第30話 高橋さんと佐藤くんの場合
八月の蒸し暑い夜、地元の夏祭りで賑わう商店街。色とりどりの提灯が夜空を彩り、太鼓の音が響いていた。
「いらっしゃい!たこ焼きいかがですか?」
屋台の向こうから声をかけてきたのは、
「あの...たこ焼き8個お願いします」
「はい!熱々ですよ。気をつけてくださいね」
大輝が差し出した容器を受け取ろうとした時、美月の手が滑ってしまった。
「あっ!」
とっさに大輝が手を伸ばし、美月の手を支えた。一瞬、二人の目が合った。
「大丈夫でしたか?」
「は、はい...ありがとうございます」
美月の頬が赤くなった。それは浴衣の赤い帯のせいだけではなかった。
翌週、美月は実習先の病院で慌ただしく過ごしていた。急患の搬送があり、救急車のサイレンが響いている。
「火災現場から搬送された患者さんです!」
担架を運んできた救急隊員の中に、見覚えのある顔があった。
「あ...」
「あの時の...」
大輝と美月は同時に声を出した。しかし、患者の処置が最優先。二人はプロとして黙々と仕事に取り組んだ。
処置が終わった後、大輝が美月に声をかけた。
「先日はありがとうございました。えっと...」
「高橋美月です。看護学生です」
「佐藤大輝です。消防士をしています。あの...お疲れ様でした」
「こちらこそ。お疲れ様でした」
短い会話だったが、二人ともなぜか心に温かいものを感じていた。
それから数日後、美月が病院近くのカフェで一人で座っていると、大輝が入ってきた。
「あれ、美月さん?」
「大輝さん!偶然ですね」
「隣、座ってもいいですか?」
「はい、どうぞ」
二人は自然と会話を始めた。
「消防士の仕事って大変でしょうね」
「そうですね。でも、人の役に立てることにやりがいを感じています。美月さんも看護師を目指していらっしゃるから、同じ気持ちかもしれませんね」
「はい。人を助ける仕事がしたくて」
共通の価値観を持つ二人は、話が弾んだ。
「また、お時間があるときにお話しできればと思うんですが...」
大輝が少し照れながら言った。
「私も、そう思います」
美月も微笑んで答えた。
秋の夕方、二人は海岸を歩いていた。オレンジ色の夕日が海面に反射している。
「綺麗ですね」
「そうですね。でも、美月さんの笑顔の方が綺麗です」
「もう、そんなこと言って...」
美月は恥ずかしそうに俯いた。
「美月さん、僕は...」
大輝が何か言おうとした時、美月の携帯が鳴った。
「すみません。実習先からです」
電話を切った美月の表情が曇った。
「急患で、すぐに病院に戻らなければいけません」
「わかりました。送ります」
美月の国家試験が近づいてきた。勉強に追われる日々で、大輝との時間も限られていた。
「ごめんなさい、最近忙しくて...」
疲れた表情の美月に、大輝は優しく言った。
「大丈夫です。美月さんの夢を応援しています。何か手伝えることがあったら、何でも言ってください」
大輝は美月の勉強の合間に、温かいコーヒーを差し入れしたり、励ましのメッセージを送ったりした。
「大輝さんがいてくれるから、頑張れます」
美月の言葉に、大輝の心は温かくなった。
国家試験に合格した美月。お祝いに二人は夜景の見える展望台に来ていた。
「美月さん、合格おめでとうございます」
「ありがとうございます。大輝さんに支えてもらったおかげです」
街の灯りがキラキラと輝く中、大輝が美月の手を取った。
「美月さん、僕は...僕はあなたを愛しています」
美月の心臓が高鳴った。
「僕と付き合ってください。二人で支え合って、人を助ける仕事を続けていきましょう」
美月の目に涙が浮かんだ。
「はい。私も大輝さんを愛しています」
二人は静かに抱き合った。
それから二年後、美月は正看護師として、大輝は消防士として、それぞれの職場で活躍していた。
クリスマスイブの夜、大輝は美月を最初に出会った夏祭りの会場に誘った。今は静かな商店街だが、二人には特別な場所だった。
「美月、僕と結婚してください」
大輝がリングを差し出した。
「人を救う仕事をしている僕たちだからこそ、お互いを支え合える。君となら、どんな困難も乗り越えられる」
美月は涙を流しながら答えた。
「はい。大輝さんと一緒なら、どんな未来も怖くありません」
結婚式は、二人が働く病院と消防署の同僚たちに祝福されて行われた。
「誓います。健やかなる時も、病める時も、お互いを愛し続けることを」
二人の誓いの言葉は、人を救う職業への誓いでもあった。
新婚旅行から帰った二人は、それぞれの職場に戻った。時には大変な日もあったが、お互いがいることで乗り越えられた。
「お疲れ様」
「今日もお疲れ様」
家に帰れば、いつもお互いを労わり合う二人。
夏祭りの夜に始まった恋は、永遠の愛となって二人の心を結んでいる。人を救う仕事に就く二人だからこそ、お互いの大切さを誰よりも理解していた。
そして今も、二人は手を取り合って、愛に満ちた日々を歩み続けている。
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