魔王さまの特殊形態がかわいすぎるのだけど
瓊紗
第1話 お花畑にもほどがある
――――世界の見え方なんてひとそれぞれ。誰かに決められた見え方に縛られるなんてもったいないと思わないかい?
遠い世界での記憶の中で、サファイアブルーの瞳がそう笑うのだ。
ここは剣と魔法、それから人類と魔物の世界だ。
この世界で人類と呼ばれるのは人間、魔族、獣人、エルフ。人類はみなすべからくジョブとスキルを持つ。
そして魔物はジョブは持たないがスキルを持つ。
そんな世界に転生したのが私。ジョブ:スライムテイマー、スキル:スライムテイムな公爵令嬢フレドリカ・ヴィオレッタ、18歳。愛称はフリッカ。赤みがかったブラウンの髪にツリ目がちなアメジストの瞳を持ついかにもな悪役顔。悪役令嬢。婚約者はこのエーデルシュタイン王国の王太子シモン。
しかし彼は今……聖女として王城に迎え入れられたルルカ・ジュエル男爵令嬢16歳と呑気に身体をくっ付けあって頬を赤らめている。
「……お花畑にもほどがあるわね」
まさかここまで悪役令嬢の要素がてんこ盛りだとは。しかしながら私はできるだけ悪役令嬢の破滅テンプレを踏まないように努力してきたはずだ。
真っ昼間の王城でシモンとイチャイチャするルルカに小言を言わない。
やってることはあっちが悪いがのちのち私の断罪材料になるかもしれない。まるでおとぎ話のヒロインポジションを手に入れた聖女のヒロインチートが発動するかもしれない。
さらにはシモンとルルカに関わらない近付かない。私は王太子の婚約者としての仕事や公爵令嬢としての務めを果たすことに邁進してきた。
せめてもの対策はしてきたはずだが……。
「おい、また来ているぞあの女」
「本当にぼくたちのルルカに散々嫌がらせをしておいて、よくも王城のパーティーなどに顔を出せたものだ」
しかし何故だか私がルルカに嫌がらせをしたことになっているのだ。
クスクスと嘲笑する貴族令息ふたりに目をやる。
騎士団長の息子の侯爵令息ロック・ペリドットと宰相の息子で伯爵令息レナン・セレストーンだ。しかし……自分たちより家格の高い令嬢に平気で悪口を言うとか何なのかしらね。家を通して苦情が行くことは考えないのかしら。
そもそも私は何もしていない。真っ赤な冤罪である。さらには『ぼくたちの』とは……。
この国は一夫多妻は国王陛下だけ、一妻多夫は認められていないのに。まるでゲームの逆ハーみたいね。尤も私の専門はそう言った乙女ゲーム系ではなく冒険系のソシャゲなのだが。
「スライムしかテイムできないくせに」
「魔法も使えないんだろ?やはりぼくたちのルルカが素晴らしい」
ロックの言葉にレナンが続ける。たとえルルカが自分の聖女ジョブを鼻に着せたとしてもそれが何なのか。あんたたちがバカにする権利がある?スライムバカにするんじゃないわよ。少なくとも顔だけはいい聖女や堂々と悪口を言うアンタたちよりはよっぽどかわいいわ。
そしてさらに畳み掛けようとしたロックとレナン
が一瞬にして青い顔になる。
「……そうか。我が娘を侮辱すると言うことはつまりヴィオレッタ公爵家に喧嘩を売っていると言うことか」
「ヴィ……ヴィオレッタ公爵っ」
ロックが辛うじて呟く。そう……私の父であるクロード・ヴィオレッタ公爵だ。銀髪に王族に多いエメラルドグリーンの瞳をしている。
「騎士団長と宰相にはよく言っておく」
「そ……そそそそんなお待ちください!ヴィオレッタ公爵!」
レナンも往生際が悪い。
「ほんと、どういう教育をしているのかしら」
そして続いたのは赤みがかったブラウンの髪にツリ目がちなアメジストの瞳をしたお母さまのアリーシャ・ヴィオレッタ。公爵夫人である。
「フリッカ、もうここは大丈夫よ。私たちが宰相たちに話をつけます。あなたはグウェンと先に帰っていて」
お母さまが私のフレドリカの愛称を呼ぶ。グウェンとは私の弟だ。前世でも私には弟がいたから何だか縁を感じてしまうわね。
「ありがとうございます、お母さま、お父さま」
両親に挨拶をして、早速グウェンを探そうとしていた時。嫌な声に呼び止められてしまった。
「フレドリカ・ヴィオレッタ!貴様は私の婚約者にふさわしくない!」
王城のパーティーで、婚約者の私のエスコートもせず聖女ルルカと戯れていた王太子シモンが突然おっ始めたのだ。
ミルクティー色の髪にエメラルドグリーンの瞳のいかにもな王子さまで御歳二十歳。まるでおとぎ話の中から現れたような見た目だけれどそもそもあなた、浮気してるわよね?二十歳の大の大人がよ?王太子とか王太子じゃないとか言う前に男として婚約者を持つにあたいするのだろうか?こんな男がおとぎ話の中で王子さまやってたら子どもの教育に悪くない?悪いわよね。
「姉ちゃん!」
その時私を呼ぶ声にハッとする。
私の弟で公爵令息な上に……ジョブ勇者のグウェン。グウェンこそ聖女にはうってつけなジョブな気がするが……聖女の本命はジョブ英雄な王太子らしい。それとも聖女は勇者な公爵令息を攻略しにかかったわりに一番位の高い王太子を本命にしたのだろうか?
さらには先程のレナンとロックまで手玉に取っている。男爵令嬢なんぞの立場で逆ハーを極められるのもやはりヒロインポジションなのだろうか。
しかしこちらにグウェンが来てくれたのは心強い。
オレンジ髪にアメジストの瞳、成長期のせいか姉よりも背が高くなるのは前世の弟と一緒ね。
それに何だかグウェンの姿を見ると落ち着くのよ。
すうっと深呼吸をして断罪劇をおっ始めたシモンとルルカを見る。
「貴様はこの国の聖女であるルルカに数々の嫌がらせを行ったな!?」
「……何のことでしょうか」
「白々しいっ!」
いやほんと心当たりがない上にそんなに彼女と関わってないです私。
「ルルカと顔を合わせる度に小言を言い……」
いや、会話せずになるだけ立ち去りましたが。むしろスライムしか使えないジョブスキルだとバカにされましたが。
「ルルカのモノを盗むは汚すわ……彼女はドレスやジュエリーを傷つけられた!」
聖女って質素倹約が求められるのよね?だから神殿が聖女を飾り付けるために金を出すだろうか?そんなことをすれば民衆からの反発が強まる。
そしてしがない男爵令嬢の彼女がドレスにジュエリー……それは普段から彼女が身に付けたり、今この場で着飾っていたりするもののことだろうか?彼女の実家は商売などで儲けている感じはないのよね。農業と狩りで生計をたてる小さな領地を持つ素朴な男爵家だ。だとしたらそのドレスやジュエリーの予算はどこから出たのかしら。王太子のポケットマネーだとしても国民の血税よ……?愛人への貢ぎ物のためにそれを使ったとバレたら国民の反発は必至なのではないかしら。
「ヴィオレッタ公爵家でも私の目の届かない場所でビンタをしたり脅したりして彼女を恐がらせたそうじゃないか!」
「そうなの……っ、シモンさまぁ。私、恐くて恐くて」
ルルカが涙ぐむが……涙は出ていないようだ。それでもあの様子に惚気た男どもが庇護欲を沸き立てるのはお決まりらしい。
そもそも何故彼女がヴィオレッタ公爵家に来るのだろう。グウェンを攻略するためなのだろうが……ヴィオレッタ公爵家では遭遇していないし、両親もあの手この手で入り込んだら即追い出し私会わせないようにしてくれたのだ。
それを聞いた王太子は両親に苦言を呈したようだが……家長は公爵である私の父なので血縁も家同士のやり取りも何もない聖女を公爵家の中に入れる筋合いはないのだ。もちろんそれは聖女の実家や国王陛下へも父公爵から苦言が行ったはずだが、この王太子は諦めていなかったのか。それともヒロインチートの影響で頭がおかしくなっているのか。
「証拠は全て揃っているのだぞ!ヴィオレッタ公爵家でのことはグウェンも証言してくれた!なぁ、グウェン!」
「え、グウェンそうなの?」
シモンの言葉に驚いてグウェンを見れば。
「え……っ?俺知らないけど」
ちょま……っ、せっかくのシモンのカッコつけが台無しなんだけど。本当にこの子は……。むしろグウェンがあそこにいるのは単に流されただけとも言えるわね。
「ま、まぁいい!」
よかねーよ。何がまぁいいだ。証拠ブレブレじゃないの。
「あぁ、ルルカ。私は愛するお前のためなら何だってやってやるっ!」
「嬉しいわシモンさま!愛してる!」
私、何で浮気相手どものイチャイチャ見せ付けられてるのよ。
「とにかくお前は我が国の聖女を傷付けた重罪人!とっととこの悪女を牢屋にぶちこめ!」
「……っ!?」
ええええぇっ!?投獄ってマジなの!?
シモンが叫べば近衛騎士たちが集まってくる。ちょ……いきなり武力でって……あまりにも酷すぎる!杜撰すぎる!……が。
「ほう……?言い度胸だな」
近衛騎士たちを率いてきたのはお父さまである。シモンはルルカとの浮気愛に溺れて近衛騎士団長私のお父さまだと言うことすら忘れてしまったのだろうか。
「こ……近衛騎士団長のくせにぼくの命令を聞けないのか!」
「私の主は陛下だ」
そうお父さまが告げれば、その隣にお父さまとよく似た男性が並ぶ。
「お前には失望したぞ、シモン」
「ち……父上?」
「シモンがこのような失態を犯した以上、シモンとフレドリカ嬢の婚約も破綻だな」
まぁシモンがルルカと浮気し始めたので婚約解消に向けてお父さまも陛下も動いてくださっていたので秒読みだったわけだが。
そして宰相と騎士団長に引きずられながらロックとレナンが青い顔で震えている。
しかしこんな状況でも異様なテンションで歓声を上げたのがルルカだった。
「やったわ!これで私、シモンと結ばれるんだわ!」
誰もそんなことは言ってないのだが。陛下の前でいい度胸をしている。
「聖女殿を捕らえてさしあげろ」
お父さまがそう言えば陛下も反対しまい。
「いやぁっ!私にこんなことをして神殿がどう言うか!シモン助けてぇっ!」
「ルルカ!父上、やめさせてください!ルルカは私の……」
「何なのだ」
陛下の問いにシモンが押し黙る。
恋人だとも言うつもりだったのだろうか?だからなんだ、浮気をしておいて。
――――聖女ルルカが神殿に返されシモンは謹慎させられることとなった。レナンとロックも宰相と騎士団長によって謹慎させられることとなるだろう。
「ほんと……これからどうすればいいかしら」
「なら姉ちゃん、冒険にでも行く?」
「グウェン、あんたね……。あんたは勇者だけど私は……」
「あら、それもいいんじゃないかしら。せっかく婚約解消したのよ?ジオも付いてるんだから、羽根を伸ばして来なさいな」
「……え、お母さま……っ!?」
婚約解消されて羽根を伸ばしに冒険に出ることになろうとは……これって一体どう言うルートなのだろう……?しかしお母さまの言葉もグウェンの様子も冗談とはとても思えなかった。
「ジオはどう思う?」
きっと振り返ればいると思えば、やはりいつの間にか側にいてくれていた。
ぽとんと落ちてきたクリスタルブルーのスライムはどんどんと集まりやがて大きなスライムになれば、次にヒト型を取った。
水色の髪に青いメッシュ、瞳はサファイアブルー。色白の青年の姿。
彼の名前はジオ・スォード。前世で私がレベル999まで育てた騎士であり、今生ではその姿を模した相棒である。
「いいんじゃない?それがジオ・スォードなんだろう?」
「……そう言えばそうだったわね」
「なら手始めにどこに行こうか」
「そうね……魔王領はどう?」
未知の領域、このエーデルシュタイン王国の中の魔族の土地。
「まだまだ私の知らない世界を見たいもの」
いつだってそのサファイアブルーの瞳にアメジストの瞳がそう答えるのだ。
せっかく転生したのなら、決められた世界だけを見るのはもったいない。
だって私はジオ・スォードだったのだから。
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