死神のレゾンデートル
来宮ハル
1 お仕事お仕事!
第1話
チョコひとつ、バニラひとつ。アイスディッシャーに手早くすくって、ワッフルコーンの上にバランスよく乗せる。その流れを小さな女の子が食い入るように見上げていた。きらきらの大きな目が、こぼれてしまいそうだった。
おれはワゴンの外に出て、女の子の前にしゃがみ、アイスクリームを手渡す。女の子ははにかみながら、アイスを両手で受け取った。
「やあ、リリオ。相変わらず商売繁盛しているみたいだねえ。いつものをいただけるかな」
アイロンがしっかりかかったシャツに、べっ甲のループタイをつけたおじいさんが、いつのまにかそばに立っていた。
このおじいさんは、おれの師匠がここでアイスクリームを売っている頃からのお客さんらしい。上顧客だと師匠が昔いっていた。
見た目にそぐわず、甘いものに目がないらしくて、冬でもアイスクリームを食べている。
「はあい。ストロベリーとチョコですね。あ、今日から新しいフレーバーも始めたんですけど、いかがです? 春仕様のフレーバーなんですよう。チーズケーキ風味のクッキーを砕いてストロベリーソースと混ぜてるんです」
「おや、おいしそうだなあ。じゃあ、それをいただこう。チョコと二段重ねで頼むよ」
おじいさんは紙幣をおれの手に置く。おつりを用意しようとしたら、いらないよといって満足そうにアイスを舐めながら立ち去る。
一連の流れを見ていたコウモリのモリスケが、そばに置いていたケージの中で笑うように鳴いた。この紙幣のおかげかな。そうだよね、ずいぶんと太っ腹だもの、思わず笑っちゃうよね。
紙幣の右隅あたりをじっと眺めていたら、人の気配を感じ、慌てて紙幣をエプロンのポケットにねじこんだ。
「……アイスをひとつ、もらえるだろうか」
目の前には女の人が立っていた。艶のいい褐色肌に、切れ長の目。瞳はオリーブ色をしていた。
女の人にしては背が高く、目線はおれとほぼ同じ高さだ。夜明け前の空みたいな色の髪の毛を短くして、襟足は刈り上げている。
旅人だろうか。棒切れみたいな身体に対して大きすぎるくらいのローブを羽織っている。
とてもきれいな人。つい見惚れて手が止まってしまう。
「……ん? どうした? なにか変なことをいったか」
「あ、えっ、いえ。その……お姉さんがきれいだから見惚れちゃって。ごめんなさい」
お姉さんは呆気に取られたような顔をした。
そんなに変なことをいったつもりもなかったけれど、引かれてしまった?
「……ははは。あんたには俺が女に見えるんだな」
「──俺? ……俺!? わっ……わあ! 失礼しました!」
耳まで一気に熱くなった。
おれはぺこぺこと頭を下げる。ああ、男の人に向かってお姉さんだなんて。とてもきれいな人だし、身体も細身だから、てっきりお姉さんとばかり。
お兄さんは怒るどころか、目に涙を溜めて笑っていた。そこまで笑われる理由もよくわからないけれど、笑ってもらえて内心ほっとする。
しばらく声を上げて笑った後、お兄さんは親指で目元を拭う。まだわずかに潤んでいた。
「ふふ、都会にはおもしろいやつがいるもんだ」
「都会? おね……お兄さんはよそからやってきたんですか?」
ようやく落ちついたお兄さんは涼やかに微笑むとこっくりとうなずき、転々と旅をしているのだと教えてくれた。ひと月くらい前までは、家が五軒くらいしかない、小さな村に滞在していたそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます