第12話 『鏡影館の殺人』

「初めまして、一年一組五班の皆さん。この度、捜査のお手伝いをします、阿畑です。よろしくお願いします。解決に向け、力を合わせて頑張りましょう」

 七三分けの髪をちょんといじって、はきはきと喋る阿畑刑事。いかにも真面目な若手といった雰囲気がよく出ている。年若い議員候補にも見えるかも。声は男にしては甲高い方かな。中肉中背、平均的な大人の男性ってことなんだけど、僕達からすれば大きいと言える。

「早速ですが、事件について、状況をお話しします。質問は、『質問を受け付けます』と言うまでお待ちください。――ここはN県のとある山中。町外れに建つ一軒家――皆さんの背後に見える鏡影きょうえい館で殺人が起きました」

 頭を振って後ろを向くと、いつの間にか西洋屋敷が出現している。ドールハウスをそのまま大きくしたような二階建てで、石造りなのかそれともそのようなパネルをはめ込んであるのかは分からないけど、古色蒼然たる空気をまとっている。赤い屋根にはとんがり帽子のような小さな塔が三つ、等間隔に並んでいるのが特徴的だ。大豪邸と呼べるほどではないが、日本人の感覚からすれば充分大きい。外壁の半分以上は緑の蔦で覆われていて、もし闇夜にこの屋敷を見上げたら、恐怖を覚えるかも。

「あの屋敷に暮らすのは、加々見かがみ家の一族。加々見家の歴史に関しては、後ほど資料をお渡ししますので、必要に応じて参照してください。

 現在――事件が起きる前の鏡影館には、併せて十一名が滞在していました。まず、住人は五名。加々見宇一ういち(五十五歳)と真紀奈まきな(五十五歳)夫婦に、その子供で次男の昭介しょうすけ(三十一歳)の加々見家三名。それから代々住み込みの使用人として仕える宍倉康太郎ししくらこうたろう(六十六歳)と光子みつこ(六十五歳)夫婦。以上が鏡影館の住人になります。一方、外部の者は、毎年、休みを利して泊まりに来るのが恒例になっている長女・美智みち(三十二歳)とその夫・飯塚辰馬いいづかたつま(三十一歳)、そして一人息子のしゅう(六歳)の飯塚家。それから加々見宇一の長年の趣味仲間で文筆業の石狩国彦いしかりくにひこ(六十四歳)。なお、趣味とはチェスやバックギャモンなどボードゲーム全般です。そして石狩の知り合いで、今回初めて招かれた元消防士にして作家の土居喜明どいよしあき(三十五歳)。

 最後の一人が、加々見家長男の令一れいいち(三十七歳)。大学講師でデザイナーでもある令一は、大学入学以来両親と長らく疎遠だったが、高齢になってきた両親側が関係修復を希望し、令一が受け入れたとのことです。

 他にも伝えるべき情報はありますが、長くなるのでこの辺で区切ります。関係者の詳しいプロフィールは、一覧にしており、お手元でいつでも参照できます」

 阿畑刑事の話している途中から、関係者リストという表示が画面(というか視界というか)の右下に出ていた。押してみると、阿畑刑事の言った通り、一覧が出る。


~ ~ ~


加々見宇一55 加々見グループ社長。昔は遊びほうけていたが先代に諭され改める


加々見真紀奈55 その妻。高校卒業間際に長男を産む


加々見昭介31 加々見家次男。グループ企業の一つ加々見フーズ社長。独身


宍倉康太郎66 加々見家使用人。主に建物や設備の修繕や力仕事を受け持つ


宍倉光子65 加々見家使用人。料理を始めとする家事全般を受け持つ


加々見令一37 加々見家長男。大学講師、専門は人間工学。

        デザイナーとしても活動


飯塚辰馬31 農業ロボット開発のベンチャー社長。資金難で宇一の援助を受ける


飯塚美智32 その妻で加々見家長女。読者モデルを経て女優を目指すも挫折


飯塚修6 小学一年生。いたずら好き


石狩国彦64 文筆家、エッセイスト。趣味のボードゲームでは熱くなりがち


土居喜明35 事故で消防士を辞め、作家に転身。石狩の知り合い


~ ~ ~


 今後、関係者が増えていけば自動的に追加されるようだ。また、関係者について聞き込みなど新たに分かったことは、ここに書き足せる仕様になっている。

「続いて、事件そのものについてお話しします。

 最初の死者が出たのは八月二日。前日の八月一日に令一が到着し、十一人全員が揃いました。折悪しく豪雨に見舞われ、山中のいくつかの箇所で小さな土砂崩れが発生しました。先にお伝えしておきますと、その影響により、インターネット及び携帯電話の類が一時的に仕えなくなり、通報が遅れることになりました。さらに、館へ通じる道も多少土砂にやられたため、警察の到着が幾分遅れることにもなりました。

 最初に亡くなったのは誰か? それを話す前に、ちょっと皆さんに聞いてみたいと思います」

 うん? 何だ? 何が始まるんだろ。

「最初の死者は誰だと思うか。アンケートを採ります。私から見て右から順番に、お答えください。そう考える根拠があれば、併せて教えてください」

「いきなり言われても、なあ」

 阿畑刑事から見て右端、僕らの立場から言えば左端に立っていたのは六本木さん。声は明らかに困っているのだが、表情に反映されるのには時間が掛かるらしく、口角を上げた笑顔のままだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る