トシオ君出動 あるいは ジャパニーズホラーの復権
その時だった。
ちょいちょい
後ろから肩を可愛くつつかれた。振り向くと、ビデオ女が俺の背中に張り付くようにして立っている。いつの間に。
お前、さっきまでテレビの前で正座してたじゃん。瞬間移動か?
ビデオ女が俺の手を強く引き、テレビの前へと引きづっていく。早紀ちゃんも毒気を抜かれてこちらを見ている。
「ちょ、何?ゲーム?今そんなことしてる時間ないんだって」
俺は抵抗するが、ビデオ女は有無を言わさず俺をテレビの前へ引きづっていき、いきなり俺の頭をテレビへ叩きつけた。
痛いって!
俺は抵抗するためにテレビ画面へ手を付こうとし、そのまま画面の中へ手が入り込んだ。
え?
俺はバランスを崩しテレビの中に飲み込まれる。背後で早紀ちゃんの悲鳴が聞こえた気がした。
テレビの中の暗闇を俺はどんどん落ちていく。
どこまで続くんだこれ?上を見るとビデオ女が俺を追うかのように落ちてきていた。
こいつ、俺についてくるつもりかよ! 俺は慌てるがもうどうしようもない。そのまま落ちていく。
そして水の中に突っ込んだ。
そうか、これは、井戸か。井戸の中に落ちたのか。
水の中で藻掻く俺の手を誰かがつかむ。ビデオ女だった。ビデオ女が俺の手を掴み、どこかへ引っ張っていく。
「おい、行くから。どこへでもついていくからとりあえず俺を地上へ出してくれ」
声を出して気が付いた。水中だが呼吸もできるし会話もできる。
ビデオ女が俺の手を引っ張りながら器用に前を指さした。光が見える。どうやらそちらに出口があるようだ。
ビデオ女に引っ張られ俺はその光へ進んでいく。
〇〇〇
司令部は大騒ぎになっていた。
七人ミサキの猛攻により、派遣されていた機構兵や術師が全滅したという報告、トシオが急に部屋から姿を消したという報告が次から次に舞い込んだのだ。と、同時に警報音が鳴り響く。
「強大な霊的エネルギーを感知しました。場所は七人ミサキの森です」
オペレーターが報告する。
「トシオか?」司令の問いにオペレーターは首を振る。「おそらくこの反応はそうだと考えられます。」
「瞬間移動でもしたのか?」司令は頭を抱えた。「何がどうなってんねん」
〇〇〇〇
ビデオ女に引っ張られ、水の中から出たと思ったら目の前に兵隊さんがいた。
俺の目の前に兵隊さんの顔がドアップで広がっているのだ。マジでキスする5秒前みたいな距離だ。
俺はこの兵隊さんが持っていたタブレットから上半身を出していた。兵隊さんが悲鳴を上げてタブレットを放り出すが、俺はそのままずるずると床に落ちたタブレットから自分の体を引き出す。
何か分からんが、あのビデオ女の能力なのだろうか。
「こいつ、例の洋館の鬼だぞ」兵士の誰かが叫び兵士達が一斉に俺に銃を向ける。歓迎されてるな。
「あ、怪しいものじゃないです~」両手を上げて笑顔を浮かべる。
「どこがじゃい!」あ、そうすね。説得力皆無すね。
こうしている間にも焦りが強くなっていく。1秒単位で白蓮さんの命が危うくなっているのが分かった。
「あの白蓮さんが危ないんで、行かせてもらえないでしょうか」俺は周りの兵士に聞いた。
「なに?」兵士達の銃がガシャリと音を立てる。もうどうなってもいいや。とにかく白蓮さんを助けないと。実力行使しかないか。
その時だ。兵士達から大きな悲鳴があがった。皆、俺の後ろを見ている。俺が出てきたタブレットが青い光を放ち、長い黒髪の女がズルリと這い出してきていた。
おー、こわ。まさにジャパニースホラー!雰囲気でてるね。そういや、ビデオ女も怨霊だったな。
混乱に陥った兵隊さんをしり目に俺は走り出す。
「待て」
と兵士が叫ぶが、待つわけ無いだろ。
俺が出現した場所はちょうど兵隊さん達が張っている巨大なテントの中だったらしい。テントから転げだし、俺は必死で走る。
どこに白蓮さんがいるかはすぐわかった。目の前の山の中腹に光の柱が突っ立ている。あそこに皆いる。本能で分かる。
俺の腰を誰かがつかんだ。兵隊さんだ。そのまま俺は地面に倒され、その上から何人もの兵隊さんが積み重なっていく。ラグビーの試合かよ。
だが、俺はもう無敵だ。生身の人間なんて怖くない。なぜなら。
「身体が動かないなら霊体だけになればいいじゃない byマリー・アントワネット」
俺は自分の肉体から抜け出し、鬼となって立ち上がる。兵隊さん達の体をすり抜けて。
兵隊さん達にも
「後で戻るから丁寧に扱ってね。俺の体。」
兵隊さん達にウインクすると、俺はヤマへ駆け出した。
よく考えると一つ目だからウインクって気が付かれなかったかもしれない。
俺の足元で地面が高速で過ぎ去っていく。新幹線の車窓のように高速で景色が過ぎ去る。
数秒で俺は山を駆けあがり、光の柱までたどり着き、盛大に跳ね飛ばされた。
「イッタなんだこれ」バリアだろうか。でも中に入らないと何も始まらないので、
「失礼しまーす」腕で結界を殴りつけるとそこに穴が開く。
「あとで弁償しまーす」
俺は光の中に飛び込んでいった。
〇〇〇〇
白蓮の足から力が抜けた。
固まった白蓮に向かい、醜悪なリングがすさまじい勢いで突進してくる。
白蓮は動けない。車輪はどんどん速度を上げている。間もなくそれは白蓮の体を跳ね飛ばし、無残に引き千切るだろう。
その時だった。怨霊の目の前に巨大な何かが姿を現し、白蓮の前へ割り込んだ。
それは巨大な鬼だった。
その巨大な腕が怨霊を横殴りに薙ぎ払う。怨霊の巨体が吹き飛び、白蓮の横を掠めて木に激突した。
「な」白蓮は絶句する。その巨大な鬼には見覚えがあったからだ。
「トシオくん!」
白蓮は思わず叫ぶ。
二本の巨大な角、鼻も口もない顔の中央に大きく輝く赤い一つ目。3メートル近い巨体を覆う装甲じみた黒い皮膚。
その巨大な鬼は白蓮をチラリと振り返ると、ピースサインをビシッと決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます