【読切】Wings of Elysium Beginning【連載は別枠で4/25~5/6全71epアップします(予約済)】※転生じゃない異世界ファンタジー
Beginning 未熟な過去(01,02統合しました)
【読切】Wings of Elysium Beginning【連載は別枠で4/25~5/6全71epアップします(予約済)】※転生じゃない異世界ファンタジー
鳥宮 悠羽佑
Beginning 未熟な過去(01,02統合しました)
――俺の名は〈ハーディー・スカイブレイド〉。聖騎士団の見習いだ。
誰しもが一度は人生を変える運命的な事件に遭遇する。
俺の場合、それは10歳の時だった。
あの日がなければ、今の俺は存在していなかっただろう。
◇ ◇ ◇
この日、俺達は故郷のハイマー村の外に出て、大人の引率の下、ハイマー村の断崖の下層を流れる自然豊かな川に、5~12歳の子供達10人以上で釣りに来ていた。
引率は、幼馴染のレイリアの義父〈ジョナス〉と、15歳の若き女戦士〈オフィアラ〉だ。
ジョナスは、ここぞとばかりに張り切って、子供達に釣りを教えていた。
毛先がカールした銀髪ロングのオフィアラは、幼い子供達に優しく餌付けのやり方を教えていた。
俺は幼馴染で同い年の女の子〈レイリア〉と一緒に、少し上流の岩の上からマスモンという魚を狙っていた。
ハーフエルフと云われているレイリアは、常人より成長が遅く、当時は5~6歳児程度の小さな体格で幼かった。
雪白色の美しい髪の毛と、少し尖った耳に、宝石のような蒼碧色の美しい瞳が特徴だ。彼女の傍らには、兎のぬいぐるみが置かれていた。
ピクッ! バッシャーン!
小さいながらも釣りが得意なレイリアの釣り竿が動き、即座に彼女はマスモンを釣り上げ、傍らに置いた小さな魚籠に入れた。そこそこ大きなマスモンには少し窮屈そうだ。
「おぉ~……さっすが~」
一方で、俺はなかなか釣れずにいて、レイリアの才能に嫉妬していた。
そこに、2歳年上の12歳の男の子〈ルメリク〉と同い年の女の子〈ミセル〉がやって来た。
「おーい、ハーディー! 釣れてるか?」
「ん~、俺はてんでダメ……レイリアがたった今、釣り上げたところ!」
「ほぉ~、凄いじゃないか‼ レイリア!」
ミセルも拍手しながら「さすがレイリアちゃん! 凄~い!」と彼女をおだてた。
レイリアは「へへ~ん!」と鼻の下を擦り、得意気な表情を見せた。
「レイリア。マスモンが窮屈そうだから、向こうのデカい魚籠に入れて来いよ」
ルメリクがレイリアに言い聞かせた。その場にも小さな魚籠があったが、ジョナス達が居る方に、大きな魚籠がある。
「うん! わかった!」
確かに釣ったマスモンが大きかったので、レイリアは素直に言う事を聞き、マスモンを網に入れて奥の魚籠に向かって「タタタタッ」と走って行った。
レイリアが奥に行ったのを確認し、ルメリクがコソコソと話しかけてきた。
「……なぁ。ここから南東の森にある崖の下に、デッカい岩窟があるのを知ってるか?」
「へぇ~。そうなんだ。どこで聞いたの?」
「半年前に兄貴が見つけたんだ。中に遺跡があったらしいぜ。行ってみないか?」
「えぇ? やめた方が良いってばぁ。魔物が出るかも知れないし……」
「何だ? ビビッてんのか? なっさけねぇの……」
「……ビ、ビビってねぇし! じゃあ行くよ!」
俺はルメリクに煽られ、あっさり乗ってしまった。当然、ミセルも付いて来た。
俺達はジョナスとオフィアラに見つからないように、岩陰に隠れながら、南東の森に入った。後ろを振り返ると、いつの間にかレイリアが付いて来ていた。
