランが同居して居る様なところです。



 取り敢えず店内の説明はこれ位にして、細々としたことは必要がある折りにお話しする事と致します。



 申し遅れました。私はここのオーナーの辻と申します。

 行き届かない所が有るかも知れませんが、ご来店の際には精一杯勤めますので宜しくお願いします。



 見れば、先ほどから妙に店内を、特に他のお客様のテーブルに目を配って居るお客様が居ます。

 その正体は知れています。

 道路を挟んだ向こう側のレストランのマネージャーです。

 対抗意識からか、時折来店されてはあの様に偵察して居るのです。

 恐らく、ご自分の店に戻られれば、あ~だこうだと目に付いた事を話すのでしょう。


 ちょっと、失礼します。

 受付の方で人だかりがして居ますので~。



「どうかしましたか?」

 私は受付の女子に尋ねました。


「いえ、お客様それぞれが自分の分を支払おうとされて居るのですが、誰が何を食べたかで諍(いさか)っておいでで~」


 五六人ほどの青年が伝票を覗き込みながら口々に、

「俺はこれとこれ~」

「これはお前だろ」

「そんなの知らないよ~」


 これでは埒が明きません。

 彼らのいで立ちを観れば直ぐに何者か分かります。

 どれ、仲介に入ることにしましょうか。


「自衛隊の方ですね。この様に店先で揉めて居れば隊の品位を損ねますよ。これでも私は自衛隊のOBです。僭越ですが私に従って、ここは頭数で割って支払って見れば如何でしょうか?」

「えっ、あっ、そうですか。そうですよね」


と、まぁ、こんな事も有ります。



 おや、厨房が騒がしいようです。

 そっちに行ってみましょう。



「どうしたのですが?声がホールまで届いていますよ」

「な~に、こいつがね」

「佐藤さん、こいつは無いでしょう。ちゃんと名前で呼ぶべきでは~。で、田高くん、どうしたのですか?」

「シェフがいきなり頭を叩いたんです」

「それはいけませんね」


 昔気質(むかしかたぎ)のシェフです。つい、口で言うより手の方が早く出てしまいます。

 どうやら、田高くんがデミグラスソースの鍋の底を焦がしたようです。


 実は、かなり前の事に成りますが、私もこの佐藤シェフの下で働いていた事が有ります。

 新米者の私がフライパンや中華鍋を洗剤を使って洗っていると、

『コツン』

と、頭をこつかれました。


「このバカやろう。フライパンがダメになって仕舞うだろう!」

「でも、汚れが小ぶり着いてるんで~」

「こういうのは、こうやってコンロに掛け熱くして・・・たわしで水洗いをすれば、ほらっ、この通り落ちるだろう~」


 始めから、そう云ってくれれば善いモノだと思わずには居られなかった、そう云う思い出も有ります。


 一応、落ち着いたようなので、これからゆうちょ銀行まで出かけて来ます。

 いえ、私的な用事でです。では~。


 

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