五章 勇者再来


南方地方 南方 ゆうおう国 宮殿内 病棟 個室


 南方地方西方最大の国「あまいろ国」での戦争終結から二週間が経過した。あまいろ国は国民全員が魔王軍との戦争で抹殺され、この戦争で残った兵士は、王国軍の援軍と共にいない。

 この戦争の唯一の生還者は、俺とジャスミン、俺たちを助けに来たというミモザの三人だけだ。

 魔王軍は「八ツ橋」の一人、ヒメユリがジャスミンとミモザによって死亡したことにより、一度南方地方に侵攻をしていた軍を撤退させている。さすがの魔王も予測はしていなかったのだろう。

 あまいろ国を含む、南方地方西方の被害は簡単に語れるものではなく、復興には相当な時間がかるだろう。それでも、あまいろ国が国を賭けて戦ったことには大きな意義があり、その結果がひそく村を含む、小さな村を守ったと言っても過言ではない。

 この戦争で失ったものは大きい。多くの人、国が失われた。それでも、魔王軍最強と言われた「八ツ橋」を倒した戦績は大きなもので、俺たち三人の名前が世界中に届くのは遅い話ではなかった。

 ミモザの名前は彼女の魔法のこともあって伏せた方がいいという話もあったが、彼女は、「え? でも、今考えたんだけど、私、魔力消せるし、強いし、それに、顔が知れた方が世界中の可愛いものや美味しいものに触れられるじゃない? ファンとかできちゃったりしてー」と謎のポジティブ思考を発揮したらしいので、もう放置されたらしい。

 俺とジャスミンの怪我は、酷いもので、ミモザが助けに来なかったら、死んでいたらしい。ミモザの魔法と応急処置、ジニアさん含む、国の凄腕医師の活躍により、なんとか俺たちは一命を留めた。

 しかし、身体が今までのように動くには当分の年月が必要で、俺は自分で起き上がって松葉杖で動けるようになるまでに二週間が経っていた。

 ジャスミンの方も同じくらいの時期に車椅子で動けるようにはなっていた。どうやら、魔力回路に大きなダメージを負ったらしく、全身の魔力どころか筋力がコントロールできない状況らしい。

 クルクマ様が用意してくれた宮殿内の大きな病棟にある個室に俺とジャスミンはいた。

「ほら見て見ろ? 少しは動けるようになったぞ」

 俺は松葉杖をつきながら簡単に部屋内を動き、その様子をベッドの上で身体を起こし、窓の外を見つめるジャスミンに見せる。

「良かったな。無駄に頑丈な身体で」

「無駄とはなんだ。でもまあ、確かにそうかもな」

 死んでいた。俺はあの時、死んだはずなんだ。でも、今こうして俺たちが生きているのは。

「ミモザに助けられちまったな」

 複雑な気持ちだ。彼女を戦争に巻き込みたくないという気持ちでいたのに、俺たちは結果的に彼女を巻き込んで、彼女に命を救われた。

 なにが彼女を守るだ? 守られてるじゃねーか。

「そう否定的に捉えるな」

「でも」

 ジャスミンの顔にはいつものように余裕のある表情はなく、代わりにあるのは悔しさで満ちた顔だった。

「お前……」

 俺は思わず、言葉を詰まらせてしまった。無理もない。あのジャスミンが目の前で涙を流しているのだから。

「私は、守ることができなかった。多くの人を死なせてしまった。自分の手が届く場所にいた兵士でさえもだ。私の判断で死なずにすんだ者もいた。私は、私は、愚か者だ」

 悔しいのは俺だけではない。なんで俺は自分のことしか考えてないのだろう。部隊の編成から作戦まで考えたのはジャスミンじゃないか。その結果が、生存者が俺たちだけ。一番責任を感じているのはジャスミンじゃないのか。

「二人ともー! 元気ー?」

 しんみりとした空気をぶち壊す明るい声の正体は言うまでもなく、ミモザである。

「ど、どうしたの? なんか空気死んでない?」

 そうか。ミモザは目が見えないから、ジャスミンの表情は見えてないのか。

「いやー、えーっとだな」

 俺がなにか上手いこと言えないかと考えていると、ジャスミンは気がつくといつもの様子で口を開いていた。

「特になにもない。それより、私たちに用があったんじゃないか?」

「そうそう! 二人とも、今から外出れる? と言ってももうそこまで馬車が来てるんだけど」

「馬車?」

「うん! 世界を救った英雄の顔をみんなが見たいんだってさ」

 世界を救った英雄。って、俺たちのことか?

