第5話 依頼

国王陛下からの依頼はこうだった。




王子殿下は、わたしミランダとの婚約を取りやめて、ランダさん。




正式な名前は、ヨランダ・ボーダード。男爵家の三女だそう。




ヨランダさんと婚約したいとねだっているそう。国王たちは、第二夫人ならばと許可したそうだ。




それで、近日、わたしのみを呼び出してこのことを話し合う。王子殿下が婚約解消を口にすると思うが、泣いてすがって断って欲しい。




その日はそれで終わりで、後日もう一度、両親も同席してヨランダさんを第二夫人とすることを決めるということだそうだ。






王室全員馬っ鹿じゃねぇ! いや、馬鹿ではない。自然体だ。




「きちんと断ってよいぞ」「断っていいですわよ」「断れ」と家族が意見を出しわたしも、




「もちろんお断りです」と答えた。








そして、お城に呼ばれた。馬車からみると側近四人が並んでいた。




「今日でお前は終わりだ」と近衛騎士団長の息子が言うので、ほんとにそうしたいわ。あなたと会うのは今日で終わり!




「ランダを虐めやがって」と宰相の息子が吐き捨てた。あの人とはお昼の時と馬車乗り場だけの遭遇ですけどね。




「今日が王城の見納めだな」と公爵の息子が髪をかきあげながら言った。建物は王都のどこからでも見えるのよ。知ってる?




「これでランダも安心だ」と辺境伯の息子が無駄にさわやかに言った。殿下も入れて五人もそばにいて安心じゃないの?






わたしは礼儀正しく四人がセリフを言い終わるまで聞いてから、なにも言わずに歩き出した。




「なにを無視する」と宰相息子が言ってるけど、関係ない。






途中、宰相が待っていてそこから一緒に皆が待っている部屋へ行った。




一人息子があの王子と同級生だとか運がないんだねーーと思っていたら部屋に着いた。




「スチュワート嬢をお連れしました」と宰相がドアを開けてくれた。




部屋に入って、カーテシーをする。




「よく来た。スチュワート嬢。座ってくれ」と言われて座った。




部屋には国王夫妻、王子、宰相と宰相補佐。それとわたし。王子の隣が空いているからヨランダさんがやってくるのだろう。




「ミランダ、教師たちは皆そなたを褒めておる」と国王が話し始めて




「それに執務も宰相補佐が教えてみたら、よく出来たそうだな」と水を向けられたので、




「そうおっしゃっていただけると」と言いかけると王子殿下が




「そんなことはどうでも良い。聞いただろう。お前との婚約を解消したい」と割り込んで来た。




自然体のこいつなら破棄としか言えないと・・・解消って言えた。褒めねば・・・とか思っていたら




「なにも聞いてなかったのか?」と聞いて来るので、




ありゃ、どこまで自然体が知ってるの? と黙って考えていると




「待てないから来ちゃった」とランダさんがドアを開けて入って来た。




おぉさすが自然体だ。




「この方が泣いて、すがったらウィル優しいから絆されるでしょ! だからわたしが悪役になろうと思って。泥棒猫とそしられても平気よ。ウィルを開放する為ですもの。いくらでもそしられるし、恨まれるつもりよ」




「ランダ!か弱い君が勇気を出してくれた。立ち向かうと言ってくれた。ありがとう。勇気を貰った」とウィルが言うのをつい、面白く見てしまった。




宰相補佐と目が合い、笑いそうになったが、大事な所よ。と息を吸い込んだ。




「こんやくかいしょううけたまわりました」良かった。吹き出さずに言えた。




しーーんとなった・・・・・・・




いつも冷静な宰相が、口をパクパクさせている。




「それは・・・それでは・・・息子を・・・」と聞こえるが、宰相は声が出ていると気づいてなさそう。




「婚約解消ですね」


宰相補佐が返事をしてくれた。こんど差し入れしよう。






「はい、婚約解消です」と国王陛下をちらっと見たが、下を向いて答えた。わたしは涙をこらえているつもりよ。




「ミランダ。いいのか?そのほら・・・」と国王が匂わせるが、




「はい、陛下。このお二人に割り込む勇気はございません」ときっぱりと言った。




「よかったわ。ウィル。怖かったけどがんばって言ってよかった」とランダさんが殿下の肩に頭をもたせかけながら言うと




「ランダが来てくれてよかったよ。縋られてもちゃんと断るつもりだったけど・・・長年の情がね」




二人が話す声が大きいので、宰相補佐に少し近づいて




「署名します」と言った。目の端に写る国王夫妻の顔は青かった。




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