1月14日 シクラメン
シクラメンの鉢植えは、陽だまりに置かれた小さな宝石箱のようだった。鮮やかなピンクの花びらは、まるで恋する乙女の頬のように紅潮し、部屋中に甘く優しい香りを漂わせていた。そのシクラメンを贈ってくれたのは、高校時代の同級生、雅弘だった。
卒業以来、音信不通だった彼から、突然届いたシクラメンの鉢植えとメッセージカードの贈り物に、私は驚きを隠せなかった。メッセージカードには、簡潔に「元気でやっている?」の一文だけ。メールや手紙には要件しか書かない彼らしいメッセージカードだ。しかし、その言葉の裏に隠された、彼の優しさや想いを私は感じ取っていた。
雅弘とは、高校時代、お互い惹かれ合っていたけれど、不器用な私たちには、言葉にする勇気がなかった。言葉にできなかったがゆえに、高校卒業後、互いにどのようにかかわっていいのかわからず、自然と距離ができてしまったのだ。あの頃、伝えられなかった気持ち、未練、後悔。全てが胸に込み上げてきた。
贈られたシクラメンを眺めていると、高校時代の記憶が鮮やかに蘇ってきた。二人で協力して行った学級委員としての仕事やクラス運営、生徒が帰った後の放課後の校舎、一緒に歩いた帰り道、何度か目が合った時の、彼の照れたようなかわいい笑顔。全てが、今となっては、甘く切ない思い出だ。
シクラメンとメッセージカードが届いた数日後、勇気を振り絞って、雅弘に電話をかけてみた。つながるのか不安だったが、電話番号は高校時代から変わっていなかったので安心した。電話口で聞いた彼の声は、記憶にあるよりも少しだけ低く、大人びていた。しかし、その声には、あの頃と変わらない穏やかな優しさがあった。
「久しぶりだね。電話くれてすごくうれしい。最近調子はどう?君を思い出させるようなシクラメンを花屋で見かけたから、君にも見せたかったんだ。シクラメン、綺麗だった? また、君に会いたいな。」
彼の言葉に、私の頬も、シクラメンの花びらのように紅潮した。長い沈黙を破った、彼の素直な言葉は、私の心に温かい光を灯した。あの日、伝えられなかった想いは、時を経て、シクラメンの花言葉のように、静かに、そして力強く、再び芽生え始めていた。
1月14日
誕生花:シクラメン
花言葉:遠慮
気後れ
科・属:サクラソウ科・シクラメン属
和名・別名:豚の饅頭
篝火花
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます