第7話 キョウと配信①

 その後も、SAKUは何を話しても心ここに非ずで「あぁ」とか「うん」としか話さなくなり、終いには「今日はこれで」と脈絡なく告げて、こちらの返事を待たずに通話を切った。


 なんとも感じの悪いというか、不愛想というか、SAKUにしては珍しい態度を取られたことで、釈然としない響だった。


 さて、SAKUとの約束を終え、時刻は十時半。もっと遅い時間になると思っていたのだが、惨敗過ぎて一試合に三十分かからなかった。


 夕食と入浴を済ませて約一時間、時刻は十一時半を回った。


 響は自室のPCデスクに腰掛け配信の準備を整えていた。


 ここで、響のPC周りの紹介をしていこう。


 響のパソコンは中学三年の時にいろいろあって父親から響に贈られたもので二十万円台の当時のミドルスペックのゲーミングPCだ。それまでは家族共用そこそこのスペックのデスクトップPCを使ってゲームをしていた。

 

 モニターはデュアルモニターで一つは24インチ、4K対応の144Hzのメインで使っているゲーミングモニターで、もう一つは24インチ、60Hzのサブモニターの構成で主にコメントの確認や配信ソフトを配置している。そのどちらのモニターもモニターアームに接続されており、省スペース化が図られている。


 音響関係にもこだわっている。


 ヘッドフォンは某有名ゲーミングデバイスメーカーのワイヤレスゲーミングヘッドフォンで、マイクも某有名メーカーのダイナミックマイクを使用している。そのすべてを某有名楽器メーカーのオーディオインターフェイスに接続している。


 これらの総額は約十万円ほどになる。


 さらに、マウスやキーボードも一級品だ。マウスはヘッドフォンと同様のメーカーの超軽量タイプのマウスで重さは約69gで無駄な華美さのない洗練された白一色にメーカーのロゴが刻まれている。キーボードは同様のメーカーの製品ではなく、最新の技術を使用したゲーミングキーボードだ。


 デスクは大手通販サイトで購入したL字のデスクで、それを部屋の角にピッタリはまるように配置おり、一面はゲーム用でもう一面は勉強などのためのスペースだ。そのすぐ横には配信で使うためのアコースティックギターをスタンドに立てている。


 チェアにもすごくこだわっていて、人間工学に基づいた体に負担のかかりにくいゲーミングチェアをチョイスしており、リクライニングにも対応しているため時折チェアの上で眠ってしまうことがあるが今のところ体を痛めたことが無いほどふかふかで座り心地の良いものになっている。


 さて、響の周辺機器自慢もそこそこに配信の準備は整った。


 配信の準備と言っても配信ソフトを起動して、雑談用のプリセットを引っ張り出してくるだけである。


「うし、やるか」


 配信開始ボタンを押して、ツイックスに配信開始のつぶやきをアップする。


 現在配信画面には『ちょっとまってね』と書かれた淡い水色を基調とした待機画面が展開されており、陽気なフリーBGMが流れている。

 配信開始直後は人も集まっておらず、その状態から話し始めてしまうと通知を見て飛んで見に来た人しか配信の冒頭を見ることができないので、三分ほどは配信を待機状態にする。


 三分経って、同時接続者は10人ほど集まった。配信ソフトを操作して待機画面をフェードアウトさせ、リアルタイムのコメント欄を右側に配置し、反対の左側にはアコースティックギターの黒い影のようなイラストを配置した雑談&弾き語り配信用の配信画面をフェードインしさせる。

 それと同時に掛けていたBGMをほのぼのとしたBGMに変化させ、マイクのスイッチをONにした。


「はいどーも、キョウでーす。本日はね、弾き語り配信の傍らに雑談配信をしていきまーす」


 ギターのコードを適当にアルペジオしながら、配信を始める挨拶をする。

 キョウにはお決まりの前口上のようなものはないがギターで演奏しながら挨拶をするのがお決まりとなっている。


 星猫『こんばんわ!』

 rei『ばんわ』


「お、星猫さんにreiさん、さっそくコメントありがとね。今日は最初の何曲か歌ってから雑談に移行してく予定だから、よかったら最後まで聴いていってね」


 少しだけコメントが流れる。

 やはり配信開始してまだ時間がたっていないのでリスナーが集まっていないため通常よりもコメントの流れが遅いが、配信が始まってすぐに来てくれるようなリスナーのほとんどはコメントを残してくれるタイプのリスナーなので、人数の割にはコメントは流れている。


