仕事終わりのアイスティー

 インタビューの仕事は嫌いだ。


 いつも同じようなことを聞かれ、愛想よく相手の欲しい言葉を返していく。


 早く瀬奈と二人きりになりたい。


 隣に座る瀬奈に目をやると素敵な作り笑顔でインタビュアーと話していた。仕事用の顔はオフと違って凛々しさを感じて、いつまでも見ていたくなる。


「佐奈、佐奈!」


 名前を呼ばれ、見惚れていた私は現実に戻された。


「佐奈、質問聞いてた?」


「ご、ごめん。聞いてなかった」


 三人の輪にクスクスと笑いが生まれる。


「佐奈さん、多忙だから」


 気を使われてとても恥ずかしい。ごめんなさいと言いながら、もう一度質問を聞いた。


「佐奈さんにとって瀬奈さんはどんな存在ですか?」


 『恋人』とすぐに口から出そうだった。だから、濁すように『大切な人』と照れるように答えた。






「ところで、さっきのは何?」


 あのインタビューの後、瀬奈と私は新宿アルタ横のカフェにいた。アイスティーを二つ注文してからすぐ、さっきのインタビュアーへの返答について瀬奈に問い詰められていた。


 瀬奈は周りに聞こえないように小さな声で注意を促す。


「私たちのこと、バラす気? ああいうのは二人きりの時に、ね」


 見つめていたこともバレていたみたいで謝ることしかできず、小さく頷いた。


 それから程なくテーブルに運ばれたアイスティーにストローを挿し口を付ける。瀬奈の方を見やるとストローに口を付けながら私を見ていた。すると不意にストローから唇を離し、少し甘えたように……。


「どうしたの、佐奈?」


 それから何か思いついたのか、瀬奈は私のアイスティーに手を伸ばした。


「瀬奈、何してるの!?」


 びっくりしていると、こうするのと瀬奈は自分のアイスティーを私に寄越した。


「今はこれで我慢して」


 そう言うと、さっき私が口を付けたストローを軽く舐めてから一口飲む。仕草のひとつひとつがとても妖艶で、私の心まで吸われているようで嬉しさがこみ上げてきた。


 私は瀬奈のようにはできず、いつも通りアイスティーを飲み始める。




 二人だけが知るそのアイスティーは、とても甘い味がした。

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