「それって、行かないと駄目なの?」

「なんでそんな消極的なのよ」

「だってー、ちなみにそれってどこまで行くの?」

「国内のど真ん中にある中央通りよ!」

 ゆうおう国で一番、大きな通りで、一番に人が集まる場所じゃねーか。

「パレードみたいな感じで、盛大にみんなが祝ってくれるなんて! いっぱい美味しいもの食べられそうじゃない?」

「行く理由が卑しいなお前」

「な! べ、べつに! 私はせっかく二人が頑張ったのに、誰からも祝われないなんて可哀想だからあえて、誘ってあげているのよ? べつに、私が美味しいご馳走を食べたいだけとかじゃないから!」

「全部本音言ってるし」

「ふっ」

 俺とミモザのやり取りを見て、ジャスミンは少しの笑みを浮かべる。

「なに笑ってるんだよ」

「いや、別に」

「さっきまで、泣いてたくせに」

「お、おい。貴様」

「えー? なになに? ジャスミン泣いてたの?」

「そうなんだよ。聞いてよー」

「貴様、それ以上口を開いて見ろ。今すぐにその首飛ばすぞ」

 いつものやり取り。いつもの日常。またこうして、俺たちに「いつも」が訪れたことが奇跡みたいなものだ。

 俺とジャスミンはそれぞれ身支度を整え、病棟前に待機しているやけに豪華で大きい馬車に乗る。

「嬉しそうだな」

「え? そうかしら?」

 隣に座るミモザがやけに上機嫌なので聞いてみる。

「そうね。だって、自分たちが頑張ったことに対して誰かから褒めてもらえるなんてそれ以上に嬉しいことなんてないじゃない?」

 彼女は知っている。自分がどれだけ人のために動いても、称賛されるどころか否定をされる者の悲しみを。

 そうか。このパレードには彼女を含む、俺たち三人が初めて、世界中から感謝をされるという経験をする意義があるのか。

「そうだな」

 俺たちは、似ている。みんな、自分たちが生まれてきた意味を求め、探し続けてきた。

 そして今、俺たちは出会い、成果を残し、称賛されるのだ。

 ちょっとだけ、自分の存在に誇りを持てる気がした。



南方地方 南方 ゆうおう国 中央通り


 俺たちはやけに豪華な外装と内装に数え切れないほどの護衛兵士が囲む馬車に乗って、ゆうおう国最大の通りである中央通りに来た。

 ここに来る途中も、多くの国民に称賛された。正直、ここまで認知されているとは思いもしなかったので驚きだ。

 中央通りに着き、俺たちは馬車の部屋から出て、馬車の上にある高台に立った。

 多くの国民が、馬車が通る道を空けて、囲むようにして並んでいる。少なく見ても、千、いや万はいるか? ともかく凄い人数だ。

「ありがとー!」

「俺たちの国を守ってくれてありがとう!」

「私たち、家族を守ってくれてありがとう!」

「ジャスミン様!」

「ミモザ様!」

 善意溢れる称賛の声から黄色い声まであらゆる声が空気を交差するように飛び交う。

 こうしてみると、自分たちのしたことがどれだけの人のためになったのかが実感できる。

「お前たちが国の流行り病の要因も解決してくれたんだってな?」

「本当にありがとう!」

 右を見ても、左を見ても、俺たちを暖かく迎えてくれる声と、人ばかりだ。

「良かったのかな?」

 俺は隣にいるジャスミンに声をかける。

「なにがだ?」

「俺は、確かに魔王軍を撃退したいと思っていたけれど、それはこのまま放っておいたらひそく村が危ないといる理由が一番にあったからだ。それなのに、こんな国の英雄みたいに」

「別に、なにも可笑しいことはないだろう」

「え?」

「理由はどうあれ、貴様は魔王軍と戦い、強い魔人を一人で倒した。その結果が魔王軍撤退という功績を残したのだ。貴様の行動が国を救ったことに変わりはない」

「そうか。なんか、いまいち実感が湧かないな」

「意外と謙虚だな」

「そういうお前はどうなんだよ?」

「私か? そうだな……」

 ジャスミンは考えるように顎に手を当てる。

「嬉しいよ」

 白くて透き通るような肌に太陽の光が当たって、微笑むジャスミンの顔はこれ以上にないくらいに美しかった。

(ほんと、良かったね。顔に傷が残らなくて)

「お、おう。そうか。そういうお前はやけに素直だな」

「ああ。私も自分でびっくりしするほど、清々しい気分だ」

「ほら、二人ともイチャイチャしてないで、国民にファンサービスしなきゃ!」

『な』

「おい、なにがイチャイチャだ」

 やめろ。本当にやめてくれ。そう言われると余計に、ジャスミンが変な目で見えてしまう。

「貴様、失礼なことを考えているだろう?」

「うん? 別に? そんなことねーけど?」

 俺はジャスミンの鋭い視線をかわして、国民の方へ視線を戻す。

「勇者様!」

 勇者? 聞き慣れない単語に思わず、疑問視してしまう。そんな俺の様子を見てか、ミモザが声をかけてくる。

「なに、ぼさっとしてるの? 貴方のことよ?」

「は?」

「貴様、新聞見ていないのか?」

 ジャスミンは呆れた様子を見せる。

「田舎村出身の学校にも通っていない戦士が、魔王軍との戦争に自ら進んで志願し、魔王軍『八ツ橋』の一人の部下である魔人を倒したと大々的に記事になっていてだな。それを見た民衆が貴様のことを『勇者』と名付けたそうだ」

 ポカンとしている俺に追い打ちをかけるように、ジャスミンは言葉を並べる。

「おまえけに、私たちが倒した封印魔獣のことも記事になっている。貴様は今や世界ではこう呼ばれているらしいぞ? 『勇者の再来』と」

 勇者。千年前に魔王軍との大戦争で、世界を救ったパーティーのリーダーに付けられた二つ名。その名「初代勇者」は今でも世界の伝説として世界の憧れである。

 その名が俺に?

