第5話

「ひとつききたいんだけど……この身体、どうにかならないかな? 普通の身体にしたいんだけど、その方法、知らない?」


 目の前の男は歯をがちがちと震わせたまま、なにも答えない。どうやらこの魔女もはずれみたいだ。

 いつになったら、おれのこの変な身体を普通にしてくれる魔女に会えるのか。執行人になってだいぶ経つのに、そんな魔女なんていっこうに会えやしない。

 死ねる身体が欲しい。たったそれだけの願いなのに。 


 

 数日後の新聞には、先日の魔女が載っていた。

 例の植物に人体に害のある成分が含まれていたこと、それは会社の利益のためだったことが記事に書かれていた。大筋は間違ってはいないけれど、うまいように発表したものだ。


 あの後おれは四人を尋問班に引き渡した。種子に黒魔法をかけて流通させ、なにも知らない一般市民にそれを育てさせていたことを聴取できた。

 植物を売って利益にするため、というのは表向きの理由。


「実のところは、植物を流通させて、市民の洗脳を試みようとしていた。あの植物はその実験だった。これ、放っておいたらどんな植物が出回ってたんだろう。こわいこわい」


 新聞を広げていた同期があくびをしながら言った。銀髪の天然パーマがたんぽぽの綿毛のように揺れている。


 彼はコルサという。おれと同じ時期に執行人になった。

 同い年でもあるので気づけば仲間意識が芽生えて、今やおれの唯一の友だちでもある。

 ちょっとのんびり屋でドジなところもあるけれど、穏やかで気のいいやつだ。


 ランタナさんやおれの師匠はコルサのことを『いい意味でいかれている』と話していた。こんなに穏やかなのに、ちゃんと執行人であるわけだから、いかれているのには違いない。


「ところでリリオ、ランさんにこっぴどく叱られてたみたいだけど、なにがあったんだい? 任務はちゃんとこなしたんでしょう?」

「ああ……うん。けがをしたのがばれちゃって。傷はちゃんと塞がってたんだけど、服が破れて血もついていたから、気づかれちゃった」


「あっはは。リリオはけがが治るからって油断するところがあるからねえ。ランさん、いつもそのことを愚痴ってるもの。昔から」

「油断……。コルサにはいわれたくないよう。きみよりはマシだと思う」


 コルサはけらけらと笑う。ドジを踏む回数なら、コルサはおれの三倍くらいはある。

 それでもいつも無事に帰ってきているし、コルサは本当に強運の持ち主なのかも。

 ふたりで談笑していると、ドアが勢いよく開く。こんな乱暴な開け方をするのは、ひとりしかいない。


「だっはっは! 今日も働いたあ。ん、リリオとコルサだ。よっ、お疲れ」


 金髪に青やらピンク色のメッシュが入り、服は目に痛いくらいの鮮やかな黄色のツナギ姿の女の子が立っていた。ツナギには点々と血のようなものが飛んでいる。


「リラちゃん。拷問お疲れ様」


 コルサは新聞からゆっくり顔を上げて、自分の言葉の過激さに一ミリの疑問を持たない笑顔でいう。

 リラちゃんは尋問班に配属されている執行人だ。見た目も中身もだいぶ派手な女の子。一応おれたちの後輩になるのだけれど、彼女はおれたちを先輩だと思ってはいないらしい。


「リリオ、おまえが捕まえたあの植物工場のやつら、おまえのこと死神みたいっていってたぞ。おまえに捕まったやつって、みんなそういうよな。思わず笑ったわ」

「むっ……やだもう。おれ、死神なんかじゃないよう」


 魔女の命を奪ったことなんてないのに、死神と呼ばれるなんて。せいぜい半殺しまでだ。

 とはいえ、原因は自分でもわかっている。

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