施設のトシオ君 あるいは VS巨大スケルトン

 施設に入ってちょうど1か月が過ぎた。

 昼前、俺はいつものようにガラス張りの部屋に歩いていく。俺の後ろからペタペタとビデオ女がついてくるのもいつも通りだ。最近、こいつが親鳥についてくる雛みたいに見えてしかたがない。

 部屋に入る。周囲が強化ガラスに囲まれている部屋だ。360度ガラス張りなのでまるで水槽に入れられているような気分になる。

 ガラスの向こうの観察室で白衣を着た研究者達が何やら計器をいじっている。

『トシオ君、今日も異常はないね』部屋のスピーカーがおっさんの声を響かせる。「ないっす」

 俺はいつもの定位置(部屋の中央)に座った。

『11時20分。トシオ君、じゃあ始めようか』

 時刻を決めているのは、俺が鬼になるたびに膨大な霊力が溢れアラートが鳴るからだとか。だから俺を鬼にさせる日時時刻まで厳密に決めて検査をしているらしい。

 その時、白蓮さんが観察室に入ってきた。最近こっちに来てなかったし、久しぶりだな。観察室に入ってくるのも初めてなんじゃないかな。白蓮さんの前だと少し気合が入る。俺は張り切って変身した。

 体を脱力させ、俺は肉体から抜け出す。視界が鬼のものに切り替わり、一気に天井が近くなる。霊体だから正確な測定ができるかはしらんけど、だいたい2メートルくらいの身長だ。

 見下ろすと脱ぎ捨てられた俺の肉体が椅子の上でダランとしているのが見えた。この間、肉体は仮死状態になっているらしい。

 観察室を見ると百連さんが驚きの表情でこちらを見ていた。白蓮さん、1号越しにこの姿を見ているだろうに、反応が面白いな。手を振ると、白蓮さんもカクカクと振り返してくれた。

 『トシオ君、いいね。実験は順調に進んでいるよ』スピーカーからおっさんの声。なんかグラビアアイドルを撮影する写真家みたいなおっさんだな。なんかシャッターを切るたびに「かわいいよ」とか言ってくる奴。

「そうっすか、よかった」

『じゃあ、始めよう。』

 俺の抜け殻がロボットによって運び出されると、入れ替わりに人ひとり入るくらいの箱を抱えた運搬ロボットが実験場に入ってきた。箱が開くと、中にはビニール袋に包まれた人骨が並んでいる。黄ばんでいて、明らかに昔の時代のものだ。

「これなんすか」

『古墳時代の遺跡から出土した骨だよ』

「え?大丈夫なやつですか」

『発掘調査の時に大規模な祟りを起こしてね。我々が管理・収容していたんだ』

 人骨あら煙のように半透明のスケルトンが立ち上がり、ゆらゆらと揺れた。でかい。その頭が天井に付くくらいだ。

『今日はそいつと戦ってくるかい?倒してしまってもいいよ』

 毎回思うが、こいつら倫理観大丈夫かよ。本当に国家権力なんだろうな。

最近、毎日のように俺は鬼に変身し、こいつらが繰り出す化け物と戦っているのだ。何の意味があるのかは知らないが。

 まあ、2分もかからないし、何の苦労もなく終わるから軽い筋トレみたいな感覚だけど。

 なんかやってることが悪の組織っぽいんだよな。こいつら。俺に人権とかないんだろうな。


「倒すって、でかいんすけど」

『トシオ君。君は今鬼だよ。最強の存在なんだ』

「しゃーねえな」

 俺はスケルトンに向かい合う。スケルトンから蜘蛛の糸のようなものが伸び俺とそいつの間に張られる。糸。洋館の女も出していたし、洋館の女を食った俺も出せるようになったアレだ。さらに言えば白蓮さんも洋館で俺に向かって糸を伸ばしていた。相手の魂や霊体に影響を与えようとするときにこの糸がかかるんだろうな。呪いの糸を俺は消滅させる。最近は触れることなしに念じるだけで糸を消せるようになった。

 スケルトンが俺に何かしようとしていたみたいだが、これで効かなくなった。

 スケルトンの顎が大きく開き、バイクの排ガスの様な色の息が噴き出した。周囲の天井や床がその息に晒された途端、ジュクジュクと腐っていく。

 俺はその黒いガスに突入しスケルトンに突っ込んだ。スケルトンの懐に飛び込む。

 スケルトンが腕を振り上げたが。その瞬間、俺はそいつの視界から消える。

「こっちだよ」

 後ろから腕を振る。腕の先の爪が長く伸び一瞬で剣のようになった。その爪でスケルトンを横薙ぎに斬りはらう。

「よ、弱っ」

 俺の目前でスケルトンが塵のように消し飛んだ。

 案外あっさり倒せたな。もっと強い奴かと思ったんだけど。拍子抜けしていると、部屋がどよめきだした。

『す、すごい』百連さんがスピーカー越しに感嘆の声を上げる。

『これが洋館の女を葬った鬼の力か』

「え?あ、はい」拍子抜け過ぎて何も感じない。

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