「なに、涙なんか流しているのよ?」

「な、泣いてないし。てか、お前、目見えないだろ?」

「分かるわよ。貴方が嬉し過ぎて泣いていることくらい。見えなくたって、私には見えているんだから」

 ミモザは優しく俺の頬に伝う涙を拭ってくれた。

「ユーカリ。喜べ。私たちは勝ったんだ。悔いることも多くはある。だが、それは自分たちで反省すべきことだ。今は英雄として、国民の声に答えよう。それも、私たちの役目だ」

 手が震える。俺は、やったんだ。そうだ。俺は。

 自覚した途端に溢れ出る感情が声になって叫ぶ。

「おおおおおおおおおお!」

 いつの間にか俺は国民に向けて叫んでいた。松葉杖を持たない方の腕を高く空に挙げる。

 その行動に対し、国民はまた大きな称賛と共に、拍手をしてくれた。

「忘れるな。この感覚を、私たちはもう、一人じゃないんだ」



南方地方 南方 ゆうおう国 宮殿


 中央通りの盛大なパレードから二ヶ月が経過した。俺とジャスミンはようやく自分の身一つで動けるようになり、修行も開始できるようになった。

 だが、後遺症は大きく残っており、ジャスミンはまだ魔力操作は思うようにはいかないらしい。

 俺の方も、全身の動きが鈍く、まだ本調子には時間がかかりそうだ。

 ようやく俺たちが動けるようになったということもあって、今日は宮殿に招待されている。

「顔を上げよ」

 クルクマ様の声と共に、俺たち三人は顔を上げる。

「改めて、此度の戦。見事であった。お主たちの活躍無しに魔王軍撃退は成し遂げられなかったのは言うまでもない。お主たちの成果は西方だけに限らず、私たちゆうおう国をはじめとする世界中の国と民を守った。世界を代表して礼を言う。ありがとう」

 微笑むクルクマ様の表情はとても美しく、清々しいものを感じられる。

「ユーカリとジャスミン、二人は怪我の具合はどうだ?」

「はい。私の方は順調に回復しております」

「と言っても、魔力の扱いがこれまでのようにはいかないと聞いている」

「はい……ですが、必ず今まで以上の実力をつけて見せます」

 ジャスミンの言葉にクルクマ様は首を縦に振って答える。

「ユーカリ。お主の方はどうだ?」

「あ、俺の方も回復しています。けど、魔力はもともと人並み程度にしかないんで大丈夫なんですけど、身体の筋力の方が上手くコントロールできなくて」

 思うように剣が振れない。力が思うように入らないなど不便なことはたくさんある。

「ふむ。そんなお主たちに話がある」

 俺たちは顔を見合わせて、なんだ? と言わんばかりにクルクマ様の方を見る。

「南方地方東方の最も東に『むらさき村』という小さな村がある」

「え? 私知ってる!」

 場を謹んでか、今まで大人しくしていたミモザが声を高らかに上げる。

「なんだよ。急に」

「クルクマ様! むらさき村ということはもしかして『蘇りの湯』に入れるということですか?」

「蘇りの湯?」

「あら? ユーカリ知らないの? さすが、田舎出身ね」

「さり気なく田舎馬鹿にするな」

「蘇りの湯は、特別な魔力が込められた天然温泉で、傷ついた身体はもちろんのこと、その湯に浸かったら心までもが癒されるという世界で最も有名な三大温泉のうちの一つよ」

「おー、そんな凄いのか?」

「当たり前じゃない。普通なら一般の人は入れないのよ。特別な功績を残した兵士の傷を癒すためのものだから」

「へー」

「クルクマ様!」

 ミモザはキラキラした目をクルクマ様にぶつける。こいつ、本当は見えているじゃねーの?

