二番目に高い山

御手洗 暖子

第1章 第1話 1

「私たちはずっと一緒だよね?」


 とぷう子が泣いた。土がついて黒くなった両の手で、石鹸のにおいのする私の手と手を包みこんだ。


「私たち、親友だよね? 親親親親親友だよね? どこにも行かないよね? いつまでもそばにいてくれるよね?」


 顔も泥にまみれていた。おまけに涙と鼻水でぐしゃぐしゃで、おさない私は「かわいそうだな」と胸がしめつけられた。


「うん、一緒にいるよ」


 私はぷう子の顔をまっすぐ見られなかった。手を、洗わなきゃ、と意識はお母さんに向いていた。


 うつむいた視線の先には私の白いスニーカー。今日、黒ずんでしまったのがとても気になる。お母さんが不機嫌になるのが怖い。


 ぷう子は灰色のサンダルだから、すき間からのぞく素足が真っ黒だ。そんな子とは友達になるんじゃない、とまたお母さんに怒られてしまう。


 私だってそんなきたない子は嫌だ。亜美ちゃんみたいなかわいい子に親友だって言われたい。

 だけど、亜美ちゃんはちょっと怖い。ハキハキしゃべって、男子とも仲がいいんだ。


 今ならわかる。あ、私、この子のこと、そんなに好きじゃなかった、って。


 でも、あの頃は一緒にいるのが当たり前で、あの子の他にべったりくっついて歩いてくれる子もいないから、親友だ、って思いこもうとした。


 当時の私は、たいして好きじゃない子に冷たくして離れるほど、つよくて優しくはなかった。


 一人ぼっちがこわかった。


 だれともしゃべらない給食の時間、教室にとりのこされるお昼休み、そして、おびえて行くトイレ。


 誰でもいいから隣にいてほしかった。私のことを大好きだってぎゅっとしてほしかった。


 だから、


「うん、ずっとずっと一緒だよ」


 と甘い言葉をかけてしまう。私の声はうわずっていないだろうか。


 奇声をあげてぷう子が私に抱きつこうとした。私は一歩あとずさった。やめて、汚れるじゃないの。お母さんに怒られる。


 大人になってから振りかえると、一番好きだって、命をかけるつもりで私を求めてくれたのは、あとにもさきにもあの子だけだったかもしれない。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る