17 特殊ミッション

 まず目に入るのは、数字の羅列られつ


 ――【受け継がれる遺志】ステップ1。


 ――0.752…,0,1.883…,0,-7.559…,0.120…,0,0,0,0。


 そして、その他には、――あれ?


「これだけ……?」


 スクロールする必要もなく、『閉じる』ボタンが最下にあるのみ。


「……??」


 よくわからない。

 閉じてしまって良いのだろうか? それすらわからないのだが……。


 ――あ、そうだ。


 僕は、足元についてきているシャルロットを抱き上げ、画面を見せる。


「あのさ、シャルロット。――コレ、なんだかわかる?」


 僕がそう訊くだに、シャルロットは画面を一目ひとめ見て、即答する。


『位相の座標データですニャ!』


「あ、なるほど。座標か……」と、僕も納得する。


 ……あー、ええと。昨日からちょくちょく使っているワードで、今更ではあるのだけど。

 そもそも『位相の座標』とは何か?


 これは簡単に言えば、『位相の位置を表示するもの』。

 いわば『位相の住所』であるらしい。


 もうちょっと具体的に言うと、――昨日、僕がクエストの中で行き来した、次のふたつの位相。


 すなわち、【崩落溝ほうらくこう】と呼ばれる位相。

 および、【監視者ゲイザー】の本体にまみえた位相。


 これらを始めとして、『位相』というのは、シャルロット曰く『並行世界パラレルワールドのようなもの』であるらしい。……しかしこの並行世界パラレルワールドって、実のところ、僕がいま居る世界(【基軸位相】とか言うらしい)の近くに、存在する。


 で、この無限個の中から、ある特定の並行世界パラレルワールドを選んで転移ジャンプしたいとき。

 そんなときは、いわば目的地の『住所』に相当するような情報が必要になるワケだが、――これをこそ、『位相の座標』と呼ぶのである。


 そしてこの情報、――データの実体としては、僕の居る世界【基軸位相】を基準とし、『対象の位相が、【基軸位相】から相対的にどれくらいズレた場所にあるか、の値を並べたもの』であり。

 それすなわち、数字の羅列られつ、という事なのである(僕もよくわかってないけどね)。


 さて、となれば気になるのは――。


「この位相って、どこだか、――いや。どういう場所かって、わかる?」


 訊ねてみるも、シャルロットは『いえ……』と、こちらを仰ぎながら首を振った。


『残念ながら。――というのも、こちらの座標について、【叢雲アルトキュミュラス・クラウドハブ】には記録が見当たらず。よって公式的には、の位相と思われますニャ』


「ふーん、未踏みとう、ねぇ……」


 誰も訪れたことがない、という事か。

 ううん、……よくわかんないな。けどまぁ、とりあえず情報はコレだけっぽいし、もう画面は閉じちゃっていいかな。と、僕は『閉じる』をタップ。


 シャルロットを床に立たせてドライヤーを再開しつつ、思いついた点のみ、一応追加で訊いてみる。


「何か読み取れる点とかある? 数字からわかる、……特徴、とか」


『はいニャ、……目立つ特徴は2点』


 と、シャルロットは扁平へんぺいな右手を掲げ、手のひらをグーパーする(……指を立てようとしてるのかな? 生憎あいにく指はないので、にぎにぎしてるだけになってるけども……、かわいいね)。


『まず、1点目として、こちら、ですニャ』


「未来の座標?」


『はい、時刻に換算すれば、――本日の、22時頃を示していますニャ』


「へぇ~……」


 座標データって時刻の情報も含まれているんだね。

 ……と、それは良いとして。――。そして、時刻換算で『今晩こんばん22時頃』との事。


 よくわからないし、この時刻に別段べつだん思い当たる何某なにがしも無いけども。

 しかし『特殊ミッション』という形で、あえてシステムが僕に座標データとして見せてくれる事からして、『この時間に、何かが起こりますよ』という事だろうか?


