【読切版】オーダー様の主従契約
氷室凛
第1話 魔筆《マギアクイル》
ジジ……ジジ……
〜〜♪ 〜〜〜〜♪
その音に、
「やばい! 始まる!」
褐色の肌に黒髪金眼の少年──レオはバッと顔を上げた。さらにその両脇で、
「どうしよう、レオ!」
「たいかん式、始まっちゃうよ!」
レオと手を繋いだ子どもが口々に声を上げる。
今日はこの小さな王国で新たな王が生まれる戴冠式の日だ。それに伴い、中央広場ではパレードやら屋台やら、さまざまな催し物も開かれる。
戴冠式自体にさして興味はないが──その周辺のイベントは、孤児院のロクに娯楽のない環境で育ったレオたちには重要だった。
けれど考えることは皆同じ。
中央広場へと続く道は人混みで溢れ返り、完全に身動きが取れなくなっていた。
「クッソ、こんな時に
10歳になると魔法の羽ペン──
レオはもう15だ。
「レオ兄、
「ね! お歌だって聖歌隊の中でいちばん上手なのに!」
「わたしね、この前
「ぼくはね、紙に『
先月
「すごいなふたりとも! 将来は
レオはふたりの頭を優しく撫でた。
「ね、レオも! レオもなるんでしょ、
「ね! 3人でなるんだよね!」
「いや……俺は……」
最も偉大な魔筆使いたち。
(俺はこの年になっても、基本的な技の
15にもなれば嫌でも現実が見えてくる。
そりゃあ、
けれど。実際問題。
15歳にもなってまったく
「
「は!? なんてこと言うんだ! てかオマエ誰だ!」
突如知らない声が降ってきて、レオはふたりを後ろに庇った。
声の主は背の高い青年だった。色の薄い金色の長髪に怪しげな紫色の瞳。絵画から出てきたと見まごうばかりの美貌に、レオは少しだけたじろいだ。
「俺はただの通りすがり。
「
「はーあ? 俺をあんな秩序のカケラもない連中と一緒にするなんて! きみ、頭おかしいんじゃないの?」
「誰が……!」
レオが再び食ってかかろうとしたとき。
──ドゴォンッッ!!
突如爆音が鳴り響き足元が揺れる。
人混みに流され、レオたちは中央広場へと続く大きな橋の上に来ていた。その橋の反対側──中央広場へと続く方の橋のたもと。
その部分が爆発し、大きな炎と真っ黒な煙が立ち上っていた。
「なんだ!? どうした!? 爆発!?!?」
「レオ兄、怖いよぉ!」
「揺れてる! 橋が落ちるんじゃないか?」
「早く逃げないと!」
「おい、押すな!!」
爆音が収まったあとも足元の揺れは収まらない。
人々は次々に不安を口にし、我先に橋から降りようと押し合いが始まった。
混乱が渦巻き1秒ごとに大きくなる中、
「『
声とともにペン先が翻る。
声の主はあの青年だった。言葉よりも早く大きな羽ペンが走り、
「体が、動かない……」
「でも、揺れも止まった……?」
強制的に動きを止められた人々は少しずつ冷静さを取り戻していく。
そんな中、
(なんだ、コイツ)
レオは目の前の青年をまじまじと見つめた。
(今のは
レオがぐるぐる考えている間に、
「思ったより
青年はまた筆を走らせた。
「ま、待て! オマエ何者なんだよ!?」
「ちぇっ。あんまり目立ちたくなかったんだけどね。こうなったらそうも言ってられないか。『
青年はレオに一瞥をくれてからふわりと飛んだ。
そして頭上で叫ぶ。
「俺は
一瞬だけ彼の合った視線。
怪しく輝く紫色の瞳は──確かに笑っていた。
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