第30話 荒野にて

 そこは荒野が広がっていた。

 地面はほとんどが砂で覆われ、時折岩陰に草が生えていたが、その草も高濃度のマナの影響か、禍々しい気配をたぎらせていた。

 これまでの旅も数日に1度程度の頻度で魔物や魔獣に襲われることはあったが、半島の西側になってからはその頻度が増していった。

 数日に1度だった襲撃が日に1回は襲われるようになり、、1日に数回襲われるようになった。

 測量は、1回辺りの移動距離を短くすることで、可能な限り4人で事に当たれるように工夫している。

 問題は夜だった。

 西側には行ってすぐは、夜にも魔物に襲われることが多く、なかなか気が休まることがなかった。

 一度獣人の村を見つけてからは、村に泊まらせてもらうことが多くなった。

 出発前に次の村の場所を確認し村から村へ移動する形だ。

 以前イナリから聞いていたように、半島の北側は村が密集しているようでさほど困ることはなかったが、海岸線を南に進むにつれ、村の数が減っていった。

 比較的大きな集落で魔除けの結界を張ることが出来る魔道具を入手し手から、ようやくキャンプでが出来るようになった。

 結界は、マナを発散し、魔物や魔獣から見つかりにくくなる物で、四方に設置するとその中のマナが発散されるようだ。

 そのため、移動中には効果が発揮されないようで、日中はいつも通り襲撃を受けている。

 今いる荒野では常に周囲を警戒しなければならない状態だ。

 だが、レッドドラゴンと戦って以来、1年ほどは大きな怪我を負うこともなく、順調に旅は進んでいた。

 測量の旅も、進捗は8割ほどまで進んでおり、このまま行くと後数ヶ月でグラン王国の国境にたどり着くだろう。

 しかし現在、僕たちは測量を行う海岸線から離れ、荒野を進んでいた。

 かつての魔王の居城があり、現在の魔王を名乗る者が住む場所を目指しているのだ。

 最後に世話になった村で、だいたいの方角は確認していたため、後数日も歩けば、魔王城までたどり着けるという場所であることは理解していたが、行けども行けども砂ばかりで、僕達は疲弊していた。

 ここは昔戦場だったようでそこかしこに武器の残骸が残っていた。

 マナも尋常ではなく濃いので、僕たちは、暑さと渇きとマナ酔いと闘いながら砂漠を進んでいた。

 幸い、生物が少ないためか襲ってくる魔物は発生したばかりの人型のものばかりだったので、あまり苦戦せずに進むことができている。

 しかし、それでも襲撃はあるので、そのたびに足を止めなければならず、僕たちの疲労感もたまっていった。


 疲れがピークを迎えた頃、事は起こった。

「おい、止まれ。」

 魔物と戦い気が付かなかったが、周囲を獣人達に囲まれていた。

 獣人達は、刻印のは入ったそろいの鎧を身につけ、手に持った槍をこちらに向けている。

 僕は剣をおさめ、両手を上げてここに期待とを伝える。

「争う気はない!

 魔王様に謁見させていただきたくてやってきた。」

「貴様等、人間だな。

 なぜ人間がここにいる。」

「魔族領のために魔王様へお会いしたいのだ。」

「何を訳の分からんことを言っている。

 魔族領のためなど、信じられるか!

 おとなしくしろっ!」

 獣人達は、少しづつ包囲を小さくし、僕たちを取り囲んだ。

 アーヴィンがとっさに剣に手をやろうとするが、僕と賢人が止めた。

「何で止める。

 このままだと捕まっちまうぞ。」

 アーヴィンが小声で言った。

「戦いに来たわけじゃないんだから、誠意を見せよう。

 戦う意志を見せない相手を問答無用で刺しに来るようなら声はかけないだろうし」

 アーヴィンは不承不承と言った様子で柄から手を離した。

 僕は手を挙げながら獣人達に向かって話しかけ続けた。

「話だけでも聞いいてくれないか。

 魔王様へ提案があってきたんだ。」

「うるさいぞ。

 おいっ!こいつ等を連行しろ。」

 僕たちが抵抗せずにいると、手に縄を掛けられ、そのまま連行されることになった。

 僕たちは、一度拠点のような場所で一泊した。

 手を縛られたまま眠るのは、初めての経験だった。

 皆一様に暗い顔をしている。

 声を出すと怒鳴られてしまうので、僕たちは静かに眠った。

 拠点を出発して少しして、魔王城にたどり着いた。

 魔王城は、砂漠の中にたたずむ古い城郭だ。

 石造りの大きな城を囲むように町が広がっている。

 ユウゾウの町と比較すると、少し暗い雰囲気に感じるが、それは縛られている僕らの心境も影響しているのだろう。

 僕たちは城下町を横目にしつつ通りぬけ、魔王城の地下牢に連行された。

 そこで所持品は没収され、1人1人別々の牢に入れられることになった。

 所持品の中には、今までの計測記録が含まれており、獣人の牢番からこれは何だと詰問された。

 僕たちは事前にこの状況を予測できていたので、正直の答えることにした。

 人間の国に依頼されて魔族領の地図と作っていること。

 人間の王国は、魔族領を侵略しようとしていること。

 自分たちは魔族に助けられ、魔族と人間の両方にメリットがある提案ができないか検討しながら旅をしてきたこと。

 僕の話を聞く間、牢番の顔は赤くなったり青くなったり疑いの目をしてきたり、忙しそうだった。

 僕たちは、理由が理由であることから、即座に処刑はされず、しばらく幽閉されることになった。

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