「う、うむ。ミモザの言う通り。その『蘇りの湯』の使用許可が下りている。存分に楽しんでくると良い」

「やったー!」

 こうして、俺たちは傷ついた身体を癒すために三人で南方地方東方にある「むらさき村」に訪れることになった。

 怪我を負った俺とジャスミンではなく、ミモザが一番喜んでいたことは言うまでもない。



南方地方 東方 むらさき村


 クルクマ様が用意してくれた専用の馬車に乗って俺たち三人は三大温泉の一つである「蘇りの湯」があるむらさき村を訪れた。

 村は高い山に囲まれ、その中でも頭一つ出た山の山頂にあった。専用の魔法でないと通れない仕組みになっており、村中には、雲で包まれるように白い空気が漂っていた。

 高い山の山頂にあるということもあり、空気が薄く、いつもより呼吸がしづらい。

「さすがのお前もここに来るのは初めてなのか?」

 村に着いて、辺りを物珍しそうに見渡すジャスミンに俺は言う。

「当然だ。ここは選ばれた戦士しか訪れることができない場所だからな」

「でもそんなに凄いならみんなが使えるようにした方が良くないか?」

「『蘇りの湯』は特別なものだ。山の魔力の流れ、空気の質、それらが合い重なって、初めてその湯は天然温泉として生まれる。人間の計らいで作ることのできない特別の湯だ」

「ほー」

 俺たちが世間話をしているうちに、村の人らしき若い男性が俺らの方に近づいてくる。

「よーう。あんたらが噂の『勇者パーティー』か?」

『は?』

 俺たち二人は思わず同時に声を出してしまう。

「そうです!」

 ミモザは男性の言うことなど気にせず明るい表情だ。

「待っていたぜ? ようこそ! むらさき村へ。俺の名前はエゴノキ。この村の管理を任せられている言わば村長だ」

 三十前後と思われる見た目と若さでこんな偉大な村の村長を任されるとは。

「私はジャスミンと申します」

 ジャスミンは挨拶代わりに片手を差し出す。握手を求めているのだろう。エゴノキはそれに慌てて自分の手を差し出し、両手でジャスミンの差し出された片手を掴む。

「お、おおお、なんて、美人だ。新聞にもなっていたが、ここまでとは……」

 もう、ジャスミンも諦めているのか、俺たちも特に否定するような行動はしなかった。正直、面倒くさい。

「村長ということは『蘇りの湯』の管理もエゴノキさんがなさっているのですか?」

 ジャスミンは俺たちの聞きたかったことを代表して聞いてくれる。

「あ、おう。蘇りの湯は俺の家系が代々管理しているぜ?」

 なるほど。エゴノキさんの家系が蘇りの湯を代々管理しているということは、技術もしっかり受け継いでいるのだろう。なら、この若さで村長を任せられているのも納得がいく。

「お若いのに立派ですねー」

 ミモザは妙に大人びた様子で口を開く。これは、猫を被るというやつか。

「いーや、俺はまだまだだよ。一昨年、父が急死してしまって、まだ、技量も知識も未熟なものに俺が任せられるしかなかったんだ。代々家系に受け継がれてきた温泉に関する技術や知識は秘伝だから俺しか知らなかったし、俺には兄弟もいなかったから」

「そうだったんですね」

「でも! 安心してください! 自分が未熟だということは自覚してはいるが、それなりに腕があることも自負しているつもりだ」

 エゴノキさんは自分の腕に自信があるというよりかは、自分の父や祖父と代々受け継がれてきた技術や知識に自信があると言ったような感じだった。

 気がつくと俺たちは大きな旅館の前まで来ていた。

「さあ、上がって。今日はくつろいでいってください。今宵は英雄を俺たちがしっかりともてなすので!」

 温泉は男湯と女湯に当然分けられていて、俺とジャスミンはミモザと分かれると、二人で男湯まで来た。

 着替えの時からできるだけジャスミンの方へは目線を向けないようにして、俺は温泉がある浴室へと入った。

 身体を洗い、湯に浸かる。普通の温泉と同じだ。湯は熱く、肌に吸い付くように染みて、肌の内から身体を綺麗にしている感覚に襲われる。

「これは」

 言葉出てしまうほどに、凄い温泉だ。ずっと、力の入らなかった筋肉もちょっとずつほぐれて、今まで通りに動かせてしまう錯覚に陥りそうになる。

「確かに凄い湯だな」

 俺が肩までのんびりと湯に浸かっていると、少し離れたところにそっと腰を下ろすジャスミン。裸ということもあって、無駄に色気がある。

「お前、なんでこっちにいるの?」

「それはどういう意味だ?」

 今この場にいるのが俺だけで良かったぜ。ジャスミンのこんな姿、女性に限らず、男が見ても過ちを犯してしまいそうになる。ほんと、色々な意味で。

「身体の方は大丈夫なのか?」

 ジャスミンはヒメユリとかいう魔王軍最強の八人の一人との戦闘以来、魔力操作に苦労しているようだ。聞けば、今までのように魔法が使えないと言う。

 ジャスミンは医師だ。魔法が使えないということは医療魔法も使えないということ。それは現代の医師としては致命的なものだ。それに、ジャスミンの戦闘は魔法が軸となっている。魔法が使えないことはさぞや不便であろう。

