第27話 魔王領と魔公国
――――その日、ヴィックの執務室に呼ばれ訪れれば、そこにはライトグリーンの髪の魔族の男性がいる。彼はオーヴェにそっくりであるが顔立ちはいささかキリッとしている。
「参謀さま」
「……フレドリカさま。こうして直にお話しするのは初めてですね」
「えぇ」
彼は参謀のローウェン・クロスブラッド公爵だ。
王城でも見かけたことはある。魔王城でも何度か。しかしそれほど会話をしたことがあるわけではない。むしろ……用があるならまずはオーヴェを通すわよね。
オーヴェの方が親しいもの。
「急に呼んで済まないな」
そしてヴィックも口を開く。
「ううん、私にできることなら何でも力になるわ」
「そう言ってくれて嬉しいよ」
ヴィックがにこりと微笑む。
「……では早速本題に」
「……っ!あぁ、済まんな。ローウェン」
いけないいけない!ついつい見つめ合ってしまうなんて。ここには参謀さまもいるのに……っ!
「フリッカは魔王領と魔公国の親善試合を知っているか?」
「えぇ……私は参加したことがないのだけど、毎年終戦記念日に行っているのよね」
その昔、人間と魔族が争っていた時代。このエーデルシュタイン王国の国祖である勇者と魔王領初代領主が魔王オンブラを倒して戦争を終結させたその記念日。この記念日には諸説あれど、エーデルシュタイン王国では建国祭の3ヶ月前だとされている。
その終戦記念日に行われるのがエーデルシュタイン王国魔王領の魔王軍と魔公国の友好のための親善試合である。
因みにこの魔公国と言う国は魔王オンブラの四天王の生き残りの子孫が国家元首一族を務めている魔族の国。この世界では唯一の魔族が国家元首の国であり、国の主要種族が魔族である。
パッと見魔公国からしたら魔王領の魔王は自分たちの魔王を討ち取った仇敵である。
しかし魔王の血筋ではない魔公国には魔王のジョブを受け継ぐものは一度も出ていないと言う。
魔王のジョブは突発的に出る可能性があれど、人間と魔族の終戦以降魔王ジョブは魔王領にしか生まれていない。
そう……つまりだ。この魔王領の領主で魔王を継承する一族は……魔公国の祖先たちが遣えてきた魔王オンブラの一族なのだ。
にもかかわらず初代魔王領領主は魔王オンブラから離反し勇者と手を組んだ。裏切り者と言われてもおかしくはないと言うのに。しかし今の世界の平和はそれゆえに結ばれたもの。何だか複雑だけど、だからこそ親善試合で少しでも友好を維持している状況だ。
少なくとも魔公国の望む魔王の血筋は魔王領にしかいないのだ。
「……そうだったな。親善試合に来る王族は第2王子や王弟が多かった」
一応中央からも勇者の子孫が参加するのよね。親善試合に参加することはまれだけど、友好の証を観戦するのだ。
シモンは他種族嫌いだったから私が婚約者として行くこともなく、お父さまはお母さまと参加されていた。
「それに……グウェンが嫌がっちゃって」
私はグウェンとお留守番することが多かったのよね。
「そう言えば当代勇者は来てないな」
「そうなのよね」
強制参加ではない。勇者の子孫は他にもいるのでそこから出席すればいいだけだ。
シモンのように魔族嫌いでもない。シルヴァンとは普通に仲良しだし、最近は魔王城にいるが他の魔族たちとも仲がいい。侍女のレオーナたちも私の弟だからってかわいがってくれているしなぁ。
「まぁそこは当代勇者に任せるが……その親善試合に合わせて魔公国側の国賓も招く」
魔公国側からの出席・参加者は事前に決まっており、滞在に関する面倒もこちらで見るのよね。
「魔公国からはアルベルト公子とハンナ姫が出席しアルベルト公子は親善試合にも参加される予定だ」
魔公国からの公子と姫が……!
魔公国との外交は主に魔王領が担っているもの。そしてシモンがバカをやらないよう王城でのお相手は第2王子殿下と婚約者のマリカ嬢が担当されていたはずよ。
「それに関わり、フリッカにはハンナ姫の相手を頼みたい」
「……っ!」
それはまさに魔王の婚約者としてのお役目ね。
「分かったわ。未来のあなたの妃としてがんばるわね!」
「……未来……か。もう今すぐでもいいのだが」
「へ……っ!?」
「……いえ、さすがにこの時期に籍を入れたら混乱しますよ」
その時、参謀さまがピシャリと告げる。あちらも私を婚約者として捉えているし、いきなり妃になったら大慌てよね。
「む……やっぱり強引にでも妃にしておくべきだったか……」
ちょ……ヴィック!?
「強引すぎる男は逆に逃げられますよ」
「……う゛っ」
しかしそう言う真理を突くところは……やっぱりオーヴェと兄弟だなぁ。
しかし魔公国の姫……か。
一体どんな方なのだろうか。
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