早紀の敗北と終焉
早紀は仄暗い水の中を沈んでいた。現世の水ではないのだろう。藻掻いても浮力は発生しない。どちらが上なのかもわからない。そもそも光が全くない。完全な闇だ。
肺の空気が無くなり、喉に異界の水が流れ込む。
パニックになり藻掻く。
まるで虫のダンスのようだと頭のどこかで思った。
濁った汚水に体をゆだね、ただもがき苦しむだけの踊りだ。
この仕事をし、鬼切の役目をつぎ、安綱に適合した時から戦場での死は覚悟はしていた。普通の女の子としての幸せがないことも理解していた。
ただ、こんな訳の分からない誇りのない終わりは勘弁してほしかった。
鬼切の役が嫌だった訳ではない。この退魔の力は、術は、怪異や怨霊に苛まれながらも必死で生き抜いてきた先人たちの命の証なのだ。それを振るい人々を救うことには誇りと喜びを感じてもいた。
だが、やはり、退魔の力は、所詮は人間の浅知恵なのかもしれない。濁流の中であまりにも自分の小ささを思い知らされた。結局、あの世の理には、怪異には手も足も出ない。我々は単なる被捕食者なのかもしれない。
あいつらの理不尽さが嫌で、私は退魔師をやっていたはずなのに、、
手足の力が抜け、安綱が水中の闇に消えていく。
思考が纏まらない。理不尽さといえば、あの鬼。トシオにもむかついた。ポッとでの下品な男が最恐の鬼の力を手にして、退魔師の日々の努力をあざ笑うかのように、簡単に怨霊を討伐していく。よりにもよって、鬼切が本来かるべきはずの鬼が。
あんなけ世間の注目を浴びておいて、いざという時には間に合わない。
役立たず、、私とおなじ、、
できるなら次はもっと幸せな生を、、私が私として生きられるそんな人生を、、
呼吸を止め、沈んでいく早紀の体に汚水が侵食していく。
早紀の白磁の肌が緑色の水死体の色に染まっていく。少女は醜い異形へと変わりながら、闇の中へ堕ちていく。
かに思われた。
「あ、いたいた、早紀ちゃーん」
緊張感のない声と共に暗闇から赤い光が高速で早紀の体に接近した。黒い巨大な一つ目の鬼が早紀の体を暗闇から救い上げる。
「なんか早紀ちゃん、グリーンだな、全体的に」
黒い鬼は自分の体(トシオの体)をブランブランと腕に抱えたまま、早紀を脇に抱えた。
「悪いが、水の中っぽいとこから外に出るのは前にもしてるんだ」
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