エトワールたち1989 コンクール

snowkk

第1話 東京全国バレエコンクール 鹿島真美

 三月 東京


 第四十六回 東京全国バレエコンクール。

 三月下旬、東京で全国からバレエダンサーが集まる大きなコンクールが開催される。

 舞台ではジュニア部門の表彰が行われていた。入賞した六人のバレリーナが舞台に並んで表彰を待っている。鹿島真美かしままみは舞台の上で浮かない表情を見せる。

 六位から順番に名前が呼ばれ表彰される。六位は福岡のバレリーナ、五位は神奈川のバレリーナだった。


「ジュニア部門 第四位 エントリーナンバー 二三一番 藤沢華ふじさわはなさん」

 小さな頃からいつもコンクールで競い合っている藤沢華が四位で名前を呼ばれた。はなは微笑みながらも、少し悔しそうに真美の方を見ながら表彰状を受け取りに行く。

 彼女は『ダイアナとアクティオン』というバレエ作品のダイアナのヴァリエーションを得意としている。バレエの世界で『踊り』のことをヴァリエーションという。


「これより上位三名の表彰となります」

 客席がどよめく。


「ジュニア部門 第三位 エントリーナンバー 四五七番 鹿島真美さん」


 真美がこの舞台の上で、まだ名前を呼ばれてない二人の表彰者を横目で睨むように見ながら表彰状を受け取りに行く。エスメラルダの衣装が美しい光をかえす。ここ数回のコンクールで踊る様になった『エスメラルダ』のヴァリエーションは、まだ技術が安定していなかった。それでも表現力は素晴らしく、審査員を十分納得させるレベルだった。


「ジュニア部門 第二位 エントリーナンバー 七〇八番 橘麗たちばなうららさん」

 真美とはなが目を見合わせた。橘麗たちばなうららはコンクールでいつも『眠れる森の美女』のオーロラのヴァリエーションを踊っている。彼女は京都の名門バレエ教室、宝生鈴ほうしょうりんバレエスタジオのバレリーナでバレエ界の期待の星と噂されている。

 真美や華は関西バレエ協会のイベントで何度もうららと顔を合わせ、コンクールでも競い合っている。

 うららはまったく喜ぶ素振りを見せず表彰状を受け取りに行く。

 三位の真美と四位の華は並んでうららを見つめていた。

「なんや二位で、喜べよ、なあ」

 華が真美に呟く。

 真美とうららがただ一人名前を呼ばれていないダンサーを睨むように見つめる。


「ジュニア部門 第一位 エントリーナンバー 八一二番 森川有紀もりかわゆきさん」


 舞台上で表彰状を持った五人の視線が森川有紀というダンサーに集まる。

 実力は他の五人と比べ飛び抜けて凄かった。踊りも最高難度の『グラン・パ・クラシック』のヴァリエーションを既に自分のものにしているという感じだった。

 柔らかい微笑みを浮かべながら他の五人のダンサーに会釈をして表彰状を受け取りに行く。

 真美が苦笑いしながら呟く、

「なんや、私らにお辞儀なんかいらんがな」

「ほんまやな。何お姫様みたいな振る舞いしとんねん。なあ、うらら

 と言いながら華がうららに目線を向けるが、うららはそんな二人の会話を無視するかの様に何も言わず、冷たい目線で有紀というダンサーを見つめている。

 完全にうららに無視された華が真美の方に向き、

「あかん、うららもお姫さまやった」

 と言って真美と笑う。

「静かに!」

 と審査員の先生に叱られ下を向く華と真美。


 表彰式が終わり控え室に帰ると真美のバレエスタジオの先生、宮崎美香が待っていてくれた。真美の通う宮崎美香バレエスタジオからは、真美を含めて四人の生徒がこのコンクールに出場していた。

 シニア部門に出場した先輩ダンサー相川奏汰あいかあわかなたが二位を受賞した。そして、後輩の二人が予選通過という成績だった。


「三位おめでとう。頑張ったやん」

 美香が優しく真美に声を掛ける。

「ありがとうございました。奏汰かなたさん、二位おめでとうございます」

 美香に礼を言い、先輩の奏汰かなたにお祝いの言葉を掛ける真美。

「ありがとう」

 奏汰かなたが微笑む。

 一緒にコンクールに付いて来てくれた佐岡葉月さおかはづきというバレエ教師が真美のところにやって来た。

「おめでとう真美。審査員の先生らが二位のうららとは僅かな差やったて言うてたで」

「ありがとうございます。僅かな差で勝ちたかったわ。ところで、あの一位の人は?」

「あれは別格や、今度ローザンヌ行くらしいわ」

「ローザンヌ国際バレエコンクールか」

「うん、そんなん言うてた」

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