「お前は戻れって!」
「ハーディーが心配だから……ボクの魔法は、役に立つかも知れないでしょ……」
レイリアの一人称は〈ボク〉だ。彼女は普通の人間より耳が大きいだけあって、地獄耳と言えるほど聴覚が優れていたという事を忘れていた。
彼女は見た目は幼いが、俺と同い年。むしろ俺なんかよりよっぽど賢く、魔法を得意としていた。とは言え、何故か兎のぬいぐるみを持って来ている。
* * *
――その頃、オフィアラは小さな子供達に釣りを教えていたが、彼ら=ハーディー達がいなくなった事にようやく気付いていた。
「ジョナスさん! そこに居たはずのレイリアちゃんとハーディーがいません! ……ルメリクとミセルもいないわ! 私、探しに行って来ます!」
「えっ⁉ ちょ、ちょっと待って! オフィアラ‼」
オフィアラはジョナスが止める前に走って行ってしまった。
ジョナスは急いで子供達を連れて村に戻り、捜索隊を出す事にした。
* * *
傍には幾つも人が切ったような枝が落ちていた。以前は茂みに隠れていたようだが、誰かが切り拓いた痕跡だ。
「おい、見ろ。兄貴が言ってたのは、あの岩窟で間違いない。印がある」
確かに岩窟の入口の上の方に、菱形と×印が重ねられたような、木の枝で作られた飾りが付いている。ここに来て、俺だけでなく、ミセルも怖気づいていた。
「ねぇ、中は真っ暗なんじゃないの? やっぱりやめようよ……危ないってばぁ……」
ルメリクが、先端に青白い魔霊石が付いた小さく短いロッドを取り出した。
「それなら大丈夫。ほら、これは子供の魔力でも十分明るくなる魔霊石ライトだ。それに、前に兄貴が来た時に魔霊石ライトを幾つか設置したらしいから、それも使えるはず……」
「そのお兄さんと来れば良かったのに……」
呆れてミセルが突っ込んだ。それに対して、ルメリクが反論する。
「兄貴は、2か月前から傭兵の仕事でグラハム王国に行ったっきりだ。それに、危ないってんで連れて来てくれなかったんだ」
「……じゃあ、尚更、子供だけじゃ危険じゃないか……」
俺の心配を余所に、無事に奥まで進むと、鍾乳洞のようなそこそこ広い空間が広がり、ルメリクの兄が設置した物なのか、青白い魔霊石ライトが反応して、ほのかに辺りを照らし始めた。そこには、大きな人型の像と魔除けの石碑のような物があった。
「おぉっ⁉ スゲェ~‼ これが遺跡かぁ……」
ルメリクは驚嘆の声を上げた。俺やレイリア、ミセルも興奮して目を輝かせた。
しかし、石碑は完全に崩れている。
「おかしいな……兄貴が言うには、崩れてもいない綺麗な状態だったって……」
それに、周囲に色々なものが散乱していて、やけに生活感があった。
「痛ッ‼」
尖った物を踏んでしまった。よく見ると、猪や鹿のような骨が散乱していた。
「……獣の骨……? ……ねぇ、あれって、人の骨じゃないの?」
この空間の奥に小部屋のような横穴があり、レイリアがその奥を指を差して言った。
ルメリクとミセルが「ヒィッ⁉」と甲高い悲鳴を上げた。
「えっ⁉ 人間の白骨遺体……⁉」
確かに奥の小部屋には、人の頭蓋骨のようなものや、千切れた衣服が散乱していた。類人猿のものでもなさそうだった。
俺よりもレイリアの方が冷静だったが、遂に彼女も怯え始め、冷や汗をかきながら辺りをキョロキョロし始め、破壊された魔除けの石碑に近付き、掌を向けた。
幼いながらも、レイリアは魔法と魔力操作のセンスがある子だ。彼女が魔力の波動を送ると、石碑の断面がほのかに青白く光った。
「この壊された魔除けの石碑、断面が割と新しい感じ……。魔除けの石碑がつい最近壊されたんだとしたら、結構ヤバいかも……」
レイリアが冷静に分析し、俺はますますビビり始めた。
「ね、ねぇ……そろそろ帰ろうよぉ~……」
ミセルが怯えた表情でルメリクの服を引っ張った。
「ま、まぁ、遺跡も発見できたし、そろそろ戻ろうか!」
ルメリクがそう言って引き返そうとした時――
「オヴォウ! ヴァウ!」
突然、獣と人間の声が混じったような不気味でおぞましい声が響き渡った。
「こ、この声は……ゴ、ゴブリンだ……!」
ルメリクが蒼褪めながら言った。
「ゴ、ゴブリンっ⁉ ど、どうしてわかるの⁉」と、俺は聞いた。
「た、旅先で聴いた事があるんだッ! その時は、兄貴が助けてくれたけど……ク、クソォッ! だ、誰が石碑を壊したんだ……!」
「確かに、魔除けの石碑が機能していれば、ゴブリンは岩窟に入れなかったはず……」
レイリアが呟いた。
「と、とにかく、隠れろ!」
俺とレイリア、ルメリクとミセルの二手に分かれ、左右の岩場の陰に隠れた。
こんな時にレイリアはぬいぐるみを撫で始め、何かブツブツと呟き始めた。
「クンクンッ……ん~? 何か人間のガキのニオイが臭うぞ……」
岩場の隙間から除くと、小柄なゴブリン数体を引き連れた、ゴブリンより背が高い人間……にしては、顔色が悪く、皮膚が薄めのカーキ色で、耳が横に長い男がいた。
ゴブリン達は、それぞれ短刀や手斧、鎌等の武器を手にしていて、獣の牙が連なったような装飾を身に着けていた。
ミセルが「ヒッ!」と声を上げそうになったので、蒼褪めたルメリクがミセルの口を押さえた。
「……あ、あれは、ハーフゴブリンだ……‼ 稀に生まれる事があると云う、ゴブリンと人間のハーフ……! ハーフには、魔除けが効き難いらしい……あ、あいつが最初に入って、魔除けの石碑を壊して、ここを住処にしたんだ……!」
俺達は二手に分かれ、左右の岩場の陰に隠れていた。
その時――
「見ぃつけた!」
ハーフゴブリンは、2体いた。もう1体より小柄で細いメスの個体だった。
ガシィッ!
「ギャッ!」
メスのハーフゴブリンが、ルメリクの腕を物凄い力で引っ張り上げた。
「人間のガキだぉ‼ ゴベリオの兄貴ィ~ッ‼」
「でかしたゴベリーヌ‼ 今日の晩飯だぁーっ‼」
唐突に、ゴベリーヌは怪力でルメリクの腕を引き千切った。
ブチィッ‼ ブシュッ! ブシャアァアァァァ……‼
「ギャァアアアアアアァアアアアアアッ‼」
千切られたルメリクの腕からは大量に血飛沫が噴出し、悲鳴が岩窟全体に反響して響き渡った。ルメリクはそのまま白目を剥いて泡を吹き、意識を失った。
ジュワァアアアァァァ……
ミセルは恐怖で失禁していた。
「……いやっ‼ やめ……やめてぇ……許してぇぇ……」
「何を許すんだぁ~? お前はオイが頂くぅ~! むしろ喜べよい!」
ミセルは、ハーフゴブリンのゴベリオに奥の小部屋に連れて行かれてしまった。
俺はレイリアの口を押さえ、岩の陰で小さく縮こまり、恐怖で震え、動く事ができなかった。
レイリアが俺の手を外そうと、もがいた。俺は「はっ!」と気付き、手を外した。
「……ど、どうしよう……ハーディー」
「シッ! 喋るな」
「喋るのは大丈夫。今、防音魔法『インソノル』が発動してる。周りを良く見て」
周囲を見渡すと、俺自身とレイリアに不思議な紋様が現れ、周囲の岩場に溶け込んでいた。レイリアが持ってきた兎のぬいぐるみは、魔道具だったのだ。
左右の眼球に、防音魔法『インソノル』と迷彩魔法『ヴェレフェクト』の効果が秘められていた。
おそらく外から探られても、何も聴こえないし、周囲の岩場に溶け込んで発見し難い状態となっていた。
「アヴァヴァ!」「オヴォウ、ヴァウ!」「ゲギャッ! ゲギャッ!」
ゴブリン達が探し回るようにうろついていたが、俺達を見つけられなかった。
「ヒィッ! いやぁああああああぁああああ‼ いやっ! だっ、だずげでぇっ‼」
小部屋の奥から、ミセルの叫び声が響き渡った。
しかし、俺は恐怖で動けなかった。いや、助けようとさえ考えられなかった。
下手に動けば、迷彩魔法の効果が乱れる。俺達も発見されて殺されてしまう可能性があった。ルメリクもミセルも、見捨てる事しかできなかったのだ……。
「……し、仕方ないよ……ハーディーは、まだ10歳の子供なんだから……」
俺よりも小さなレイリアが、まるで俺の心情を読み取るように慰めてくれた。
俺は悔しくて悔しくて、目から涙がボロボロと溢れ出した。
「……きっと、もうすぐ助けに来てくれる……ボクは、足跡魔法を使ってたから……」
レイリアは本当に賢い。足跡魔法『フート・スポール』を使い、引率の大人達にだけ見える〈光る足跡〉を残していたのだ。それは、魔物に見えるものではないため、魔物がそれを追って来たわけではない。
「……後ろの小さいゴブリンくらいなら倒せるかも……」
涙目になりながらも、レイリアが魔法で攻撃しようとした。
「い、いや、まだやめておこう……グスッ……こ、このままバレなければ、あいつらはここから出て行って、やり過ごせるかも知れない……」
ゴブリンのレベルは平均で70~80程度と云われている。
そして、当時の俺がレベル57で、レイリアがレベル60程度だった。
これでも普通の10歳児の1・5~2倍程度あり、レイリアは5歳児程度の体格でありながら、俺より高レベルだった。
しかし、弱い個体を偶然倒せたとしても、一回りデカいハーフゴブリンの強さは未知数だ。
ルメリクや俺も、圧縮魔法で圧縮された子供用の小さめの剣は装備していた。圧縮魔法は村の圧縮技師がかけてくれたが、圧縮解除魔法『レドーモ』は、子供でも使える。
1体のゴブリンがこちらの方を見て、首を傾げた。
「ヤバいっ! 気付かれたかも⁉」
「い、いや……まだ違和感を感じたくらいだと思う」
俺とレイリアは息を潜めた。その時だった。
「レイリアちゃんっ‼ ハーディー君っ‼ ルメリク‼ ミセル‼」
「オ、オフィアラさんの声だっ! き、来てくれたんだッ‼」
俺達は防音効果の中で叫んだ。オフィアラが剣を構え、岩窟に突入した。
「アヴァヴァヴァアァッ⁉」
「ウヴォアッ! ヴォアッ‼」
「ゲギャアァッ‼」
ゴブリンが集団で一気にオフィアラに襲い掛かった。
しかし、オフィアラはレベル100《ハンドレッド》を超えていた。
ザザンッ! ザクッ! 斬ッ‼
オフィアラは一瞬で3体のゴブリンを斬り捨てた。
俺とレイリアは「や、やった‼」と、防音効果の中で叫んだ。
「ななな……何だァッ⁉ テメェエエエエエエエエッ⁉」
ルメリクの腕を引き千切ったゴベリーヌが、興奮しながらオフィアラに突撃して、両手に装備した〈魔獣の爪を加工した武器〉を振り回した。
ガキィンッ‼ ザシュッ‼
オフィアラはゴベリーヌの左手の攻撃を剣で防いだが、右手の攻撃が彼女の左肩をかすめるように斬った。
「うぐっ⁉」
オフィアラはすぐに体勢を整え直し、剣を構えた。
その時、オフィアラは、絶命したルメリクを発見してしまった。
「あっ! ……あぁっ‼ ……ル、ルメリク……おのれぇ……‼」
ルメリクの遺体を見て、オフィアラは涙目になりながらも怒りの炎を燃やした。
「……ヴラム・ソード……‼」
ゴォッ! ボボボッ!
