デュラハン聖女 ~すみません。私の胴体の居場所、ご存知ないですか?~
水無瀬
第1話 首だけ女
「すみません、この辺で聖衣を着た首無しの死体を見ませんでしたか?」
「え…………首が、浮いてる!?」
「あ、あのう、怖がらないでください。私は怪しい者じゃなくて──」
「く、首だけ、女だぁああああああ!!」
私の顔を見た旅人は、そう言ってどこかへと走り去っていきました。
人の顔を凝視しながら叫ぶなんて失礼しちゃいますね。
でも、仕方ないかも。
だって私、首から上しかないから。
私は街道から外れたところにある、泉の前まで移動しました。
泉を覗き込むと、水面が反射して鏡のように自分の姿を映し出します。
「この見た目じゃ、怖がられるのも無理ないよねぇ……」
胴体から離れた、首がゆらりと浮いている。
そう、それこそが私!
私、首だけになっちゃっているんです!
でも、安心してください。
手足となる胴体が、しっかりと存在してるのです。
首元がないから頭と胴体が離れているけど、私は生きている──うん、たぶん。
なんでこんなことになってしまったのかと思うと頭が痛いけど、くよくよしても仕方ない。
目的のモノを見つけるまでは、死んでも死にきれない。
元の体に戻るため、私は目的の街へと向かって歩き出す。
その街は帝都というだけあって、祭りでもしているのかと思うくらい賑やかでした。
どこを見ても人、人、人。
それなのに、別にお祭りをしているわけではないみたい。
まだ首が繋がっているときに訪れた帝都は、人口数百人くらいの村だったはず。
それがいまや、10万人以上の人が住んでいるのだというから、時の流れというのは恐ろしい。
そうして運良く検問所で首元をチェックされなかった私は、とりあえず酒場を目指すことにしました。
マフラーほど頼りになる装備はない。
こんなに巨大な都市なのだ、私以外にも一人くらいはマフラーを愛用する首無し人間がいてもおかしくはない気がしますね。
大通りにある酒場の扉をくぐります。
この酒場は冒険者や旅人などが好んで利用しており、帝都の情報通がたくさん集まる場所なのだと検問所で教えてもらった場所です。
私のような人間が珍しいのか、酒場中の視線が入り口にいる私に注がれました。
一瞬、マフラーが取れて首がないことがバレてしまったのかと思ったけど、違った。
彼らは私のことを一瞥すると、興味をなくしたように酒を口へと運ぶ作業へと戻る。
私はカウンターの席に座ると、適当に飲み物を注文します。
運ばれてきたグラスに見向きもせずに、ただ座り続ける。
しばらくすると、軍服姿の一人の青年が近づいてきました。
「君、一人かい?」
「一人といえば一人ですが、部分的に二人であるとも言えますね」
「面白い子だね。隣いいかな」
金髪のその男は、控えめにいってかなり整っている部類の人間でした。
第一印象は、優しそうな金髪イケメン。
さぞかしモテることだろうと思ったけど、特段私の顔つきは変わらない。
なのに不思議と、私の胴体が震え出す。
体が、緊張しているのだ。
「君、とても綺麗だね。見たことない顔だけど、帝都は初めてかい? 一人旅でもしているのかな?」
「帝都は初めてではないのですが、訳あってこの身で旅をしています」
「なら帝都には観光かい? 中央神殿にある聖遺物『嘆きの乙女』は、国外からも観光客が訪れる帝都一の有名スポットだからね」
「なるほど中央神殿ですか、良いことを教えていただきました」
「もしよければ、明日にでも帝都を案内しようか? 女性の一人旅は危険だ。特に最近は、近くの森に『首だけ女』が出るって噂だからね」
「……首だけ女?」
「デュラハン女といったほうが有名かな。古代遺跡に眠っていた
「怖い話ですね、アンデットとはあまり会いたくないです。生きているのか死んでいるのかもわからない相手なんか、特に」
青年と話をしている最中、私の頭は虚無でした。
だというのに、胴体が異常事態だというほど激しく高鳴っているのがわかる。
どうしたものかと胴体を見下ろすと、ちょうど隣の男の手が体に伸びてきた。
胴体の手を握ると、青年は私に微笑みかける。
「ボクの名はアドラー。帝都で有名な氷魔法使い【銀氷のアドラー】といえば、ボクのことさ」
「すみません、帝都には久しぶりに来たのものですから……」
「まあ田舎から出て来たのなら仕方ないか。実はね、お嬢さんをひと目見たときから、聞きたいことがあったんだ」
「別に私は、あなたに用はありませんが?」
「ボクは君のことが心配なんだ。この帝都では最近、若い女性が失踪する事件が多発しているからね」
「安心してください。これでも私、そこまで弱くはないので」
そういえば、帝都に入るときの検問所でも同じことを言われた。
犯人はいまだに捕まっていないらしく、帝都は大騒ぎになっているらしい。
「ねえお嬢さん、さっきからずっと気になっていたんだが、君の指は──とても綺麗だね。水仕事なんてしたことがない、貴族のような美しい指先だ」
青年が胴体の指を手に取り、優しく触れる。
彼は手は指を離さなかったが、その視線は胴体へと移った。
「それに君のその絹のドレスは平民が一生働いても買えないような高級品だね。腰のコルセットも引き締まっていて、従者がいないと着替えることもできない貴族令嬢を思い浮かべてしまう。さぞかし名家のお嬢さんなのだろう」
「私はただの旅人ですよ」
「なら、教えてほしい。この指輪──」
青年は、私の左手へと視線を戻す。
その左手の薬指を執拗に撫でながら、こう告げる。
「なぜボクの婚約者がつけていた指輪を、君がつけているんだい?」
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