2. 市來調査事務所です

 駅周辺に建つ、閉店した理髪店や喫茶店の間を抜けると、レタス畑が広がっていた。収穫の時期なのか、葉がわさわさとひしめいている。

 その向こうに、秋の空を背景にして、やまがそびえていた。

 ——おかはいばらぐんもくまち。人口六千三百五十一人。高齢化率四十七・二%。

 志津崗県の最西端に位置する、面積のおよそ七割をトウジュりんが占めている離島である。

 二〇四三年度、国は、今後存続が難しくなっていくしょうめつのうせいから、既に消滅段階に入っているぜんしょうめつへと、三沐町を指定変更した。

 十六時四十七分。

 たどり着いた三沐町役場は、てつとハイビスカスに囲まれた、南国風味の建物だった。

 がたぴし上がる自動ドアの悲鳴を背後に、ともえは窓口へと歩み寄る。

「やあ、すまない。いちらい調査事務所の者だが、企画調整課のざきという職員に会いにきた。おられるだろうか」

 声をかけると、十数人いる職員たちはこちらを見た後、微かに顔を引きらせた。

 巴の見た目はいささか独特奇天烈なのだ───離島の公務員たちに、そんな反応をさせる程度には。

 脱色し、肩のあたりでぱっつりと切った金髪。

 淡いラベンダー色のサングラスに、カーゴパンツに短いトップス。

 右に五個、左に七個、計十二個開いたピアス。胸元を飾るのは、小さな鈴に鎖を通したネックレス。

 演技めいた話し口は、市來いわく『インチキ祈祷師か詐欺師みたい』らしい。

 気まずく落ちた沈黙に、思わず苦笑を浮かべた時、ずらりと並んだデスクの奥で誰かがすっと立ち上がった。

 えぐれたようにほっそりとしたシルエット。ストライプ柄のワイシャツからは、骨ばった腕が伸びている。

 巴と同年齢くらいのその男性職員は、硬質な靴音を立てて歩み寄ると、怜悧な瞳でこちらを見据えた。

ざきです。遠いところをお疲れさまでした。連絡事項がありますので、別室でお伝えします」

 感情の起伏に乏しい、淡々とした口振りだった。

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