第28話 冬賀家の執念

一か月前


そこは魔術協会本部のある会議室、重厚な黒い壁に囲まれたその部屋には光源らしい光源がなく人が横並びで十数人は座れるであろう机の中心に蝋燭が一つ置かれているだけだ。


これでは周りの人の顔すら見えない。


時代錯誤も甚だしい、雰囲気作りしか考えられていない中学二年生以下の最低な会議室がそこにあった。


だがここではそれが平常運転のようで、誰もこの状況に意見しようとするものは………


「あの暗すぎじゃないですか?」

いた、雰囲気ぶち壊しである。


「それに空調も効いてないようですが」

そう言った人物は着物の襟を持ってパタパタと動かし空気を取り込む。


そう何を隠そうその人物とは金髪の髪を生やした美少女、秋季蘭である。


「………電気をつけろ」

「かしこまりました」

そしてこの会議の進行役である冬賀直弘が声を低くしてお目付け役に会議室の電気をつけるよう命令した。


風情の欠片もないことを言う秋季に辟易としながらも正論なのは確かなので仕方なく下した命令であった。


「ふむ、では環境も整ったことで………」

「あの空調の方は」

ふりだけでもおそるおそる手を挙げて上目遣いで聞くと冬賀直弘は眉をぴくぴくさせながらお目付け役に空調をつけるように指示した。


「よし、では再度環境が整ったことで会議を始めようか」

冬賀直弘がそれだけを言うと部屋の中にいる多くの魔術師達に緊張が走る。


「”S級強欲アルファイン討伐”に関する、な」

近くにいた書記らしき魔術師がホワイトボードにペンを走らせて冬賀直弘が言ったタイトルを書く。


「ではまず情報の整理からだ、各々出していけ」

「ではまず私から………」

いの一番に声を上げたのは秋季蘭であった。


「私はアルファインの世界に入ったのですがそこで見受けられたのは私の盗撮された写真が貼られたビルや建物達でした」

「そうか、やはりアルファインと秋季蘭の間にはなんらかの関係があると言っていいだろうな」

「先に言っておきますけど私は本当にアルファインの味方とかじゃないですからね」

秋季が訂正すると冬賀直弘はつまらなさそうに目をつむった。


「では他にあるものは」

「では私から」

手を挙げたのは胡桃沢野乃だ。彼女は眼鏡をくいっと持ち上げてから手持ちの紙をホワイトボードに貼った。


「これは今回生き残った下人の情報を元に作られたアルファインと思われる存在の顔の絵です」

「………顔が違うな」

「はい、下人の情報が確かであればアルファインはおそらく顔を変形させたのかもしれません」

「顔の造形を変化させる能力も持ち合わせている可能性があるか」

「一概に能力であるとは言えませんがそう考えることが一番芯が通っているかと」

「それに私がアルファインと戦っていたとき微かに見えた顔もこの絵と似ていた、信憑性は高いだろう」

一度胡桃沢野乃が礼をしてから元の席に戻った。


「では他に何か………またお前か」

冬賀直弘が肩をがくっと落として気だるそうにして手を挙げてる人物、秋季蘭に視線を向ける。


「私その絵のやつ知ってます、そいつ私のストーカーです」

「………なに?」

冬賀直弘が低音の声と共に部屋全体を凍らせるような冷気が部屋を覆った。


「詳しく説明しろ」

「いやなんか前傷付いたそいつを助けたら、やけに私に好意を寄せてきたんです、しかも勝手に家に侵入してくるようになって」

「はぁ?」

冬賀直弘が口を曲げて柄の悪い声を上げた。


「すいません、それ以上の情報はないですけど」

「………その好意を寄せていたという情報と今回出たアルファインの世界に秋季蘭の写真が多くちりばめられていたことについて関連性が見られる、おそらくだがアルファインは秋季蘭に一方的な恋愛感情を抱いていたということだろう」

「………確かにそういうことになるのかもしれませんね」

秋季はぽんっと手を叩いてから今一度席に座った。


「いい情報だった、では他に何か」

「では私から、秋季蘭さんから聞いた話によるとアルファインの世界にはアルファインと対等に戦える強力な存在がいた、と聞いています」

冬賀千尋が冷えた瞳を下に向けながら声を発する。


「あ、そういえばいたわ」

「なんであなたが忘れてるんですか」

今思い出したかのようにぽんっと手を叩く秋季に千尋は呆れたように息を漏らす。


「ほう、となるとS級の魔物がそこにいたということになるな」

「それかはぐれの魔術師か、ですね」

「ふんアルファインとまともに戦えるはぐれ魔術師がいてたまるものか」

千尋の不安を鼻で吹き飛ばす。


「………情報はこれくらいか?」

冬賀直弘が当たりを見渡してもこれ以上の情報が出てきそうにはなかった。


「ふむ、では次に生き延びた下人の処分を伝えたいと思う、どうやらこの下人神田唯人は以前にも感情らしきものを現した任務があったらしく、感情自体があることは最早疑いようがない」