「案ずるな。私は大丈夫だ。それより、自分の身体のことを心配しろ。貴様とて、未だ万全というわけではないのだろう?」

 ジャスミンの言う通りだ。俺は今もなお、全力で剣を振ることができないどころか、全力疾走すらできない状況だ。魔法は簡単な魔法なら使えるが、今までのような魔族の魔力を使った戦闘は身体に負荷がかかる。当分の間は使えないだろう。

「この先、どうすっかなー」

 俺たちは英雄となった。確かに魔王軍は一時、南方地方に侵攻していた軍を撤退させている。しかし、それは念には念をという魔王の意思が見られる。魔王がこの戦争に本気なのがよく分かる。慎重で頭が使えるという人物像も見れる。

 俺たちが英雄と言われても、また、魔王軍はすぐに戦争を始めるだろう。今も俺たちがこうしている間にも、南方地方に侵攻を開始しているかもしれない。魔王を倒したわけじゃない。八ツ橋だって、一人を倒したとはいえ、まだ七人もいる。

 全然、戦争終結に向けてはまだほど遠いのが現状だ。

「ジャスミンはどうするんだ? このままジニアさんのところで医師見習いとして修行を続けるのか?」

「私は……」

 ジャスミンは考えるように手を顎に当てる。こいつが考える時によくやる仕草だ。

「そういう貴様はどうするのだ?」

「俺は、やるべきことは変わんねーよ」

「魔王を倒すか」

「ああ。魔王を倒さなきゃ、魔王が世界にかけた呪いを完全に解除することはできない。本当の意味で世界に平和が訪れることはない。いつ起こるか分からない戦争に怯えて生きるなんてそんな辛い話ないだろう?」

 そうだ。迷うことは何一つない。俺がやるべきことは至って簡単な話だ。強くなって、魔王を倒す。それだけ。

「馬鹿にしないんだな」

 前にこんな話をした時は、ジャスミンに笑われたから。今のジャスミンは俺の夢よりも夢のような話を聞いても馬鹿にするどころか笑みすらこぼすことはなかった。

「約二年。貴様の姿をこの目にしてきた。誰でも、今の貴様が語るその夢を笑うことはしないだろう。それは、私も同じだ」

 ジャスミンの言葉に嘘はなく、素直に嬉しかった。

「おかげで、私も自分の進むべき道を見つけられそうだ」

 ジャスミンの表情に迷いはなく、覚悟が決まったかのようなこいつの顔を見てからは、それ以上聞くこともしなかった。

 こいつの人生はこいつのものだ。決断するのはジャスミン自身なのだから。

 世界三大温泉の一つ「蘇りの湯」を存分に楽しみ、浴衣に着替えて戻った部屋ではこれでもかというほどのご馳走が用意されていた。

 そこには浴衣姿で少し濡れた髪に湯船に入ったことによって赤くなった頬を浮かべるミモザがエゴノキさんに正座をさせられていた。

「お前、なにしてんだ?」

「わ、私は、べ、別に、なにも悪いことはしてないのよ? ただ、エゴノキさんが」

「悪い。この嬢ちゃんがせっかく用意した夕食をお前らが来る前に食べちまいそうになってたんだな」

 こいつ。可愛いものだけに限らず、こうしたご馳走にも目がないとは。日々、ミモザの欲は増していく気がした。

「だってー」

「だっても、なにもありません。すみません。エゴノキさん」

 ミモザの代わりに謝罪する。そんな俺たちをエゴノキさんは優しい目で微笑みかける。

「やっぱり、食事はみんな揃ってすべきだな! さあ、ミモザちゃんもジャスミンさんもユーカリ君も食べたまえ! 俺たちが全力で作ったこの世のありとあらゆるご馳走だ!」

 正直、ここに来るまで、ろくな食べ物を食べていない。腹は地の底にある。辺りを見渡すと、ミモザはこれでもかという勢いで食いついている。対するジャスミンも上品に口に用意された食べ物を運んでいる。

 俺もという思いで俺は、口に一品を入れた。飢えた舌がこれでもかというくらいに刺激され、箸を使う手が止まらない。

 気がつくと俺もミモザと同じように机の上に並ぶ料理に食いついている状況になっていた。

「おい! それ、俺のじゃねーか?」

「ん? 男のくせに小さいことを言うわね。食うのが遅い貴方が悪いのよ」

「なんだと? てか、お前は女なのに食うのが早いてか早すぎるんだよ」

「今の時代に、男がこうだとか女がこうだとか、本当に小さいわね、ユーカリ。そんなだからこれっぽっちもモテないのよ!」

「な、お前」

 痛いところを突かれてしまった。べ、別に、モテないわけじゃないし。一度も彼女いたことないけど。も、モテないわけじゃないから!

