少年が優しさを知るまで

彩雲(あやも)

第1話

××年12月25日

今日はクリスマス、友達は恐らく欲しいゲームでも貰っているし、外にはカップルがそこらじゅうに屯している。

俺はといえば、今年も頼んでもいない参考書や辞書を貰い、欲しくなかったと言えば、そんなふうに育てた覚えは無いと怒鳴られ、結局は寒空の下に投げ出されている。

本来なら、児童虐待かなにかで通報されるべき事案だが

最近はもう何をされても興味がもてなくなってしまった。

よって残るのは果てしない虚無感と寒さだけだ。

ただ、俺はどうしても暇になると小難しいことを考えたくなる性分らしく、こういう時は、″なぜうちの親はそうした行動に出るのか″について考えることにしている。

考えたって仕方がないのは百も承知だったが、まぁどうせ暇つぶしなのだから、答えが出なくても仕方ないと思っている。

なんなら妄想でも良かった、少しでも寒く、見ているだけで毒な現実から目を背けたかったからだ。

早速思考をめぐらせてみると、ひとつの仮定を思いつく。

親は、優しさの解釈を間違えているのか?

うちの親は両親とも頭がよく、勉強も出来るため、そういった人達が通う大学で知り合い、結婚したらしく

俺も勉強ができる人の中で人脈を作るのがいいと教えられてきた。

親はそれを愛情と信じて疑わなかった。

俺も途中までは愚直に信じ、努力してきたが、俺はどうにもその″やらされている感″が耐えられなかった。

中学に上がり、いわゆる思春期というやつのせいもあったのか、その違和感と嫌悪感は膨らみ、最後には反抗するという形で顕現した。

それでも親は俺にとってそれがいい事だと信じて疑わず、あなたのためを思って言っているのに、どうして私たちの優しさを受け取ってくれないの、とヒステリックになられ、またそれに対して俺が言い返すと、最後はこうして追い出されている。

ここまで来ると疑問しか残らなかった、なぜそれを優しさだと思えるのか。

優しさとは、相手の感情に依存するものでは無いのだろうか、相手が喜ぶことで初めて意味を成すんじゃないんだろうか。

俺にはまだ、分からなかった。


ふと空を見上げる、雪は今も冷徹に降りそそぎ、聴覚にも意識を向ければ、カップル達がイチャイチャとしているのが聞こえてくる。

もう夜遅いのではないのだろうか、追い出されたのは夕食後の出来事だったはずだ。

しかし、夕食のことを思い出すと、両親は最初気分よくお酒を飲んでいた気がする。

もしかすると、そのまま寝てしまったのかもしれない。

そこまで想像して、本当は俺のことなんてどうでもいいのかもしれない、いやそもそもそんな風に子供に思われる親ってどうなんだろうか、とまた思考が巡る。

散々考えた後、自分にもまだ、愛されたいといった感情が残っていることに驚き、なんだか悲しくなってしまった。

こんなにセンチメンタルになるのも、寒い夜空の下だからかもしれない。

親が寝ているのなら家を離れても関係ないだろう、コンビニのホットドリンクでも飲んでこようと思い、重い足を動かすことにした。

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