「………また殺す気ですか?」

秋季が格上の存在である冬賀直弘に厳しい視線を向ける。


「いや殺さない、一人の魔術師をアルファインから生かして帰したのだ、古臭い法などに縛られて有望な下人を殺すなど無能がすることだ」

「ちっ随分と優しいな直弘」

顔を歪めながら発言したのは秋季利一、現秋季家当主である。


美容に気をつけているのが年の割には肌にハリと艶がある。その中で顎に生えた無精ひげは威圧感を醸し出している。


「優しいのではない、変わらねばならぬのだ魔術師も、そうすればより多くの魔術師を生かすことができる」

「………その神田とかいうのが特例なだけだと思うがな」

「そうだな特例なのは確かだろう、だからこそ生かすのだ」

「………ふん、まぁ納得だ」

興味がないように目を細めた利一、それは納得しているようだが自分に言い聞かせてるように俯いているようにも見えた。


「だが信用しきるのも危ない、ほとんど白と見て間違いないが今回話す作戦を話すほどの信頼はない」

「まぁ神田とやらが必要なのは囮としての役目だけだからな」

「よし、では下人神田唯人の処分を伝えたところで、ここから本題の作戦について話そう」

少し緩まっていた空気が一変し張り詰めたものに変わる。


「………まず、囮として秋季蘭と下人神田唯人の両名を同じ施設に入れる」

「あのすいません、下人神田唯人に囮としての効力があるのでしょうか」

手を挙げたのは胡桃沢野乃だ、その豊満な胸を揺らして首を傾けている。


「わからない、だがアルファインが世界から出てきたときすぐ行ったのは神田唯人への殺害行為だった、ある程度の執念があるとみていい」

「なるほど理解しました」

すっと胡桃沢は腰を落とす。


「で、続きだが囮として使った両名をアルファインはおそらく自分の世界に引きずり込もうとするはずだ、少なくとも秋季蘭には相当な好意を寄せていることから彼女だけでも世界に引きずろうとするだろう」

そこで一度区切って息を整える。


「だからアルファインが世界に引きずりやすくなるようにお膳立てをする、両名が暮らす施設の警備は限界まで甘くして、施設には入らず魔術師は近くにあるビルで待機してもらう」

「………そうか、あの魔術を使うのか」

「そう、利一が言ったように挑戦魔術チャレンジャーを使う」

「まぁ確かにそれを使えばアルファインの世界に侵入できるな」

「あのすいません、でも侵入したらしたで能力を解除して逃げてしまうのでは?」

おそるおそる手を挙げた胡桃沢が意見するがそれを見て直弘は目をつむる。


「アルファインの能力は自分だけ出て他の人を残すということはできん、解除したなら私達もろともだ、そうすれば別に状況は変わらん、ただ現実世界でアルファインを叩くのみだ」

「………周りに結界も張る、それに五大魔術家現当主二人と次期有力候補が数人、そして他の魔術師が数十人が参加するのだ、万が一にも取り逃すことはない」

それは冬賀直弘の執念であった。


彼の父にあたる冬賀霧人はアルファインの世界から出る魔術を捜索するとき同時に世界に侵入するための魔術を構築していた。


魔術の使用にはアルファインの世界に位置情報を伝えるためのネックレスを携えた人物がいることが必要だが、それでも侵入自体は可能にする魔術を構築することには成功していた。


世界から逃げ出すだけでは飽き足らず、さらには侵入してアルファインを討伐しようとするほどの圧倒的執念を彼は持っていたのだ。


だがこれまでアルファインは上手く姿を隠して生き延びていた、彼の執念は死ぬまで晴らされることはなかった。


冬賀霧人は死ぬ間際「あぁこの手であいつを殺したかった、多くの仲間を殺したあの悪魔をっ!」と涙していたという。その姿を冬賀直弘は直視していた。


その執念を直弘は受け継いだ、そして今その執念がようやく報われようとしているのだ。


「我々の積年の思いを、この執念を、すべてぶつけてアルファインを討伐する!!皆強力してくれ」

その場の誰もが首を縦に振った。



「さぁぁ勝負だアルファインっ!今日この日をもって貴様を討伐する、我々の執念による力をとくと見るがいいっ!」

冬賀直弘の怒号が講堂内に響く。


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁっ!」

アルファインによる後悔にも思える怒号がその場に鳴り響いた。


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