第12話
ローズがドアをノックすると中から返事があった。
とりあえず、ドアを開けて頭だけ覗かせる。部屋の中には白いシャツと黒のスラックスという簡素な格好のジークがいた。
「……ローズ。何か用事か?」
「何かじゃないよ。怪我したって聞いて。お見舞いがてらに来たの」
ジークはそうかと言う。ローズは思い切って部屋に入った。
「見舞いに来てくれたのか。ありがとよ」
「うん。腕の怪我、大丈夫なの?」
「一応、手当てはしてもらったよ。そうだな。ローズは治癒魔法が使えただろう」
「……そうだけど」
「ちょっと治してもらえないか?」
ジークの言葉にローズは目を見開いた。まさか、気づいていたとはと驚いてしまう。
「え。いいけど。ジークも使えるんじゃないの」
「お前の方が得意だろう。俺はちょっと下手なんでな」
ローズは仕方ないとため息をついた。ジークの側に近寄ると左腕に両手を当てる。そのまま、治癒魔法の呪文を唱えた。瞼を閉じる。
「……我、今ルーシア神に乞う。かの者の痛みを鎮め給え」
たちまち、部屋に白銀の光が満ちた。包帯が巻かれた腕に光が吸い込まれる。
少しして部屋に満ちていた光は消えた。ローズが閉じていた目を開ける。
「とりあえず、治癒魔法はかけたけど。痛みはどうかな?」
「ああ。痛みは無くなったよ。ちょっと包帯を取ってみる」
ジークがシャツの袖をまくりさらに包帯を取った。左腕にあったはずの深い引っ掻き傷が痕もなく治っている。これには二人も驚く。
「……治ってるな」
「うん。すごいね」
「すごいのはローズだ。治癒魔法をここまで使えるとはな。俺も予想してなかったよ」
ジークが素直に褒めるとローズは頬を赤らめた。二人ともしばし黙る。ぴちちと小鳥がさえずる声が聞こえた。部屋は静まり返っていた。先に沈黙を破ったのはジークだった。
「ローズ。その。今日はお見舞いに来てくれてありがとうな。治癒魔法も無理に頼んで悪かった」
「うん。その。治癒魔法の事は気にしていないから。傷がちゃんと治って良かったよ」
「そうだな」
ジークはそう言うと穏やかに笑った。ローズの頬はさらに赤くなる。心拍数がもっと上がったようだ。さすがにちょっとした美男の自分の父よりも綺麗なだけはあると思うのだった。
「……ローズ。どうかしたのか。顔が赤いぞ」
「え。何でもない。ジークの見間違いだよ」
「ううむ。そのようには見えないぞ」
ジークは唸りながらもローズの額に触れた。熱を計っているらしい。じんわりと彼の体温が伝わる。余計にローズは離れようとした。
「こら。離れるなって。熱が計れないだろ。ちょっとじっとしててくれ」
仕方なくジークはローズの後頭部に手を回した。額同士をこつんと合わせたのだが。なかなかに彼女の熱が高いのに気づく。ローズにしてみたらもう恥ずかしさは頂点に達していた。
「……ううむ。ローズ。熱が高いぞ。もう、俺は怪我は治ったし。家まで送ってくよ」
ジークはやっとくっつけていた額を離した。後頭部に添えていた手もだが。ローズはその場にへたり込みそうになった。するとぐいっと腕を引っ張られた。
「立てないのか。ちょっとおんぶをするから。我慢しろよ」
「……いいって」
「……膝が抜けているのに何言ってんだ。おとなしく俺に頼ればいい」
ローズがまだ何か言おうとする前にジークは彼女を背負ってしまった。大きな背中に心拍数は上がる一方だ。仕方なく家まで送ってもらうのだった。
その後、ジークはローズを家まで送った。二人は束の間の平穏を送っていたが。王都に行く日は刻々と近づいているのだったーー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます