第14話

 ローズはジークと共に大通りを進んでいた。


 大通りには人はおらず、閑散としている。何故か、妖魔の気配すらあってジークは密かに警戒していた。ローズも異変を感じ取っていた。


「……ローズ。わかるか?」


「うん。さっきから後をつけられてる。私にもわかるよ。妖魔だね」


「そうだ。けっこう厄介な相手だぞ」


 成る程とローズは頷いた。ジークは剣の柄に手をかけた。


「ローズ。お前は物影にいろ。俺が妖魔の相手をする。いいか、戦いが終わるまでは絶対にじっとしていろよ」


「……わかった。ジーク、気をつけて」


 ジークは黙って頷いた。ローズは走ってちょうどいい大木の影に隠れる。ジークはそれを見届けると自分の荷物を後ろに放り投げた。


『……オオ。ヒカリノミコダ。ウマソウダナ』


「お前は。牛鬼(ぎゅうき)か。こいつはまた厄介な奴だな」


『ヒカリノミコ。ツキノミコハドコダ?』


 牛によく似た妖魔は意外と知能は高いようだ。牛鬼はじろりとジークを睨みつける。


「月の巫女ねえ。俺は知らないな」


『ウソヲツクナ。チカク二ケハイガアル。オマエ、イイカゲンダ』


「……てめえに言われる筋合いはない。ここで斬り捨ててやる!」


 ジークはそう言ってだだっと駆け出した。そのまま、跳躍をして牛鬼に斬りつける。不意打ちだったせいか、牛鬼の左肩をかすめた。傷口から青紫の血が流れる。


『クッ。オノレ。ヒカリノミコ。オマエハユルサナイ!』


 牛鬼は怒ったようで手についた鋭い爪を振りかぶる。ジークにそれが向けられた。が、彼は後ろに飛び退く。鋭い爪が地面にぐさっと突き刺さる。


「はっ。動きは鈍いようだな。お前の事は俺が消し去ってやるよ!」


 ジークはそう言って剣を牛鬼の頭の角に振り下ろした。ざくっと音がして角と共に頭が真っ二つになる。どさりと牛鬼の体が後ろに倒れた。

 剣をぶんと振って血を落とした。そうした上で鞘に収めた。


「……ローズ。戦いは終わった。もう出てきてもいいぞ」


 大木の影からローズが恐る恐る出てきた。牛鬼が倒されたとわかるとジークに駆け寄ってくる。


「ジーク。怪我はない?!」


「大丈夫だよ。怪我はない」


 ジークは穏やかに笑いながらローズに答えた。


「よかった。ジークが無事で」


「……ローズ。俺はそんなにやわじゃねえよ。まあ、心配かけて悪いな」


「ううん。ジークが無事ならそれでいいの」


 二人でそう言ってから再び歩き出した。戦いで疲れているはずなのにジークはそれを顔に一切出さない。ローズは自分とは体力が違うのだと思ったのだった。



 その後、近くの町で宿屋を探す。だが、なかなか見つからない。仕方なく二人は野宿でもしようかと話し合った。


「……どうしようか。ジーク」


「ううむ。野宿に適した場所でも探してみるか」


 そう互いに頷き合うと二人は野宿に適した森を探そうと歩き始めた。だが、前から誰かがこちらにやってくる。


「あれ。誰か来るよ」


「本当だ。俺たちに用があるみたいだな」


 目配せしあっていたら例の人物は二人のすぐ近くまでやってきた。その人物はまだ若い長身の男性だった。黒い外套を着ていて目つきが鋭い。


「……少し道を聞きたいのだが。いいだろうか?」


「……はい。道ですね。どこに行くか聞いてもいいですか?」


 男性に対してローズの代わりにジークが答える。男性はふむと顎を撫でながらこう言った。


「実は西部のディアール村に行くところなんだが。道がわからなくてね。教えてもらってもいいだろうか?」


「……ディアール村ですか。だったら、この町を出て大通りを北に行けば森があります。その森を抜けたら村に着きますよ」


「……すまない。礼を言う。君達は見たところ、旅の途中のようだな」


 男性の一言にジークの顔が険しくなった。ローズはどうしたものかとこの二人を見ていた。男性はにっと笑ったのだった。

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