 ええと、例えば、――『特別なクエストが発生する』とか。

 ないしは、『特別な【ひずみ】が発生する』など。

 安直に考えれば、そんなトコだろうか(魔法少女は【ひずみ】を倒すのが仕事なワケだからね)。


 で、一応シャルロットに詳しく訊いてみるも、やはりわからないとの事。

 ちなみに「特殊ミッションって何?」と訊ねても、それすら不明らしい。


 いまいち釈然しゃくぜんとしないものを抱えつつ。僕は、シャルロットの言う『2点目』についても解説に耳を傾ける。


『――2点目、こちらの座標、ですニャ』


「遠方? えーと、遠い、って事かな?」


『はい、……第8軸方向に、マイナス7ポイント以上の距離がありますニャ。――影響としては、この座標へ転移ジャンプする場合、一度の転移ジャンプでは不可。一度、を経由する必要がありますニャ。……そもそも、ギリギリ、第3アンカーの管轄かんかつ範囲外であり、この近辺で【ひずみ】が出現する事は元々あまりなく……』


 ええっと、アンカー、という設備についても昨日聞いたが、……管轄範囲? というのもあるのか。初出の単語だらけで頭が痛くなってくるが、なんとなくは理解できる。


 要するに、――あまり人がおとずれる事も無く、システムによる管理も行き届いていない。


 言ってしまえば『僻地へきち』という事だね。


「……ちなみにさ、もしそこに行ってみるとしたら、変身しなきゃダメかな?」


 つまり『生身なまみでチラ見してそく帰還!』てのがアリかナシか?

 そう思いついて訊いてみるものの、やはり答えは芳しくない。


『変身は必須ですニャ。もともと、魔法少女への変身は、別位相の環境に耐える為の換装かんそうを兼ねているため、……ですニャ』


「なるほどね……」まぁ、なんとなくそんな気はしていた。

 換装、つまり生身なまみで別の位相に行くのは危険! という事だね。


 となれば、この座標へ行くには、『適当なクエストのアサインを受諾じゅだくし、変身してから行く!』という手続きが必要というワケだ。

 はっきり言って、ちょっと面倒である。


 ――うーん、まずは保留かな……。


 と、諸々もろもろ勘案かんあんした結果、僕はそう結論付ける。


 正直、特殊エクストラミッションとか言いつつ、よくわからない事ばっかりな上。


 ……もとより僕としては、これから魔法少女として真面目まじめにやっていくつもりもあまりないのである。

 という事で、何かメリットがあるなら良いのだが、それさえ書いてないなんて、ちょっと不親切である。

 というのは、僕は結構ゲーマーなのだが……、その視点から言わせて貰えば、『ミッション』なんて銘打めいうつくらいなら普通、『報酬』とか提示してくれても良いハズだよね……?


 一応、やたら意味深いみしんなのは、気になるは気になる。……けど、それくらいに過ぎない。

 だからまあ、行けたら行く! という程度で心に留めておこうかな。


 というか、他にも気になる点がたくさんあるワケで(なぜ助かったのか? ほか、昨日上がったらしい『レベル』とか、獲得したい『ドロップアイテム』とか諸々もろもろ……)、正直特殊エクストラミッションとやらだけにかまけてもいられない。


 そんな風に考えをまとめつつ、僕は支度を続けるのだった。



 さて、無事支度を終え(ちなみに念のため、シャルロットも鞄に押し込んで持っていく事にした。何があるかわからないからね……)。


「行ってきます」


 と、誰ともなしに声を掛けつつ(実家に居た頃のクセだ)、玄関扉を施錠したとき。


 ふと、目をったマンションの通路奥、――左隣の角部屋に、引っ越し作業が入っていた。


 へぇ……、と思っていると、数名の行き来する引っ越し業者のうちひとりがこちらに視線を寄越よこした。僕は会釈えしゃくを返す。


 確か、隣の角部屋は長らく空き部屋だったのだが。誰かが入るらしい。


 ぼんやりそう思いながらエントランスまで下りると、――出口のわき、集合郵便受けの前。

 そこに、ひとりの女の子が佇んでいた。

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