「貴様ら、少しは上品に食べろ。あくまで私たちは代表してここに来ているのだぞ」

 食い意地を張っている俺たちにジャスミンは呆れと恥ずかしさが混じった表情で言う。

「いや、いいんだよ」

「ですが」

「用意した料理がこんなにもお客様に喜んでもらえるなんて、俺たちもてなす側としてはこれ以上に嬉しいことはない!」

 エゴノキさんはもてなす人として、心の底から俺たちのことを考えているのだろうと思った。

「それに、いいものを見た」

 俺たちはエゴノキさんの言葉に疑問の表情を向ける。

「こんな息が合うパーティーを見るのは初めてだ」

 パーティー。そういえば俺たちが初めてエゴノキさんと会った時もエゴノキさんは俺たちのことを「パーティー」と呼んでいた。

 俺たちはパーティーなのだろうか。

「嬉しい時や辛い時を共有できるパーティーはなかなかいない。大切にするといい。って臭いこと言うけど、俺にはパーティーもなにもないから分からんけどな!」

 俺はもともと、この先、魔王と戦うのに医療魔法は必要不可欠だという思いで、ルコばあの紹介によりジニアさんを訪れた。ミモザもクルクマ様の命のためにゆうおう国に訪れてそのままゆうおう国にいる方が安全だという理由とミモザの意思もあってジニアさんの所にいる。

 正直、俺に必要な医療魔法の技術や知識は、この二年間で学べたし、この先自分をさらに高めるにはいつまでもあの国にいるわけにもいかないだろう。

 それは、ジャスミンもミモザだって同じだ。

 俺たちはたまたま、あの場所に居合わせただけなのだから。

 また思考が巡る。この先、俺は、俺たちはどうしたらいいのだろう。

 いつの間にか、俺はこいつらに「仲間」という意識を持っていたのだ。

 夕食を堪能した後、俺は食い過ぎたせいか、気分が悪いので、夜風に当たりに旅館の外へと出た。それは俺と同じくらい、それ以上に食べたミモザも同じだったのだろう。先にミモザがいた。

「食べすぎちゃったね」

 ミモザは俺の方に気づくと、優しく微笑む。

「そうだな。お前は食い過ぎだ」

「えー、ユーカリだってあんなに食べていたじゃない」

「俺はいいんだ。怪我人だから。いっぱい食べないと」

「わ、私だって、せ、成長期だし? 色々と」

 こうして空一面に広がる星空と隣に座るミモザを見ると、ミモザと最初に会った頃を思い出す。あの夜も、こんな星がよく見える空だった。

「ありがとうね」

「どうした? 急に」

 突然、ミモザが礼を言うべき言葉を発したので思わず驚いてしまう。

「べ、別に? ただ、私をここに連れて来てくれたお礼を言いたかっただけ」

「そうか」

 礼を言うべきなのは俺の方だ。俺はお前がいなかったらここにいない。言うべき言葉は思いつくのになぜかどれも口にできない。

 そんな自分がもどかしくてうざい。

 でも俺は、言うべき言葉を言える時に言うことの大切さを彼女の魔法で知っている。

「ありがとう」

 俺から発せられる思いもしない言葉に、ミモザは目を大きくして驚いた。

「な、なにがー?」

 こいつはなにも変わらない。出会った頃から、可愛いものが好きで、美味しいものが好きで、素直に言葉に喜ぶ。綺麗で汚れのない心。

「お前が俺たちを助けに来てくれなかったら、俺は死んでいた。『ここに連れてきてくれたお礼』は本来、俺は言うべき言葉だ」

「なにそれ。変なところで馬鹿真面目なんだから」

 ミモザはまたその美しくて優しい笑顔を俺に向けた。そうだ。俺はこの笑顔を守りたいそうあの時、思ったんだ。

「私は、この先どうしたらいいんだろう」

「どうしたらって」

「クルクマ様からは、いつまでも国にいていいし、必要なら宮殿にも部屋を用意するとまで言ってくれてる」

 そんなにか。クルクマ様は人が良いし、純粋にミモザとの関係値も深い。あの人に任せておけばミモザのことは安心だ。

「それはすげーな。いいんじゃねーか? 宮殿なら毎日、可愛いものもあって、美味しいものが食べられるぜ?」

 正直、ジニアさんのところでは、必要最低限の健康食材で俺とジャスミンが当番制で料理をするだけだからな。

「そうだけど……私は……」

 ミモザはなぜか頬を赤らめている。なんだ? こいつ、どさくさに紛れて、酒でも飲んだか?