オフィアラは、低級か中級の火炎魔法『ヴラム』系の炎を剣に纏わせた。
そして、「ドンッ!」と、爆発的な突撃でゴベリーヌに突撃した。
ザンッ! ガギィンッ‼ ザザンッ! ボボッ! ボッ‼
意外と勝負は呆気なかった。オフィアラが連撃を加えて圧倒して斬り伏せ、ゴベリーヌは『ヴラム・ソード』の炎で焼かれて絶命した。
ズグサッ‼
「うっ⁉」
突如、背後からゴベリオがオフィアラを禍々しい髑髏の装飾が付いた槍で突き刺した。
「……さ、騒がしいと思って出てきたら……オ、オイの妹に何しよっとかぁ~ッ⁉」
ブシュッ‼
ゴベリオは、さらに深々と槍を突き刺した。
突き出た槍の穂先には、棘状の〈返し〉が付いている。
「うぐっ……ガフッ‼ ……お、おのれ……」
オフィアラは苦しそうに血飛沫を吐いた。
「マ、マズいよ! オフィアラさんが殺されちゃうっ!」
レイリアが、迷彩魔法『ヴェレフェクト』の効果範囲から飛び出した。
「ヴラム・スフェイラッ‼」
ボボッ‼ ボゥッ! ゴォッ‼
レイリアは両掌を前に出して、無詠唱で低級火炎魔法『ヴラム』を発動して集束し、塊にして、火炎弾として発射した。子供にしては神業と呼べるほどの事だった。
バッゴォオォーンッ‼
「うげぇっ⁉」
ゴベリオは吹っ飛んで岩に激突した。しかし、その際に槍を離さず、剛腕で思い切り引き抜いてしまった。
ブシュッ‼ ブシュウゥウゥッ……!
槍を思い切り引き抜かれた事で、オフィアラは激しく出血した。
槍には棘状の〈返し〉が付いていたため、傷口がぐちゃぐちゃになっていた。
「オフィアラさんっ! ピ、ピセラッ!」
レイリアがオフィアラに駆け寄り、無詠唱で低級回復魔法『ピセラ』をかけた。
回復力は非常に小さいが、ある程度、止血はできるはずだった。
しかし出血は止まらず、「ドクドクドクドク……」と流れ続け、次第にオフィアラの顔色が悪くなり、蒼褪めていく。
さらに、先程ゴベリーヌから斬られた左腕が赤黒く変色し、腫れ上がっていた。
「こ、これはっ⁉ ど、毒だ……さっきのメスの方の爪に毒が塗られてたんだッ! 血が止まり難くなってる……⁉ ど、どうしようッ⁉ ボ、ボクは解毒魔法が使えない!」
レイリアは身に着けていたポーチを漁った。
「あった‼ 解毒薬! オフィアラさんっ! 効くかわからないけど、これを飲んで‼」
その時、ゴベリオが起き上がって、首を「コキコキッ」と鳴らした。
「あ~、ビックリした……クソガキめ……その程度のレベルの攻撃は効かないねぇ……」
俺は、オフィアラがやられても足が震えて動けなかったが、レイリアのピンチに無意識的に身体が動き、「レドーモ!」と叫んで圧縮されていた剣を元のサイズに戻した。
圧縮解除しても子供用の剣だ。大した大きさでもなければ、強くもない武器だった。
「喰らえぇっ‼」
ガンッ‼
俺はゴベリオの側面から不意打ちで奴の頭を両断した――つもりだったが、奴の〈魔霊気〉と硬い頭蓋骨に防がれ、皮膚にめり込んだだけだった。
しかし、諦めずに、何度も何度も攻撃を加えた。
ガンッ! ゴッ! ドガッ!
「チッ……! クソガキが……効かねぇんだってんだよォッ‼」
ガギィンッ!
