第19話 鈍感主人公というやつ
しばらくの間、ムーズは住宅街を走り続けた。
如何にも高級住宅といった外観の家を何軒も通り過ぎると、一軒のモダン調の家が現れた。
そのときに、ようやくサザナミはムーズを停止し「ここだ」と簡潔に終着点であることを二人に告げた。
「うわー! ここが神様の持ってる家⁉︎ オシャレっすねー!」
目を輝かせる夢宙とは対照的に、ガラガラは舌を出し、チロチロと動かしながら、その空間に本当は何があるのかを把握した。
「これは、ダミーと推測」
「ダミー?」
純粋な疑問を問いかける夢宙に、サザナミが「そうだ」とガラガラの言葉に同意するように続けた。
「この住宅街は、全て存在しない」
「……してません?」
「そう見せているんだ」
サザナミが夢宙とガラガラに降りるように促す。二人は大人しく従い、言われるがままムーズから降車した。
夢宙は目を凝らして近くで見てみたが、サザナミの言っている意味を真に理解することは出来なかった。
サザナミは、地面に刺さっているランプに手を伸ばし、クルクルと時計回りに回している。
夢宙は首を傾げながら、サザナミの行動を静かに見つめた。
すると、今まで普通の住宅街だと思っていた場所に、無機質な四角い施設が何個も現れ始めた。
それを見た夢宙は「え……。さっきと全然違う……」と、少し気分の下がったような声色を発した。
「住宅街はフェイクだ。ホログラムで映し出している」
「す、すげぇ……けど、わざわざ住宅街に変える必要は無かったのでは……?」
突然現れた建物に驚きつつも問いかける夢宙に、サザナミは「ふむ……」と手を口元に当てる。
「雨浦は、こんな無機質な建物がズラリと並んでいたら、気にならないか?」
「めっっっちゃ気になる!」
「そうだろう。注目を浴びないに越したことはない」
「え? なんでっすか?」
「……恐らくお前のことを、神世宗司は探すからだ」
夢宙は「なるほど〜!」と、わかりやすく感心した。
サザナミは色々と心配になり、思わず目頭を抑える。
「そういや、今はバレてないの?」
「……神世宗司は研究員に興味がないからな。俺の行動は監視されていない。裏切ったことは、もう気付いているらしいが」
「そっか。だからあの襲ってきたゲラは神様を狙ってたのかー」
一人で「なるほどなるほど」と納得する夢宙を見ながら、サザナミは「そこには気が付くのに、何故自分のことになると鈍感になるんだ?」と声には出さず疑問を浮かべた。
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