「断ってきちゃった」

「なんでだよ」

「だって、私、もう決めたから。自分の進むべき道。見つけたから」

 ミモザは俺の目をその汚れのない綺麗な瞳で捕まえて放さない。俺は彼女の虜になるように彼女の瞳から目を逸らせずにいる。

 ジャスミンもミモザも自分の進む道を見つけた。

 俺も、もう振り返りはしない。ただ、前を見て、自分の道を進むだけだ。



南方地方 南方 ゆうおう国 ジニア家


 むらさき村で「蘇りの湯」に入ってから、半年が経過した。

 季節は夏に入りたてで、じめじめとした空気が肌を襲い、汗が身体中にへばりつく嫌な季節だ。

 俺は「蘇りの湯」の効果もあって、ようやく、身体が回復し、本調子と言えるくらいになった。剣も振ることができるし、全力疾走だってできる。

 魔物との実践も重ねて、魔力の調子も掴めた。

 これで、準備は整ったというわけだ。

「それで? 次はどこに行くんだい?」

「東方地方です」

 ジニアさんの問いに俺は迷うことなく答える。

「東方地方。また、なんで?」

「実は、今まで使っていた剣が前回の戦闘でボロボロになっちゃって、いくら刃を研いでも今までのように使えなくて、ジャスミンに見てもらったら、新しいのにしたらと」

「そうかい」

 正直、剣はこの国にいても買える。だが。

「ジャスミンが言うには、俺の魔力は特殊だからそれに合った剣を作ってもらうといいと」

「そうだね。魔力を宿す武器は、魔力によって相性がある。薬と同じだ。ある人に効く薬が別の人にも同じように効くとは限らない」

 ジニアさんの言っていることをジャスミンも言っていた。

「だから東方地方に武器を作る職人が集まる国があるとかなんとかで。確か名前が」

「『しこん国』だね」

「そうです!」

「いいね。あそこなら、きっと、ユーカリに合う剣を作ってくれるよ」

「ありがとうございます!」

 俺は荷物をまとめ、背負う。

「ジニアさん。その」

 こういう言葉はいくつになっても言葉にするとなると恥ずかしい。けど、伝えなきゃ伝わらない言葉もある。

「長い間、お世話になりました」

 俺の言葉にジニアさんはいつもの笑みを俺に見せてくれた。

「気をつけてね。また帰っておいで」

「はい!」

 俺はジニア家を後に、ゆうおう国を外門へと向かう。

「ユーカリ。旅、出るんだって? 気をつけていけよ」

「ユーカリ。これ持ってきな」

 近所に住む人たちが俺に声をかけてくれる。ひそく村を出た時のことを思い出すな。ここも同じ、もう俺にとっては故郷のようなものだ。

「ありがとう!」

 って貰ったものは大根。これそのまま食えないじゃん。

 いつの間にか、この辺りを見て慣れ親しんだ場所だと思っている自分がいる。

 徒歩で公共の馬車が出ている所まで行き、馬車に乗って外門近くへと向かう。

 今日、ジャスミンはいつものジニアさんへの依頼で、遠征に向かっており、ミモザもクルクマ様にお呼び出しをもらっており、家にはいなかった。

 それでいい。なんか、別れっていうわけじゃないけど、しばらくは会えないんだし、なんか照れくさいし。これでいいんだ。

 馬車を降り、外門へと向かう。外門の兵に出国許可証を見せ、俺は国外へと出た。

 不思議だ。今までだって修行で魔物を倒しに行く時やジャスミンの手伝いで国外へ出ることは多くあった。

なのに、今日は、同じ場所なのに目の前に見えるものが新鮮な景色に感じる。

 俺は自分の胸を叩いて気合いを入れ、一歩前へと進んだ。

 ゆうおう国から東方地方に向かうには前に行ったあらいしゅ国へ向かった時と同じ道で行くのが最善のルートだ。

 俺はあらかじめ用意していた地図で現在地を確認しながら慎重に進む。

 これからはまた一人で旅が始まる。いつどこで魔物が出てくるか分からない。警戒心を怠らないようにしなければ。

「貴様は、肩に力が入り過ぎた」

 ゆうおう国を出てから半日が過ぎた頃、未だ遭遇していない魔物にいつ出てくるかと警戒していると聞き慣れた美声を耳にする。

 聞き間違いかと思わずその声がする方を見る。

 艶のある綺麗な長い髪、女性顔負けの透き通る肌に、端正な顔立ち。鋭い視線でこちらの目を捕らえるのはジャスミンだ。間違いない。

「なんで、お前、ここに?」

「特に理由はないが?」

「理由がないって、お前、遠征行ってたんじゃ……あ、その帰りか?」

「まあ、そういうことにしておくか」

 ジャスミンは自分の背に背負うコンパクトな荷物を俺に見せる。

「私も貴様と共にしこん国へ向かう」

「は? なんで?」

「なんでって、まあ、なんだ。私の弓も前回の戦闘でだいぶダメージを負ってだな、見てもらおうかと。ほら、私の弓は西方地方伝統の特殊な技術で作られたものだから、あの国の者でなければ見ることができないのだ」

