第30話 Day break&Sun break(夜明けは必ずやってくる)
私が切り裂き、お姉さんが叩き潰す。巫女喰らいの手下の吸血鬼を、周囲から這い寄る血に染まった植物たちを。そして隙を見て槍を向けるヴァルクには、2人で反撃する。何十回も繰り返して、巫女喰らいの余力を削いでいく。
「ずいぶん粘るじゃないか」
「しつこさの全国大会優勝者なんで!」
分身の時よりも厄介な能力たちも、ひたすらに二刀で切りまくる。地面は穴ぼこだらけ血みどろまみれ。それでも、私もお姉さんもシャツには血の一滴もついていない。
「どこまでも口の減らない……」
やっと苛々してきたかな? もっとイラついてもいいよ。
襲い来る攻撃を捌きつつ、左右の刀を確認。血の装飾が落ち、刃にはうっすらと桜色が浮き出てきている。そうそう、やっと温まって来たね……ったく、スロースターターなんだからこの子たちは。
「それよりいいの? こんなにいっぱい血を出してたらおじさん失血するんじゃない?」
「心配する必要はない、その為に退魔の巫女を喰らって来たのだからな」
「…………どんだけ食べたの」
「おかしな事を聞く奴だ……お前は食った米粒を覚えているのか?」
「一億ぐらいッ! ――お姉さんッ」
押し寄せる物量をすべて捌き切り、わずかに開いた道にお姉さんと駆ける。真っすぐ一直線…………仕掛けるならここ!
「種が切れたか……」
再び槍を生み出したヴァルクが向かって来る。身体から出てくるかもしれない血液を警戒しながら、穂先ごと槍を空に弾いて隙を作り出した。
「今っ!」
「無駄だ」
予測通り、空に打ち上げられた血の槍にはこだわらずに、ヴァルクは身体の中から固めた血液を突き出した。それも回避してさらに追撃で迫る両手の爪を2人で弾く。これで完っ全に無防備!
「お姉さん!」
「終わりです――――!」
全身を回転させたお姉さんの後ろ蹴りがヴァルクの顔面へ…………
「――――それはお前だ、鬼狩り。第三刃術起動」
お姉さんの蹴りは届くことはなく、寸前で止められた……空から降って来た、ヴァルクの血の槍と、奴の足元……地面から突き出た無数の血の槍に。
「なっ…………!」
「串刺しになるのは人間であって、吸血鬼ではないんだがな」
巫女喰らいは笑った。何本もの槍に刺されたお姉さんを見て、楽しそうに。
その面を見て……何か切れちゃったよね。
「お姉さんに何すんだぁっ!」
心配は後、腕から血液を流しながらヴァルクへ追撃を仕掛ける……けど、私も地面から生えた血の槍に身体刺されていた。防刃加工のシャツを赤く染めながら、巫女喰らいは空を見上げる。
「ここまで追い詰められたのは何百年ぶりだったか…………いや、実に緊張感のある戦いだった。たまには太陽の前で試練に挑まねばな、こうして生を実感するからこそ、日の暖かみに感謝できるというもの」
「なん、で…………」
身体からの出血はなかった。血の槍だって空に打ち上げたんだから関係ないでしょ…………!
「植物操作は人間の街なら簡単にできるから重宝していただけのこと……まさか、オレ自身の能力が血を武器にする程度だとでも思ったか? 足元をよく見てみるんだな」
散々ぶちのめしてきた血のコーティングがされた植物、今まで吸血してきて手下にした吸血鬼たち。お姉さんと2人で捌いていた、巫女喰らいの能力の残骸が散らばっていた。
「体内外を問わず、己の血を思いのままの形に具現化する……それがオレの、
だから物量作戦でわざと血を撒かせたってこと……⁉ めちゃくちゃムカつく…………!
「悪いな、巫女刃術とオレの能力は相性が良いんだ。それに血液を武器として使うなら、吸血鬼の方が上だ。そして巫女の血はただの人間よりも扱いやすい! これを太陽の加護と言わずしてなんという⁉」
何が巫女刃術だ……ただそう名付けてるだけでしょ!
血の槍を解除され、私とお姉さんは地面に落ちる。膝をつく私と、血だまりに伏せるお姉さんを放置して、ヴァルクは背を向けた。
「…………さて、巫女の血もずいぶん失ってしまった。また太陽と会うために集めなければな。新たな旅の前に、太陽もしばらく見納めだ」
「…………ぁ」
何分戦ってた……?
頭に過る疑問は、目の前の光景が答えてくれる。
「太陽の小娘、オレが何の策もなくここに現れたと思うか?」
「もちろん……ここならよく見えるもんね、日の出」
オレンジと白の混じった眩しい光が水平線から現れる。それは、魔の物である吸血鬼を焼き尽くす聖なる光。私達退魔の巫女が、勝利を確信する時。
……普通なら、だけど。
黒髪は太陽の光で煌めいて、赤い瞳は照り輝いて。忌み嫌うはずの眩しい光を、巫女喰らいは全身で受け止めた。
「今日の太陽もオレに微笑んでくれた……多量の巫女の血を失ってもなお! 聖なる光は我が身に熱と安らぎをもたらしてくれる! はは、ははははは、ハッハッハッハッハッハッハッハ! やはり太陽はオレを愛してくれているのだァッ!」
「うるさ…………」
「ほぅ、まだ無駄口を重ねられるのか。さぞ良い血なんだろうな」
血の感想はお姉さんからだけで十分だってば……何かやってくるかもしれないとは思ったけど、足元までは気にしてなかった。
「お姉さん……」
「朝緋…………」
血だまりからお姉さんを抱きかかえると、いっぱい血が抜けて身体はちょっとずつ冷たくなってるのに、太陽の光で少しずつ灼けていく。
見慣れた服も、私の服も赤く染まっちゃってた。せっかく勝負服まで着たのに、めちゃくちゃ汚れちゃった……あーぁ、お姉さんに似合ってるって言ってほしかったなぁ。
「どうお姉さん……私のこの服、似合ってるでしょ?」
だから今聞いておく。多分しばらく着ないだろうし。痛みがすっごいけど、そんなことはどうでもいい。
「えぇ……とっても」
「さぁどうする? 前のように海へ飛び込めば血で仕留めてやる。この場に残れば灰となって焼かれる。その身体では逃げる時間などない……鬼狩り、好きな方を選ぶがいい!」
「うるさいなぁ……いいところなのに」
勝ちを確信してヴァルクはただうるさく笑う。人のこと言えないと思うよ。
お姉さんは串刺し、私も刺されて血出てるけど、なんだか負ける気しないんだよね。ホントは痛くて痛くて叫びたいけど、お姉さんの前でちょっとカッコつけたいし。
ん? はは、やっぱり私……お姉さんのこと――――
「ね、お姉さん。私いいアイデアがあるんだ」
「……聞かせて?」
多分分かってる。でも、私に言わせてくれるんだね……やっぱり優しいや。
「私の血、ありったけあげるから…………飲んで」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます