第24話
翌日、今度はローズが月玉を受け取る儀式が行われる事になった。
ローズは朝早くからメイドや女官達に叩き起こされた。水で沐浴をするように言われる。今は冬に近い季節なのでかなり水が冷たい。空気もひんやりしていてがたがたと震えながらローズは清めの泉に足をつける。そのまま、体を浸してゆく。薄い布地の膝丈くらいのワンピースを着ていたが。それだけでは心許ない。我慢しながら全身を泉に入れた。
「……ローズ様。心を無にして御身を清めてください」
女官に言われて頷く。ローズは自身が仕える予定のルーシア神を思い浮かべながら沐浴を始めた。しばらくして上がるように言われた。泉から出てワンピースを脱がされる。バスタオルで濡れた体を拭いてもらい、髪の水気は魔法で乾かしてもらう。そうしてから月の巫女の正装を着つけてもらった。
「ローズ様。儀式が始まりましたら口を開かないでください。巫女は無言でいるのがしきたりです」
「……わかりました」
ローズはそう言うとふうと息をつく。その間にも正装は着付けられていった。いつの間にか身支度はできあがる。歯も磨いて髪をブラシで整えた。緩く編み、髪紐で纏めたら女官から「後で中級の神官が迎えに来ます」と告げられた。そうしてメイドや女官達は退出して行った。ローズは疲れを感じて瞼を閉じたのだった。
その後、巫女の認定式が行われた。中級の神官が迎えに来てローズを月の神殿にまで案内してくれた。神殿の奥の部屋に入ると白髪の老人が彼女を迎えてくれる。
『おお、君が新しい月の巫女か。イライア殿以来、おおよそ50年ぶりだな』
そう言って嬉しそうに老人は相好を崩した。ローズが驚いていると老人は気付いたらしくこほんと咳払いをする。
『すまぬな。久しぶりなもので。つい、はしゃいでしもうたわい。確かローズ殿だったな。これからよろしく頼むぞ』
『わかりました。どれだけできるかわかりませんが。やってみます』
ローズがしっかりと頷くと老人はにこりと笑った。
『そうか。心強い事だ。わしはナスカの神官長で名をスーラディと申す。ローズ殿。ナスカ皇国の未来は君と白雷の神子にかかっている。これから大変だろうが。頑張っておくれ』
老人ことスーラディ神官長はローズに激励の言葉を言った。こうしてローズは儀式が行われる礼拝堂に移動したのだった。
礼拝堂にて厳かに認定式が行われた。神官が捧げ持つ赤い小さな箱から優美なペンダントが神官長の手によって掲げ持たれる。それはローズの華奢な首に通された。しゃらりと銀の鎖が鳴る。留め金がきちんと留まったのを確認してから神官長は大きな声で告げた。
「……見よ!ここに新しい月玉の巫女が誕生した。皆、このローズマリー・シェイラス殿が月の巫女となった。月神ルーシア様のご加護があらん事を願わむ!」
「……ローズマリー様。万歳!!」
大声で礼拝堂に集まっていた皆が叫んだ。わあっと歓声が上がりローズは圧倒される。が、隣にはジークがいない。ふと寂しさがこみ上げた。どうしてだろうか。不思議に思いながらローズは無言でいたのだった。
この日の夜、ローズは月の神殿に移った。そのまま、着替えて眠りにつこうとしていたが。女官がやってきて一通の手紙を届けてくる。
内容を確認するとジークからだった。こう書いてあった。
<ローズへ
元気にしているか?俺は儀式には出させてもらえなかった。
仕方ないから手紙を出した次第だ。皇帝陛下が俺とローズは清らかでいなければならないと言っていた。
なのでお前には会ってはならないんだと。すげえ屁理屈だよな。つまんないの。
というわけで俺がローズと会えるのはだいぶ先になりそうだ。風邪とかには気を付けろよな。
さようなら。敬愛するローズへ ジークより>
短く書いてありローズは微笑んでいた。ジークの気遣いに嬉しくなったからだ。返事を書こうと思ったのだった。
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