第16話 まずは王都へ
僕とサムは木剣を持って向かい合っていた。
僕たちは右手にロングソードを模した木剣を、左手には楯を持ち間合いをはかっっていた。
それぞれ相手から急所を隠すように半身になり、じりじりと距離を積め、お互いの切っ先が触れ合おうとする。
このまままっすぐ打ち合っても有効打が期待できない。
まず、サムが突きを繰り出した。
僕は楯で突きをそらし、間合いを詰め逆袈裟に切り上げたが、サムは大きくのけぞり、僕の剣の切っ先をよけた。
サムが間合いを取ったため、距離ができたが、今度は僕が大きく踏み込み、正面から切り下ろす。サムは楯で受けるしかないだろう。
思惑通り、サムは楯で剣を受け、袈裟切りに自身の剣を振り下ろしてきた。
僕はあえて受けず、踏み込んだ勢いのまま間合いを詰め、楯ごとサムへ体当たりする事でサムの剣の内側に入り込んだ。
攻撃を交わすと同時にサムの体勢を崩したのだ。
渾身の降り下ろし。
勝った!
そう思った瞬間、サムの僕の打ち込みを剣でいなし、そのまま切り上げられてしまった。
「ついに勝てなかったあ!」
「今のはなかなか良い線行っていたぜ。」
「次は魔法ありでやろうか!」
「そんなのオレが一方的に不利じゃねえか!」
僕とサムは、村のはずれでで最後の模擬戦を行っていた。
僕は今まで剣での勝負では一度もサムに勝てなかった。
昨日の夜に考えた作戦で、後少しのところまで行ったと思ったが、結局はサムの隠し玉である「受け流し」で一本とられてしまった。
通常、剣での立ち会いでは、剣で攻撃を受けることは下策であった。
しかしサムは、東洋の楯を持たない剣術の本に書かれていた受け流しを高いレベルで体得し、ロングソードで実戦投入してきたのだ。
僕と賢人を迎えに王都から来ていた案内人の騎士も見事だったと拍手を送っていた。
アーヴィンの指導を受けてからサムはめきめきと力を付け、賢人曰く、王都の騎士に匹敵すると賞賛されていた。
「帰ってきたらまたやろう」
「ああ、そのときは僕が勝つ」
そういって、サムと握手を交わした。
僕が旅立つ前にサムに勝負を申し込んだのだ。
乾坤一擲の想いでのそんだのだが、サムには旅立つ友に花を持たせるどころか隠し玉まで用意していたとは、よほど僕を悔しがらせたかったと見える。
僕は友の期待に応えるためにここに戻ってくると誓った。
「そろそろ行こううか」
僕は勢いよく返事をし、サムに「またな」と挨拶した。
僕は母親が用意してくれた旅装を身につけ、ずっしりと重い荷物を持った。
村のはずれにはすでに馬車が到着しており、出発の準備が整っている。
数日前、村に騎乗の騎士が村に到着した。
どうやら、数日以内に賢人と僕を迎えにきた馬車が村に到着するとのことで、先触れに単騎で駆けてきたそうだ。
僕と賢人は、半年をかけて準備してきた荷物の整理を始めた。
衣類や星肉やパンなどの保存食を、カバンに詰め込み旅支度を勧める。
このカバンは、「容量拡張魔鞄」といい、カバンに仕込まれた魔鞄陣に魔力を流すことで、カバンの容量を拡張することができる優れ物だ。
ただし、容量は拡張されても重さはそのままだし、保存食以外は腐ってしまうため、あくまで軽く腐らない物を入れてある。
騎士を連れ立って村に戻ると、騎士は村で歓待を受け、村長の家に泊まることとなった。
僕は、両親に数日中に出発することを告げ、母親から旅装にと新しい服を一式もらった。
父親からは、旅先で細々したことに使用できるナイフと、ナイフを刺せる鞘の付いたベルトをもらった。
兄たちからは、森でとったとい兎を受け取り、その日は家族みんなで新鮮な肉を食べることができた。
残る数日は、自宅と村で過ごし、賢人も家で最後の準備をしているようだった。
村に馬車が到着してから、僕と先触れの騎士は賢人の自宅へ行き、眠気眼の賢人を急かして準備万端村に戻ってきた。
村で家族や村長に挨拶をし、村はずれに泊まっている馬車に向かい際に、サムが、二振りの木剣を持って、見送りに来てくれた。
サムとの立ち会いを終え、僕達はついに出発するために馬車に乗り込んだ。
馬車は、箱型の豪華な物で、僕と賢人が箱内に乗り、箱の外には御者。
馬車の周りには4人の騎士が護衛として追従していた。
僕はこんなに速い乗り物がこの世にあったのかと感動し、熱心に外を眺めていたが、それも30分ほどで飽きてしまった。
本を持ってきたので、読もうとしたがすぐに気持ちが悪くなってしまった。
その後も馬車での退屈な旅は続く。
町があれば宿を取り、なければ騎士たちと野宿をしながら旅は進み、馬車に揺られること20日ほどが経過した。
それまでは、町の近くのごく一部を除き、山、森、川、草原などとても雄大な自然が、そして僕にとっては見飽きてしまった光景が多少の変化を伴いながら延々と続いていたが、人家がぽつりぽつりと増えていき、だんだんと人家の隙間がなくなっていく。
ついには道が石畳になり、王都が近づいてきたことがわかった。
この20日間は、賢人と二人いろいろなことを話したが、20日も密室で一緒にいるとついには話題もなくなり、僕は外をぼーっと眺めながら、揺れる場所のせいで痛む尻を少し浮かすことに集中していた。
大きな町が近づいたということは王都が近いと言うことか。
この退屈な空間からようやく逃れることができる。
「テオンさん、石畳と言うことはついに着いたのですか」
「そうだねそろそろだ。
予定よりもだいぶん早いが、君が毎日急かすからだろう。
正直、わしも君のグチにつきあうのがしんどくなってきたから助かったわい」
「テオンさんだって野営の時にご飯がまずいって文句たらたらだったじゃないですか。」
馬車の旅は想像していなかった苦痛を僕たちに与えていた。
僕はすぎていく町並みを喜びと共に見送った。
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