第9話 森の異変

 僕が賢人の家にくるようになって5年が経った。

 今では、賢人の研究を手伝えるようになっている。

 賢人の研究分野は魔法陣の開発や、魔道具の制作など多岐にわたっており、僕はその中でも天文学に興味を引かれている。

 惑星の動きを観測し、どのような軌道で動いているのか、どのくらいの距離があるのかを計算したりしていた。

 賢人は計測を続けることで、星の動きを完璧に予測をするために毎日観測と計算を続けている。

 この計算は、非常に複雑だが、僕にもやっと手伝いができるようになってきていた。

 僕と賢人は夜に決まった天体の動きを観測し、その軌道を計算する。

 天体観測は、観測記録が門をいう世界だそうで、僕が県人と出会ってから、賢人が観測をしなかった日は1度もない。

 僕が手伝えるようになってからは、僕に任せてくれることもあったが、そんな時でも賢人はぼーっと夜空を眺めている。

 僕も賢人の真似をして夜空を眺めることが多くなった。

 満月の夜の月が主役の夜空も、新月の夜の星がきらめく夜空も僕はどちらも好きになった。


 ある日の午後、僕が家のそばで魔法の訓練をしていると、村の大人が数名、あわてた様子で賢人の家を訪ねてくるのが見えた。

 気になって魔法の訓練をやめ家に入ると、三人の村人が賢人に向かい助けを求めているようだった。

「テオンさん、大変だっ!

 森にオオカミの化け物が出たんだ!」

「ダランさんでしたかな。化け物とは穏やかじゃないのう。

 何が起きたか詳しく教えてくれるかい。」

 賢人はいつもと変わらず、穏やかに3人の村人の真ん中にいるダランという男に話しかけた。

 ダランは賢人ののんびりとした様子にイライラしながら続けた。

「だから、オオカミの化け物が出たんだ!」

「オオカミの化け物はどこに出たんだね?」

「森だと聞いている。」

「ダランさんが見たわけではないのかね?」

「ええと・・・」

 ダランの話は長くて要領を得なかったが、森で仲間と遊んでいたサムが突如大きなオオカミに襲われ、仲間をかばいながらも勇猛に戦い、命辛々村まで逃げおおせたとのことだった。

 この話を聞き終えるまでに僕は大ときなため息を三度はついた。

 サムが仲間を守るために奮闘する姿がどうしても想像できなかった。

 僕のイメージのサムは、仲間をおいて逃げ出しそうだ。

 サム達が村に戻ってそのことを村長に伝えると、村は大騒ぎ担った。

 村長の指示で村の大人の大部分は村の警備に付き、ダランたち三人が賢人を呼びに駆けつけたんだそうだ。

 サムの武勇伝はどうでもいいが、オオカミの化け物ということははオオカミの魔獣が発生したということだろう。

 魔獣であれば、早急に処理をしなければ村にも危険が及ぶだろう。

 しかも今回はオオカミの魔獣だという。

 急いで対応しなければ、いつ大きな被害が出てもおかしくない。

 僕は賢人に目を向けると賢人も同じようにこちらを向きうなづいた。

「では、わしとリンウッドで魔獣退治に向かうとしよう。」

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