「じゃあまず最初の曲なんだけど、特に決めてないからリクエスト聞こうかな」


 基本的にあらかじめ何を歌うか決めることはあまりない。その場の雰囲気や、リスナーからのリクエストに応えて何を歌うかを決める。


 ポツリポツリと楽曲をリクエストするコメントが流れる。ジャンルはバラバラでJ-POPからアニソン、洋楽やロックなど様々なリクエストが寄せられる。

 その中から目に留まったのは星猫さんのリクエストで、その曲は今朝星野さんが見ていた動画でキョウが歌った曲だった。


 ますます星野さん=星猫さん疑惑が強くなる


「んー、そ、それじゃあー、reiさんのリクエストにしようかな!」


 なんとなく星野さんに見られているかもしれないと思うと気恥ずかしくなってしまい星猫さんのリクエストに目は止まったもののリクエストに答えることができなかった。


「それでは一曲め、聴いてください______」


 そして、reiさんのリクエストソングである、DADWIMPSの曲を歌い始める。


 心地のいいギターの音色がマイクを通してreiや星猫の耳に届けられる。体の芯が震えるような歌声とギターの音色の調和がリスナーの心を溶かしていった。


 キョウの歌声は大手レコーディング会社に勤める父も認めるほどのもので、配信者になって毎日のように歌うようになってからはめきめきと上達し、歌声だけなら一流の歌い手系配信者に負けず劣らずの光るものがある。


 ただ、歌が上手いからと言って有名になれるほど、配信者業界は単純ではない。配信者として有名になるには数多くの人に認知してもらうためのきっかけが必要となる。

 キョウ自身に自覚はないが、きっかけがあり、それをものにすることができれば、キョウは有名配信者になりうるポテンシャルがある。


 閑話休題。


「~♪」


 合間合間にちょっとした雑談を交えながら弾き語りを続けること一時間。

 歌ってきた曲の数も10曲に迫り喉も疲れてきたところで、そろそろ本題の雑談に移行しよう。


「ふぅ、歌った歌った~、そろそろ喉も労わりたいし、本題の雑談タイムに移行しようか」


 歌と歌の間に「この曲はいいね」とか、「この曲のここが好き」と言った軽い雑談は残でいるものの、本題である例の質問箱の件については一切触れていない。


 星猫『お疲れ様でした!ちゃんと水分取ってくださいね!』


「あ、星猫さんありがとー、じゃちょっと水飲むね」


 コメントに促されるまま、水を飲む。


「ぷはー、生き返るわ~、それじゃあ雑談に入って行こうと思うんだけど、実は今日は一つやりたいことがあるんだよね」


 星猫『やりたいことですか?』

 rei『なんだろう』

 与一『わくてか』


「ジャーン!なんと超久々にまかろんが届きましたー!なのでその返答をまずしていこう!」


『友達にキョウくんのことを推していることがバレてしまいました、どうすればいいと思いますか?』


 昼に届いた匿名質問箱まかろんで投げかけられた質問の画像を配信画面に出力した。


 星猫『!』

 rei『何か月ぶりだろうね』

 与一『キョウの事推してる人なんていたのかw』


「失礼だぞ与一!俺の事推してくれている人だってそりゃいるさ!いるよね?」


 星猫『わ、私は推してますよ!』


「ありがとう、星猫さん、おかげで今日も頑張れるよ・・・」


 rei『君の歌声、私は好きだよ』


「reiさんまで・・・」


 投げかけられた暖かいコメントに感極まる。


「うれしいよ、本当に・・・、今まで配信者してきた中で一番うれしい出来事だ・・・、さて!こんなかわいい質問してくれた人にはズバット返答しないとね!」


 この質問が星野さんからのものかもしれない、という事を考えた時からキョウにはとある作戦があった。


 その作戦とは____________。


_____________________________

すこし修正しました(02/15)

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