 なるほど。そういうものなのか。

「そういうことなら、一緒に行くか」

「ああ」

「てか、ならもっと早く言えよ」

「う」

 ジャスミンが何やら困った様子でいるとジャスミンの背後からこれまた見慣れた少女が顔を出す。

「ほんと、素直じゃないんだから。どいつもこいつも。はっきり言えばいいじゃない。『私も連れてけ。貴様の旅に』って」

 豪華な髪飾りと耳飾り。やけた肌に綺麗な顔立ちと可愛らしい声を持つこの少女。間違いない。ミモザだ。

「別に私は……」

「はいはい」

「てか、なんでお前もいるんだよ。当たり前のように出てくんな」

「な! 失礼ね。せっかくこの私が貴方の汚くて可愛さ一つもない旅に同伴してやろうとしているのに」

「あ、間に合ってます」

「え?」

「俺の旅は汚くて、可愛さ一つもないので」

「あ、うそ! うそだから! てか、ジャスミンもどさくさに紛れておいてくなー!」

 日が沈み、辺り一面がなにもないこの広々とした地で、俺たちは今夜野営することにした。

「で? なんでお前らついてきたんだよ」

「私はさっき言った理由が」

「ちょっと待ったー!」

 ジャスミンが言葉を言い切る前にミモザがジャスミンの頭を叩く。

「なにをする」

「なに? じゃないわよ。さっきも言ったでしょ? こういうのはちゃんと気持ちを伝えなきゃ駄目なの」

「気持ちって」

「いいわ。私がお手本を見せてあげる」

 そう言うとミモザは俺の方を見て、何やら照れくさそうな様子で口を開く。

「あのね。私考えたんだけど、私って可愛いものが好きじゃない? それに美味しいものも好きだし」

「知ってる」

「そう! だから、世界中の可愛いものに触れたいし、美味しいものを食べたい。そしたら、貴方がちょうど、旅に出るとか言うじゃない。なら、私もついて行けば、その夢が叶うじゃない?」

「お、おう」

「だから、だから、私もユーカリの旅に連れて行って」

 顔をこれ以上にないくらいに真っ赤にするミモザ。そんな彼女が精一杯の気持ちで出した言葉の形。俺は嬉しかった。

「あ、ああ。嬉しいよ」

 なぜだか俺も照れくさそうに答えてしまう。

「なぜだ? なぜ私はこいつらのイチャイチャタイムの馬鹿らしい時間を目の前で見せられているのだ?」

「お前、誰がイチャイチャだ。なあ、ミモザ」

 ミモザの様子を見ると、ミモザは限界を迎えたのか、意識を失っているようだ。

「おい、ミモザー?」

「まあ、だが、なるほどな。確かに、こういうことは、はっきりと言葉にしておいた方がいいな」

 ジャスミンは改まって、俺の方へ真剣な眼差しを向ける。

「なんだよ」

「貴様の目標は魔王を倒して、魔王がかけた世界の呪いを解くことだと言っていたな」

「ああ」

「私の目標は、世界から病気で苦しむ人を失くすことだ。この目標を成し遂げるのには魔王の存在は切っても切り離せない。私は、これまでの人生で、魔王を倒すと掲げる者を何人か見てきた。だがどれも半端な覚悟の者ばかりだ。この千年間、初代勇者が作った平和によって魔王の恐ろしさを私たち人は忘れてしまったからだ。私もそうだ」

 ジャスミンは儚げな目で、空を見る。

「世界から病気で苦しむ人を失くす。こんな目標を掲げては見たものの、実際に魔王を倒すなど行動も見せなかった。そんな時、私は貴様に出会った。貴様は弱いが修行は欠かさず行い、新しいものを吸収することに恐れを抱いていなかった。そして、自分より遥か格上の敵と戦う覚悟があった。私は思ったよ。私がもしここで、ユーカリ。貴様という人間の後ろについて行く選択肢を取らなかったら、私の目標は二度と達成する機会はないだろうと」

 ジャスミンは清々しいほど晴れた表情で俺を見る。そして、その綺麗な手を俺に差し出した。

「ユーカリ。私にも貴様の馬鹿げた夢を一緒に追いかける権利をくれないか?」

 ジャスミンが差し出したその手。その手には俺が欲しかったものがすべてある。自然と涙を流している自分がいた。その涙の理由がなんなのか。今の俺には分からない。でもきっと嬉しかったのだろう。

 一人で魔王を倒せるなんて思っていない。自分一人の力不足は実践を重ねてよく知っている。そしてこの二年間。ジャスミンという人間を見てきたのは俺も同じだ。

「お前になら、安心して背中を任せられる」

 俺は差し出されたジャスミンの手を思いっきり掴んだ。

「うっうう」

 気がつくと意識を取り戻していたミモザが涙を流している。

「なに、泣いてるんだ? お前」

「だって、男同士の友情。噂には聞いていたけど、こんなにも美しいものなのね」

「友情って」

 俺とジャスミンは顔を見合わせて思わず笑ってしまった。

 魔王を倒すと決意して、ひそく村を出てから二年と半年が過ぎた今。

 俺とジャスミンとミモザの三人は正式にパーティーを組むことになった。「勇者の再来」と名付けられた俺たちのパーティーは世界中に名を轟かせる。

 一人で背負ってきた重い何かが、少しだけ軽くなったような。そんなふんわりとした気持ちになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る