俺は何とかその一撃を剣で防いだが、倒れてしまった。
ゴベリオが俺に槍を突き刺そうとした時――
ガギィンッ‼
オフィアラの剣がゴベリオの槍を弾いた。
「ハーディー君……良く時間を稼いだ‼ ……ヴラム……ソード……‼」
ゴゴォッ‼ ボボボボボッ‼ ……ザッ‼
オフィアラの剣が激しく燃え盛り、彼女は力強く地面を踏み込んだ。
「覚悟……‼」
ズッ! ザザァアンッ‼
オフィアラは、ゴベリオを一刀両断にし、その炎はゴベリオを焼き尽くした。
そして、ガクッと脱力し、両膝をつき、その場にへたり込んだ。
「……………………」
彼女の目は虚ろだった。毒が全身に回ったのか、左腕だけでなく、身体中の至る部位が変色し始めていた。さらに出血も多量だ。
「オフィアラさんっ! ピセラッ! ピセラピセラッ‼」
レイリアは何度も何度もピセラを発動した。本来、回復魔法は持続してかけ続ける事ができるので、連続発動するのはあまり意味がない事だが、彼女の気持ちの表れだった。
「レイリアーッ⁉ ハーディー⁉ どこだーっ⁉」
その時、ジョナスの声が聞こえた。村の大人数名を引き連れ、助けに来てくれたのだ。
「ジョ、ジョナスおじさんだっ!」
俺はジョナスに向かって一気に駆け寄り、ジョナスは抱きしめてくれた。
「ハ、ハーディー‼ 無事だったか‼ レ、レイリアはっ⁉」
俺は涙で顔をグシャグシャにさせながら、岩窟の奥を指差した。
「レ、レイリアは無事だよ! そ、それより、オフィアラさんがっ‼ 奥でレイリアが回復してるんだ! ルメリクとミセルは……っ!」
「わ、わかった! 急ごうっ‼」
* * *
ジョナス達が駆け付けた時、オフィアラは既に絶命していた。
奥の小部屋に連れ込まれたミセルは命に別状はなく助けられたが、筆舌に尽くし難い目に遭ったようで、数か月後、自ら命を絶った――と聞いている。
◆ ◆ ◆
――現在。聖騎士団・訓練場。
聖騎士団の教官で、ハーディーの命の恩人でもあるガリオンが、顎髭を撫でながら静かにその話に耳を傾けていた。
ハーディーは過去の事を思い出し、堪えきれぬ後悔の涙を零しながら、震える声で胸の内を明かした。
「……それから俺は、『二度と目の前で誰も死なせない!』『絶対に、友人や仲間の命を護る‼』という思いで、必死で修行しました」
ガリオンは黙って頷いている。
「……オフィアラさん……彼女は、聖騎士を目指して、ずっと努力していました。だから、俺の〈命の恩人〉であるオフィアラさんの夢を、俺も追う事にしたんです……」
ハーディーは下を向いて、涙を溢した。
「だ、だけど俺には、〈目の前で友達が殺されていくのを、黙って見過ごした過去〉がある……という事が、事実だ……‼ ……ガ、ガリオンさん……‼ ほ、本当に……こ、こんな俺が、聖騎士なんて目指して良かったのかな……?」
ガリオンはハーディーの肩を抱き寄せた。
「良いか? ハーディー。〈未熟な過去の過ち〉の〈反省〉から、〈人間は成長する〉んだ……。誰よりも後悔し続けているお前だからこそ、〈真の聖騎士〉になれるはずだ。俺は……お前を応援し続ける! 期待してるぜ……ハーディー・スカイブレイド……‼」
ガリオンはそう言って、ハーディーの頭をガシガシと撫でた。
「……それに、その頃、お前はまだほんの小さなガキだったじゃないか……いつまでクヨクヨと気に病むつもりだ? あの世でオフィアラさんも笑ってるぞ。前を見て進め‼」
ハーディーは「ハッ!」として、レイリアに「仕方ないよ……ハーディーは、まだ10歳の子供なんだから……」と言われた事を思い出し、さらにオフィアラから剣術の指南を受けた時の事が脳裏に蘇った。
――当時10歳のハーディーは、木刀でオフィアラに斬りかかるも、全く通用せずに弾き飛ばされ、座り込んで手で顔を隠し、悔し泣きをしていた。
オフィアラが隣に座り、ハーディーの肩を抱き寄せた。
「……ほら、ハーディー君。そんなに悔しがらないで。君はまだ小さいんだから、仕方ないよ……でも、君はとっても筋が良い! から、私の事なんてあっと言う間に追い抜いて、いつか途轍もない剣士になれるはずよ‼ ……ほら、前を向いて!」
そのオフィアラの言葉がガリオンの言葉と重なり、ハーディーは前を向いた。
「……た、確かに……そ、そうですね……‼ す、すいません‼ 情けねぇ弱音を吐いちまって……‼」
ハーディーは急に恥ずかしくなり、涙を拭って「スッ」と立ち上がった。
「……お、お~し……‼ 俺は! 絶対に強くなって、みんなを護れる男になるッ‼」
ハーディーは腕を上げて咆えた。
そして、改めて、〈必ず強くなり、最高の聖騎士となる事〉を心に誓った。
それを見て、ガリオンは「ニヤリ」と微笑んだ。
Beginning 終
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