第8話 殿下のまわり

今日は、門まで馬車で行った。いつまでも、逃げていられない。馬車から降りると殿下が立っている。その場で見ているとランダさんが小走りにやって来て


「おはよう、ウィル」と言った。


「おはよう、ランダ」と殿下が言った。二人の腕がからみあった。去って行くんだねと見ていると、


「お前は・・・ミランダ」と殿下が言った。


「怖いわ」とランダさんが殿下の腕をぎゅっと掴んだ。こっちを見るくらいは、やって欲しいな。


わたしは動かずにじっとして、二人と側近四人を見ていた。


野生動物は目を合わせると襲ってくるらしいから、じっとしていた。


殿下がランダさんを腕に絡めたままこちらへやってくる。挨拶をする。しない。・・・しない


「ミランダ・・・おはよう。元気そうでなによりだ。婚約解消は悲しいかっただろう。心配していたんだ」と殿下が言うと


「怖いです。なにを言われるか・・・略奪女なんてひどい言葉には耐えられません」とランダさんの声が聞こえる。


宰相息子が背中をさすっている。


沈黙?挨拶?


挨拶くらいしてこの場を離れよう。


「ランダさん、そんなこと言いません。思ってないですから。あなたと殿下はお似合いですわ。わたしはそこまで殿下と気が合いませんでした。早く気づいてよかったですわ・・・おかげで学院生活を楽しめます」と言った。


それからあらためて殿下に向けて


「おはようございます。王子殿下」と言うとさっさとその場を離れた。



さぁ早く教室へ言って今日の髪を見せなくちゃ。



「おはよう」と教室に入ると


「おはよう、ミランダ」「ミランダ、おはよう素敵!」「ミランダさんおはよう」と返事が返って来た。


いいわねぇ! 殿下の婚約者の時はみんな礼儀正しくて堅苦しくて、笑顔もなかったから。


「昨日買った髪飾りね、いいわね。危ない発言になるけど、いつも勿体無いなって思っていたのよ。そんなに綺麗な髪なのにって。いつもきちんと結い上げていたでしょ。あれはあれで綺麗だったけど・・・」とナタリーが言った。


「ありがとう。ほんとに良かった」とわたしは答えた。





お昼に食堂に行くと急いで教室を出た人たちが、たくさん席を取っていて、大人数でテーブルに座った。入りきらない人たちもいたけど、椅子を借りて来て、無理に座っていた。わたしたちもすこしずつ詰めてクラス全員で座った。


エミリーとナタリーと一緒も楽しいけど、他の人とも話してみたかったから、とても楽しかった。




そうやって過ごしているうちに、ふと気づいたら、殿下の側近の顔ぶれが変わっていた。


四人とも全員だ。多分留学でもしたのだろう。殿下も留学するだろうからその下地作りで先に行ったのだろうか?


そういえばランダさんは四人のうちのどこに養子に入ったのだろうか?


王家は今回の婚約については、それが決定してから発表するのだろうか?沈黙だ。




わたしとの婚約解消は王家がなにも言わないから、お父様が自分で広めまくった。


「わははは、残念ですが・・・ほんとに残念です」と豪快に笑いながら言いまくっているそうだ。



お母様はお茶会で


「やっと娘と街でお茶を飲んで話が出来ますのよ。お買い物にも一緒に行きましたの。娘がね。お友達と行って気に入ったお店を教えてくれて、一緒に・・・やっと娘を取り戻せました」とこのくだりで、ちょっと涙ぐんだりして・・・感情を見せてはいけない立場のお母様がこれをやった効果は絶大だったようで、やっと王家から解放されたんだ。大きい声で言えないが嬉しいんだと広まった。


そしてお茶会情報で側近四人の行先がわかった。


宰相の息子と公爵の息子は、隣国の修道院に併設された全寮制の学院に入ったそうだ。そこは卒業するまで外に出られない場所で、彼らの親は宰相と公爵は、二人を引き離したいそうだ。何から?誰から?そこはよくわからないそうだ・・・


そして東の辺境伯の息子と騎士団長の息子はと言うと騎士団長息子は北の辺境伯の元へ、東の辺境伯の息子は南の辺境伯の所へ修行に出されたそうだ。



そして新しい側近は伯爵の三男や侯爵家の庶子らしいということで、詳しい出自はわからないそうだ。それは側近と言えるのだろうか?

そういった立場で優秀といった場合もあるから、はっきりしないけど・・・



まぁいいことなんてないから絶対に関わらないけど。


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