第33話 退魔の巫女は吸血乙女と血で結ばれる(不束者ですがよろしくお願いします)


 雨かな? 頬に何か冷たいものが当たって、目が覚めちゃった。


「ん……んぅ?」


 目を開けると、空は快晴。ふにっとした後頭部の感触でお姉さんに膝枕してもらってることを理解した。眩しい日差しを浴びても、お姉さんは平気な様子……ホントに太陽が効かなくなったんだ。


「おはよう、朝緋」

「おはよ。私、結構寝てた?」

「いいえ、ほんの10分くらい」


 眠気はさっぱり良い感じ。今回も大仕事だったけど、今は爽やかな気分。見上げると、お姉さんの目尻が濡れてた。それに気づいたのか、お姉さんが涙を拭う。


「少し、泣いていました」

「いっぱい泣けばいいよ。終わったんだからさ」

「えぇ……それに、これからのことも考えないと……」

「うむ! 復讐の先輩としてアドバイスは、まず報告だね!」

「え、え?」

しおりさんに、だよ。お墓どこなの?」

「県外にありますけど……」

「ならさ、今度私のお休み……はいつになるか分かんないけど、一緒にお墓参りしよ? 仇は取ったって報告と、お姉さんのことは私に任せてって!」


 それが正しいかはともかく……私も自分の復讐が終わった時は夕緋のお墓に行った。けじめって言えば良いのかな。新しい生活の前に、やれることはやっとかないとね。泣いて終わりだけじゃないんだぁこれが。


「それが終わったら……そうそう、一緒に住むなら今の部屋、殺風景だよね。あとは小物も買わないと! やっぱマグカップ揃えちゃう?」

「……そうね。まだまだ……これから、いっぱいやることがあるのね」

「そうだよ〜? 私を選んだんだから、のんびりしてる暇なんてないよ」


 退魔の巫女は忙しいんだから、ちゃーんと遅れずについてきてよね。巫女喰らいは倒したけど、吸血鬼なんてまだまだいっぱいいるんだし…………


「そうね、でもその前に…………」

「なに?」

返事、まだ聞いてないです」

「うぇっ⁉」


 思わぬ催促に変な声出ちゃった。あれってもう言った扱いなんじゃないのぉ? ほら、雰囲気でそれっぽく言ったじゃん? え、違う?


「このタイミングで聞くぅ?」

「聞きたい」

「もぅ、欲望に忠実なんだからお姉さんは~」


 赤い瞳は情熱的で吸い込まれそう。そんなまっすぐな目で見ないでよー、恥ずかしいなぁ……今まで「ごめんね」以外ほとんど言ったことないんだぞぅ。え、えっと…………こういう時は…………


「ふ……不束者ふつつかものですが、よろしくお願いします」


 うわーっ、キャラじゃないってば! くぅ~、決める時は決めるのに、告白の返事でどうして決まらないんだ私ぃ。顔が熱いー! 太陽、誤魔化して。


「……はい、こちらこそ!」


 お姉さんはそっと、笑顔を近づける。それはとっても自然で、

 初めては柑橘系の味って聞くけど、まさか鉄の味なんてねぇ〜……巫女らしいっちゃらしいんだけどさ。いや、巫女らしくはないか。


 太陽は私たちを照らしながら高く、高く昇ってく。お姉さんは復讐を終えて、私はこれから新しく生きてく理由を見つけて、今日が始まるんだ。


 血から始まった関係は、こうして結ばれましたとさ。


 めでたしめでたし。めでたく終わり……ハッピーエンド、あとはエンドロールが始まってスクリーンから足早に帰る人がいたり余韻に浸る人がいたり…………忘れ物しないでね。


「…………あー朝緋ぃ? まぁ、お熱いシーンのとこ申し訳ないんだが」

「んぁっ⁉」


 聞き間違いかな? 散々聞きなれたパワハ……じゃなくて、仕事熱心な我らが上司の声が聞こえたんですが? 今って主人公とヒロインの熱烈なラブシーンでは?


 恐る恐る首を右に回してみると、銀髪に褐色肌の姉御と、膝丈スカートのセーラー服姿の同僚…………


「もう何も驚かないと思ってたけど……朝緋、あんたやっぱぶっ飛んでるわよ」

「真澄ちゃん⁉ それに、仙ちゃんまで⁉」


 うっそ、プロポーズの返事シーン見られてた⁉

 待って、ちょっとどころかしばらく待って! 巻き戻しとかできない⁉ 


「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ恥ずかしいぃぃぃぃぃ! 上司と同僚に見られたぁぁぁぁぁぁ!」

「まぁまぁ朝緋、いずれバレることだから」


 それはそうだけれども!

 どうしてお姉さんは平然としてるの! めちゃ強な退魔の巫女に囲まれてるんですけど⁉ 懲戒解雇に巫女界から追放待ったなし! そうか、ここから私とお姉さんの逃避行が始まるんだね、そうに違いない!


「お姉さんはやらせないよ、私の恋人だからね! さぁかかってこい元仲間たちぃ…………ぁ」


 立ち上がろうとした瞬間、失血して貧血だとを思い出させるように視界はぐらつき、また倒れちゃった。そして身体は正直で……お腹の虫を大きく鳴らしながら、お姉さんの膝枕に戻っていく。


「お……お腹、空いた」

「ふふ、それじゃあ朝ごはんに行きましょうか」


 締まらない。なんとも締まらない。私って、もっとキリっとカッコいいキャラだったはずなのに。


 こうして……上司と同僚に呆れられながら、私はお姉さんと結ばれたのでした。


 めでたしめでたしッ!!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る