あざとすぎる推しが私の家にいます

れもんP

第1話

仕事が終わり最寄りの駅に着いたのは夜中の11時だった。こんなに遅い時間になってしまったのはいつもちょっかいかけてくる先輩が仕事でミスをしてそのカバーをみんなでしていたからである。最悪だ、今日は推し活する暇がない、なんてことを考えながら歩いていると途中の道で誰かが座り込んでいる。男性のようでかなり顔色も悪そうだ。ここで声をかけないのは違うと思い、心配だったので声をかけた。

「大丈夫ですか?」

返事をする男性だが、明らかにフラフラしていた。自宅まではあと数十メートル。これは家で休ませた方が、と思い自宅まで運びソファーに横にならせて体温を測った。

熱は無いようだが体調はあまり良くなさそうだ。

「これ、水です」

水を差し出すとガブ飲みしていた。そんなに喉が渇いていたのだろうか。

「(この人小川泰斗じゃ)」

推しかもしれないという疑問はあったが、1時間ほど休ませると顔色も回復していた。そしてあそこで座り込んでいた理由を聞いた。

同居していた幼なじみに家を追い出されたと話していた。幼なじみは交際中の彼女と同棲するから出て行ってほしいと半ば強制的に追い出されてしまったらしい。行き場を失い空腹と喉の乾きに耐えていたら気分が悪くなってしまったということだった。

「ということは、今日寝る場所は」

「ないです!」

自信を持って言う推し(にそっくりな男性)。私は女なのであまりこういう提案は良くないということは分かっているのだが

「家が見つかるまで、ここに居ませんか?私磯野紗佳(いそのさやか)といいます」

私の提案に驚いていたようだった。私も自分でこの提案をしておいてビックリしている部分もある。ただ本当に心配で、また一人気分を悪くしてしまうのではないかと思ってしまった。

「すみません、よろしくお願いします」

これが、私と彼の出会いだった。


その日はもう遅い時間だったので客用の布団を出してそのまま寝てもらった。翌日になり、この日は会社が休みであったので彼に色々聞かせてもらった。

「泰斗くんね」

「紗佳さんが知ってる人だよ」

やっぱりそうだったか、なんて思いながら朝食を食べた。

彼は私の推しで間違いないようだった。人気ダンスユニットLITEのメンバーである。私の最推しだ。そっくりすぎたし声まで似てると疑いようがないというのが昨日出した答えだった。答え合わせは朝になったらできたのでよかったと思っている。

泰斗くんは今ツアーの準備とレッスンとで忙しすぎるらしく、引越しができるほど時間に余裕が無いと言っていたので、しばらくここに居て良いことを伝えた。

「ありがとう、紗佳さん、命の恩人だよ」

このキラキラの笑顔で言われたら断ることなんて出来ないし推しが困ってるなら助けたいじゃん、できるだけ。

朝食を食べ終え、準備をしている泰斗くんに合鍵を渡すと今日はレッスンがあったようで彼は仕事に出かけて行った。

泰斗くんが仕事に行っている間に私は足りなそうな物の買い出しに出かけた。まずは布団、コップにお茶碗。一人暮らしだったので足りない物を買っていった。買い物を終え、気がついた時にはもう既に夕方になっていた。夕飯の準備のために食材を買い、自宅に戻った。彼はまだ戻っていなかったようでスマホでメッセージを送るともうすぐ帰宅する、とのことだった。

夕食を準備していると泰斗くんが帰宅した。

「紗佳さん準備ありがとう」

この笑顔は私のメンタルを救う、そう感じていた。

これが推しと過ごす最初の日だった。

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