第6話

 ローズはいつも通り、お婆様のいる村外れの家に向かう。


 木で作られたドアをノックするが。返事がない。ローズは奇妙に思ってドアを開けた。

「お婆様。いないの?」

 声をかけるも中は静まりかえって誰もいない。さすがに変だと思い、ローズは中に入る。

 一通り見て回るもお婆様の姿はどこにもなかった。仕方ないので一旦自分の家に戻った。娘が思ったよりも早く帰ってきたので両親は驚いて声をかける。

「ローズ。帰ってくるのが随分と早いな。どうしたんだ?」

 父が尋ねるとローズは首を捻りながら答えた。

「……うん。それがね。お婆様の家に行ったんだけど。誰もいないのよ。家の中にも入って探したけど。お婆様の姿がどこにもないし」

「お婆様の姿がどこにもないって。何があったんだ」

「あたしにもわからないんだ。そうだ、ジークに聞いてくるよ」

 ローズはそう言ってまた外へと飛び出していく。両親は顔を見合わせてどうしたものかと思ったのだった。



 ローズは走りながらジークを探した。今頃は村の近くにある森の中で剣の鍛錬をしているはずだ。そう考えて森を目指した。

 少し入ったところでビュンビュンと剣が空を切る音が聞こえる。この森の少し行った所に開けた場所があった。ローズは速歩きで行く。

 茂みを出ると剣の素振りをしているジークの姿があった。息を乱さずに黙々と鍛錬をする彼はローズに気づかない。

 仕方なくジークに大声で呼びかけた。

「ジーク!!」

 するとやっと気付いたらしくジークが素振りをする手を止めてこちらを振り返った。

「……何だ。ローズか。どうした?」

「いきなりで悪いけど。お婆様の姿がないの。ジークは何か知ってるかな?」

「お婆様の姿がない?」

「そうなの。家の中も探したんだけど。どこにもいなくて」

「そうか。お婆様はもういないよ。たぶん、あれは妖魔だったと思うんだが。本物のお婆様はどこにいるんだか」

 ジークの言った内容にローズは首を傾げた。妖魔って。

「どういうことなの。お婆様が妖魔って」

 混乱しながらも問うとジークは剣を鞘に収めて近くの切り株に座った。そうして昨夜の顛末をローズに話して聞かせた。

「というわけでお婆様は俺が手にかけた。たぶん、本物のお婆様はどこかに閉じ込められたか殺されているだろうな」

「そうだったの。じゃあ、あたしには何で親切にしてくれたんだろう」

「ううむ。それはわからない。ただ、ローズを敵に回すと厄介だと思われたんじゃないか」

 成る程とローズは頷いた。ぴちちと小鳥が鳴いた。

 ジークは空を見上げるとふうと息をつく。ローズも同じようにする。

「……ローズ。俺は王都に行くよ。もう今迄みたいに会えなくなる。それでも良ければさ。いつかでいいから俺の嫁になってくれないか?」

「いきなり何。悪い物でも食べたの?」

「いや。俺は至って健康だし素面(しらふ)だ。その、返事はくれないのか?」

「……うーん。ジークの奥さんにね。まあ、いいよ。いつになるかはわからないけど。ジークが望んでくれるなら」

「そうか。いや、いきなりで悪かった。でもこれで心おきなく王都に行ける」

 そうとローズが言えば、ジークは晴れやかに笑った。

 二人とも立ち上がると手を繋いで村に帰ったのだった。

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