銀河鉄道の旅~おじさまとわたしの星巡り~
海星めりい
宇宙雨
いつもの食堂車のいつもの席。
そこでおじさまはいつものコーヒーを飲んでいました。
相変わらずコーヒーが似合うダンディなお人です。
そんなおじさまと向かい合うように私も紅茶を一口。
本日の紅茶は後味が爽やかですね。
私もコーヒーは嫌いではありませんが、どちらかというと紅茶派です。
おじさまとそんなことで言い合ったりはしませんけどね。
ふと窓を見てみれば、そこには代わり映えしない景色が映っていました。
列車の駆動音だけが響くほぼ無音の食堂車と相まってどこか寂しく感じることもあるのですが、このボーッと出来る時間が私には愛おしく感じます。
コトン、コトン、と列車はすすんでいきます。
今、この食堂車には私とおじさま二人しかいません。
食堂車の内装は私にとってはややレトロな雰囲気とでもいいましょうか。
木の息吹を感じるほどの綺麗な木目調の床に加え、柱まで木で出来ています。
造りは広々としており、開放感に溢れていますね。
私の頭上では空調もおしゃれな喫茶店のようにクルクルと三枚羽根が回っています。
「そろそろ、宇宙雨の季節だね」
再びコーヒーを飲みながらおじさまはそんなことを呟きました。
私は聞き慣れない単語に思わず首を傾げます。
「宇宙雨……ですか?」
言葉だけを考えれば宇宙に降る雨の事なのでしょうが、宇宙には空気がありませんので雨は降りません。
そもそも降るための要素が何一つとしてないのです。
では、宇宙雨とはいったい……?
私が頭を悩ませている間にも、おじさまのお話は続きます。
「おや? キミはまだ知らなかったかい?」
「はい、聞いたことがありません」
ついでに見たことも無いと思います。どれだけ頭を捻っても、全く引っかかるものがありませんでした。
「ふむ……そうか。なら、数日以内に見られるかもしれないね」
「そうなのですか? それは楽しみですね」
だとしたら、是非見てみたいものです。
〝危険性のない非日常〟。
なんてすてきな言葉でしょうか。
そういう体験をしたいからこそ、この列車に乗っていると言っても過言ではありません。
「いや、もっと早く見られるようだよ。彼がここに来ている」
「彼?」
と疑問符を浮かべながらおじさまが指し示す方を見れば、この列車の車掌さんが食堂車にやってきていました。
車掌さんが着ている制服もややクラシカルです。
首元までピッチリと覆われています。学生服をもっと硬派にした感じでしょうか。
縦にも横にも大きい車掌さんですか、そのお顔を拝顔したことは一度もありません。
ついでに、声を聞いたことも無いのです。
以前、一度おじさまに問いかけたのですが、『彼は恥ずかしがり屋だからね』の一言で済まされてしまいました。
どうやら、そういうお方のようです。
あの方は基本的に乗り降りの場にしか現れませんので、こういった場所にくることはありません。車掌さんが来ているだけで、何かが起こるというのは、私も分かってきました。
「一体、何が始まるのですか?」
「不安かい? 心配しなくていい。宇宙雨に備えて、念のために窓の強化に来ただけさ」
おじさまの言葉を証明するように、車掌さんは窓に向けてリモコンの様なものを向けると、車体の外から雨戸のように透明な窓が何枚も重なります。
そして、車掌さんは私達に一つお辞儀をすると隣接している車両へと移動していきました。
どうやら、おじさまの言う通りだったようです。
そのまま、おじさまと談笑しつつ三〇分ほど立つと、コン! と車両に何かがぶつかったような音が私の耳に聞こえてきました。
「宇宙雨が始まったようだね」
「この音がそうなのですか?」
「ああ、窓の外を見てごらん」
おじさまの言葉にしたがって、窓の外をのぞき込んでみると、濁った白色の物体や黒色の物体や灰色の物体がこちらに向かってきていました。
「なるほど……確かに雨ですね」
「だろう? 無機質そうに見えて形や種類が異なっているのが中々オツでね。見ていると面白いのだよ。それに屋根や車体に当たる音は天然の音楽といっていい」
確かに、宇宙雨が降り注ぐ中を突っ切るというのは貴重な体験です。そもそも、この列車に乗っていなければ一生無理だと思います。
それにカン! キン! コン! などと音を立てながら次々と車体とぶつかる音は、確かにおじさまの言う通りどこか音楽のようにも思えます。
自然の音というのはヒーリング効果があるなどと言われていますが、宇宙雨にもあるのでしょうか?
散々私は宇宙雨と言っていましたが、この現象に思い当たる言葉がありました。
「……これは、流星群と呼ぶのでは?」
私がポツリとこぼした言葉におじさまが反応します。
「なるほど、キミの所ではそう呼ぶのか……これは一つ新しい事を知ることができたよ。メモリーに保存しておこう! はっはっはっ!」
そう言っておじさまは愉快そうに笑いながら、目を光らせ、ウィン! とその身体を鳴らしたのでした。
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