第34話 【side】聖女と悪魔
――――ここは、どこだ。
私はヒロインで聖女で……そのはずなのに……!
「ふっふふ……」
闇の中で何かが不気味に嗤う。それを私は知っている。
「やっと分かったわ。全ての黒幕はそう……あなたよ!だからフレドリカが悪役令嬢なのに破滅もせず、ジオは化け物だったし!ヴィックも私のものにならない!あなたが裏から糸を引いてシナリオを歪めたのよ!この、悪魔……!」
「おやおや……悪魔とは。ただの愚鈍な聖女かと思いきや随分と想像力が傑作ですねぇ。しかし……あなたはこの世界に於ける悪魔の役目をご存知で?」
闇の中から現れた悪魔が嗤う。
本当に不気味なやつね。
「何よ、それ……聖女でありヒロインの私の攻略を邪魔する悪の存在よ!」
「これはこれは。随分と悪魔を誤解しているようだ。それはあなたが想像する別世界の理か。それともあなたの元いた世界の理か。良いですか?この世界の悪魔とは……悪しきものを裁く魔神さまの遣いと言う意味ですよ」
「は……?」
何を言ってるの……?魔神は悪。魔神こそが悪。魔王を裏から操るラスボスでしょう?
「……ふーむ、何故そのようなイメージを持つのか……なかなかに興味深いですねぇ。しかし魔神さまとは元々そう言う立場でした。人間がやりすぎれば魔神さまの力が増しこの世界に裁きを下す。それを女神が慈愛の心で救いをもたらす。それがこの世界の仕組みであり理」
何よそれ、そんなの知らない……!ここは聖女ルルカがヒロインとして女神の加護で魔神を滅ぼす世界のはずなのに……!?
「だからこそ……かつての勇者が魔神の加護を得る魔王と和解したのは正しかった。魔王はある意味人間を裁きから救ったわけである。大切な親友であった勇者のために……」
親友……?勇者が魔王親友なわけない!ふたりは敵同士なのがテンプレ!ヒロインの私のお陰で和解するのに私がどこにも出てこないじゃない!
もうわけが分からないわ!そうだ……そもそもこいつは悪魔。本当のことを言っているとは限らない。私を惑わすために嘘をついているのでは?しかし前世でファンタジー異世界のテンプレを学んだ私には実に陳腐だわ。こう言うのは決まって……。
「女神さまがすぐに私を助けてくれるはずよ!私は女神さまの加護を得ているのだから!」
「おや……女神は言っていませんでしたか……?この間のが最後だと」
「え……?そう言えば……そんなことを。でも……そんなのただのデフォルトのセリフでしょ!?最後は聖女の私を助けるために動くはず!だって私はヒロインなんだもの!!」
「いいえ……あなたが聖女の力を悪用して好き勝手したのなら……それはもう女神の管理区外。魔神の領域であり、魔神の使者である【悪魔】の役割を持つ私が裁きを下すのですよ」
「うそ……そんな……女神さまぁっ!」
「もうそのような叫びも女神には届きません。今回は魔神さま直々にいただいてきた永遠の牢獄。あなたは一生そこで苦しみ嘆き、後悔なさい」
「いやぁぁぁぁぁっ!!」
闇が私の身体を呑み込んでいく。いや……いや……声も出せず、抵抗もできない。女神さま……女神さ……女神……女神めえええええぇっ!!!
「ホーリーエリクサーさえ……ホーリーエリクサーさえ手に入ればあぁぁぁっ!!」
「……いえ、無理でしょうよ。あなたがたとえそれを目の前にしたとして、女神が与えるはずもありません。もう二度と……」
女神の予測し得ないところで生まれた異物は女神の加護を持ち逃げし不正に聖女となった。それすらもなし得てしまう世界の異物。
聖女とは名ばかりの異物が闇の牢獄に呑み込まれて行き、静寂がおりてくる。
「ふぅ……世話が焼ける。しかしあの聖女は随分と不思議な思考の持ち主でしたね。しかし同じ世界から転生したフリッカがまともなら……それは元の世界の倫理観のせいではなく、聖女自身の性質なのでしょうね」
しかし本当に勇者と魔王の在り方すら知らないとは。
女神と魔神さまは一時夫婦喧嘩はしましたが……魔神さまは元々愛妻家であらせられる。その女神の慈悲もむげにしたあの聖女を今さら許す気などないのですよ。
「さて……私は地上に戻るとしましょうか。当代魔王とスライム愛好家仲間であるフリッカ……この2人を見るのは非常に興味深いのですよ」
もちろん弟に怒られない程度にほどほどに……ね。
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