第10話 神世宗司

 ガラガラは特に抵抗もせず、無言で夢宙を見つめている。


「てか何で私、倒れてたんだ?」

「恐らく、あいつに撃たれた」

「アイツ?」


 夢宙は、ガラガラが指差す方向へと視線を向ける。

 何かが落ちていることには気がつくが、それが一体何なのかは理解できなかった。


「ん……? 何だあれ」

「むちゅー、近づかないほうがいい」


 それでも気になってしまった夢宙は、その物体を確認しようと歩み寄った。


「あー? なんか赤い……」


 こんな何気ない路上に落ちているものは限られている。

 しかもここは神世研究都市と呼ばれる科学が発展した都市で、富豪が住んでいる場所でもある。ゴミなどが落ちていることは極めて稀で、石ころあたりが関の山なのだ。


 だから、理解が遅れた。


「……はっ」


 夢宙はその物体を理解する。いや、理解といったほうが正しいだろう。

 夢宙は力が抜け、重力に任せて再度、地面に座り込んだ。目の前の物体に意識を持っていかれているので、痛みなどは感じなかった。


「は、はは……。今度は、さっきのより……グロいじゃん……?」


 夢宙は、この場に似つかわしくない笑顔を浮かべる。ギリギリの状況で出てきた、自分を守ろうとする笑顔だ。


「むちゅー」


 死体を隠すように、夢宙の視界にガラガラの足が入り込む。


「これ、あのゲラが持ってた」


 夢宙の目の前にしゃがみ込んだガラガラは、ゲラから渡された四角い機械を差し出す。


「何に使うかわかる?」

「あ……? あぁ……。通信機器だな。一人にしか繋がらない安いやつ。普通にボタン押せば使えるぜ」

「ほう」


 ガラガラは躊躇することなく、起爆スイッチを押すように親指でスイッチを押し込む。

 すると、スイッチの付いている場所とは逆の位置から、扇形のホログラムが浮かび上がった。

 ホログラムには「呼び出し中……」という文字が表示されている。


 ガラガラは無言でスイッチとホログラムの位置を反転させ、機械を手のひらにちょこんと乗せた。


「つーかそれ、どこに繋がるやつ?」

「わからない」

「わからないか……」


 通信機器は等間隔で光りながら、軽い音でコール音を響かせている。

 三コール目に差し掛かろうとしたとき、通信機器が応答モードに切り替わった。


 画面には、顔全体を覆う仮面をつけた人物が表示された。


『——もしもし。見えてるかな?』


 その人物は手を振りながら、夢宙とガラガラに確認を取っている。


「見えてまーす」

『お。見えてるし聴こえてるみたいだね』


 表情の見えない仮面の奥から、フランクな口調と柔らかい声が聞こえてくる。

 無機質な外見に反して、柔和そうな男だ。


 警戒心の薄い夢宙は、この一瞬で目の前の男に対して「悪いやつじゃなさそーだな」という印象を抱いていた。


 仮面の男は「こほん」と軽く咳払いすると、意を決したように喋り始めた。


 『初めまして。夢宙、そしてガラガラ。僕の名前は神世宗司かみよそうじ。守世研究所の研究員をしている』

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