鬼の処遇について
霊異対策局局長は報告書から目を離し、うーんと呻くと眉間を揉んだ。
その様子を冥と白蓮が見つめている。
「なんだこれ、ほんとめちゃくちゃだな」
しばらく天井を見つめた上で局長がポツリと漏らした。
報告書に書かれた内容はなかなか理解に苦しむものであった。
「テレビを伝って肉体ごと移動し、怨霊を喰って進化する、その上で理性を保ち人間を守る、それで、、これが一番理解が難しいのだが、」
局長は冥を見た。
「怨霊に殺された被害自体を消し去った、、、と?」
冥は頷く。
「私もイヌガミもイタリアの修道女も、それから兵士達も一度殺され、怨霊に取り込まれておる。記憶もある。バイタルサインも消えたし、その事実はお前たちも観測していたはずだ。」冥の言葉に局長は頷く。
「だが、怨霊に殺される寸前で何かに助けられ、生き延びた記憶も同時にある。」冥は顔をゆがませ、頭を押さえた。いまだにあの時のことを思い出すと頭痛がするのだ。
「殺され怨霊に取り込まれた記憶、辛くも寸前で生き延びた記憶が同時に頭の中にある。私も未だに解釈に困っているが、あの鬼が怨霊を殺した瞬間に、怨霊に殺された世界線の私と生き延びた世界線の私が融合した様な。」
白蓮は映像を思い浮かべる様に軽く目を閉じる。あの瞬間の事は鮮明に覚えている。
「その解釈でよいかと。あの時、私は術師の皆さんが次々に怨霊に命を奪われるのを見ることしかできませんでした。そこをトシオ君に助けられて。
トシオ君が怨霊に止めをさした直後、怨霊に殺されたはずの人々がトシオ君の足元に現れました。」
頭痛がした。白蓮も眉間に皺をよせ目頭を揉む。
「次の瞬間、私の頭の中にも、あるはずのない記憶が急に流れ込んできたんです。冥様や宮部のイヌガミが命を落とす寸前で何かに助けられ、一命をとりとめた世界の記憶が。
まるで、何者かが辻褄を合わせるために偽の記憶を流し込んできたみたいで。」
この頭痛はトシオが世界を改変した名残なのだろうか。あの後、救い出された人間は皆、船酔いの様な症状を呈し医療機関への搬送を余儀なくされた。イヌガミ、クリセリア、兵士達の大半は未だに入院、療養している。
冥だけが翌日には回復し、早くも現場復帰した。
局長が頷いてから何か考え込むように顔を落とした。
「過去にもあまりに強い呪力を持つ怨霊が時間にまで干渉し、歴史を書き換えたのではないかという仮説は報告されている。だが全て仮説であり、それを客観的に確認する術がなかった。」
局長の言葉に冥がつぶやく。
「私もこの目で見てこの身で味わうまで信じられんかったが。あの鬼がしたことはそういうことなのだろうな。だが神の領域に踏み込むような技だ。」
「なんでもありだな鬼ってのは」局長はあきれた様子で言う。
「だが、これで合点がいったよ。バイタルサインの消失も、記憶の書き換えも全てが説明できる。」
冥が頷く。
局長は顎に手を当て少し考えると口を開いた。
「この国は期せずして途轍もない化け物を抱え込んでしまったな。」
怨霊を取り込み無限に進化し、時間にも干渉する化け物。現時点でこの国の総力を挙げても彼を殲滅できるか分からない。もし彼が人類に牙をむいたら。
それだけではない。アメリカやアジア諸国の動きも気にかかる。彼の圧倒的な力が明るみに出れば、その力にすがり利用しようとする者だって出てくるだろう。
国内で彼が人類の敵に転じないように監視しながらも、彼が他国の手に渡ることを阻止しなければならない。
早くもアメリカはトシオの譲渡を要求し始めている。政府が対応しているが、どこまで自国の主張をアメリカ相手にできるか。
白蓮が恐る恐る手を挙げる。
「あの局長、その、彼の処遇はどうなるのでしょうか?」
局長は少し考えた後口を開いた。
「諸君も分かっているだろうがトシオ君の存在はこの国にとって切り札だ。彼を封印してしまえば、もし他国に対する切り札として彼を使えなくなる。 そして何より、彼の力があれば怨霊を殲滅できるかもしれない。この数か月だけでも異常に怨霊発生の件数が上昇している。早晩、我々だけの力では怨霊に対処しきれなくなる。」
「と、ゆうと、彼を戦力として迎えたいと?」冥が尋ねる。
「そうだ。非常識な選択かもしれないが、彼が現時点で人間に友好的であるなら彼の力を借りることも選択肢としてあり得るのではないかと考えている。」
「しかし」と白蓮が口を開いた。
「例の狐野の件もあります。いずれにせよ、トシオ君を中心に何かの勢力がうごめいているのは事実です。公安を中心に他国からの呪力的テロの観点から捜査を始めているところですが。彼を怨霊との闘いの中に引きずりだすことには私は反対です。それに怨霊を喰らって進化する鬼を更なる戦いに駆り出せば、より手の付けられない化け物になるだけです。」
冥が頷く。
「狐野の件では、我々も完全に後手に回っておる。敵の正体、目的、規模、何もかも一切が不明だからな。呪いのビデオを見せて回ってる連中の居場所もさっぱりだ。」
白蓮はそれを受けて続けた。
「トシオ君個人には悪い印象はありません。しかし、あらゆる観点から考慮しても、やはり最適なのは彼の完全な封印かと。」
冥がため息をついた。
「彼には恩はあるが、それが最善策かもしれんな。確かにあの不確定要素の多い鬼に国防を任せるのはリスクがいささか大きすぎる。」
局長も深くため息をついた。胃に穴が開きそうだ。
「ひとまず、政府の出方を待つしかない。それまでは隔離継続だな。」
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