異能力者の学園〜兄の出涸らしだった俺、異能に目覚めてから毎日が忙しい
お先まっくろくろすけ
第一章 異能の目覚め
第1話異能力者の学園
俺は劣等感を感じながら生きてきた。異能という力に恵まれなかったのもあるが、
そんなのは些細な問題だ。
能力も、知恵も、人柄もどれも俺より優秀な存在がいるからだ。
そんな奴がいたら誰だって自信をなくす、そんな兄が俺にはいた。
その名は
この
蓮が表彰台の上で笑顔を浮かべる。その背後には、学園の校章が大きく掲げられている。拍手が鳴り響く中、蓮は軽く手を振って会場を後にした。
その様子を中等部の列から眺める俺は小さく溜息をついた。
「はぁ……また兄貴が注目されてるよ。ほんと、なんであんな天才の弟に俺なんかが生まれちまったんだろうな」
そんな事を呟きながら会場を後にして俺は初めて入る中等部の教室に向かった。
緊張はしない。どうなるかは大体予想がつく、
すでに伝えられていた席に着いたらすぐに教師が入ってきて、話しを始めた。
「では皆さん、はじめまして、私はこのクラスの担任を務める馬場です、この学校では成績を取るのが厳しいですが、楽しみを持ちつつ取り組んでもらいたい、初めて会う人も多いのでー自己紹介をしよう、一人ずつ前にでてー」
自己紹介かよ、俺は自己紹介は好きでは無い、俺の自己紹介は家族紹介みたいなもんだ。
安藤、石井、小野、片倉、加藤などなど、どんどん自己紹介を終え
だんだん俺の番が近づいてきた。
「よし、野田ありがとう。じゃあ次、早瀬!前に出て!」
俺は特に目立ちたくもないし、無難に済ませるつもりだった。
「早瀬健です、趣味はバーベキューと読書です、よろしくお願いします」
「早瀬になんか質問したいやついるかー?」
「早瀬ってことはあの天才の弟かい?でも、異能がないらしいじゃないか」
俺は何も言えずにいる。
教室がざわつく、片倉はさらに続けた。
「おいおい、天才の弟が異能ないって、本当だったのかよ?」
周りの生徒たちが興味深そうにこちらを見ているのがわかる。顔が熱くなるのを感じながらも、俺は何も言えなかった。
そんな空気を打ち破ったのは馬場だった。
「片倉、その言い方は良くないぞ、慎みを持ちなさい」
片倉は少し顔を引きつらせながらも、
しぶしぶ黙り込んだ。しかし、俺に向けて笑みを浮かべたままだ。
「それに、早瀬」
先生は俺に向き直ると、少し柔らかな声で続けた。
「君と兄貴は違う人間だ。異能があってもなくても、君の価値は異能だけで決まるものじゃない。それを忘れるな」
先生の言葉は確かに優しかった、正論だ。
でも、俺にとってはその正論が余計に響いてくる。気にするなと言われるほど、気にしてしまう。俺の視界には片倉の薄笑いだけが焼き付いていて、他のやつらがどんな反応をしていたのか、ほとんど覚えていない。
片倉は静かになったが、俺の中ではその言葉がずっと頭の中を回り続けていた。
担任の馬場先生が黒板の前で手を叩いて、クラス全員の注意を引いた。
「さて、次は席順を決めるぞ。ランダムで決めるから、みんな静かに聞いてくれよ」
席順がランダムというのはありがたい。俺みたいに、成績も異能も特に目立たないやつは、運が良ければ目立たない位置に座れるからだ。
もっとも、兄貴の名前がある限り、完全に影に隠れることはできないけどな。
教卓の上には折りたたまれた紙がぎっしり詰まった箱が置かれていた。全員が一列になり、次々に紙を引いていく。
俺の番が来て、箱の中に手を突っ込んだ。触れた紙を適当に引き抜き、広げてみる。 「……後ろから3列目、窓側」
悪くない場所だ。端っこだし、窓があるから息苦しさも少ない。少しだけ運が良かったかもしれない。
「次、片倉!」 担任が片倉の名前を呼ぶと、片倉がやや不機嫌そうな顔で前に出た。あいつは、こういうくじ引きにあまり興味がなさそうだ。
片倉が引いた席は、まさに俺の隣だった。嫌な予感が頭をよぎる。片倉はちらりと俺の方を見て、小さく鼻で笑った。
席に移動して座ると、隣の片倉が机に肘をつきながらこちらを見た。
「へえ、天才の弟さんが俺の隣とは光栄なこった」
「……何が言いたいんだよ」
片倉の軽口に、胸の奥がざわつく。わざわざ言葉にしなくても、そんなことは俺が一番よく知っている。
「ま、気楽にやれよ、"天才の出涸らしさん"」 片倉はからかうような口調でそう言うと、椅子に深くもたれかかった。その言葉に反応するのも疲れるから、俺は何も言わずに前を向いた。
とりあえず、新学期早々、面倒くさい席になったことだけは確かだ。
休み時間にトイレから出ると何故か蓮がいて、こっちに向かってきた。
「お、健じゃん、中等部はどう?先生誰?」
俺は今の感情を隠そうと短く返す。
「馬場先生だってよ」
「馬場先生は当たりやん」
「てか何で蓮がここにいんの?」
「いや、お前に弁当渡すの忘れてたから
急いできた」
「まじか」
なんて会話をしてると周りの生徒の視線がこっち、主に蓮の方に集まる。
「才能あるお前は大変だな、
どこいっても見られてるじゃん」
俺の皮肉も届かず蓮は気の抜けたことを口にした。
「健の才能は大器晩成形って感じするけどな、俺は」
片倉のせいだろうか、蓮の余裕が
心地悪い。蓮の言葉は軽い調子だったが、
それがかえって胸に引っかかった。
どうせ何の根拠もないただの慰めだろう。そう思う自分が嫌になる。
そんなことを思っていたら、
「やばっ」
時計を見た蓮が呟き、かすかな風が巻き起こる。
次の瞬間、蓮の姿はもう廊下の先に消えていた。
凄まじいスピードで走ってる姿が何とか見えたが、本当に兄は優等生なのだろうか?
そんなことを授業中に考えているうちに
先生からタブレットが配られ、アンケートを送信することを説明された。
タブレットに触れようとしたその瞬間だった。
指先に静電気が走り、そして、教室の電気が消えた。
「えーこれ停電!?何で!?」
みんなが声をあげ始める。
片倉は停電に騒ぐクラスメートに馬鹿馬鹿しいと言った表情を向けていた。
だけど、何で新しい校舎でこんな停電するんだ?そんなことを考えてる間に
パッと電気がついた。
「停電に関して原因調べるんで、アンケートに答えた人から今日は解散です」
そう言って担任は教室から出て行き、教室は途端に騒がしくなり、何人かは出ていった。
「お前、さっき兄貴と何話したんだ? どうやったら異能が使えるようになれるか聞いたのか?」
その言葉に苛立ちを感じながら、俺は短く返す。
「お前には関係ないことだろ」
片倉は薄笑いを浮かべて続ける。
「俺はお前と違って異能に関する悩みはないもんな?“異能なし“クン」
胸の奥に何かが弾けた。
俺は気づけば片倉の胸ぐらを掴んでいた。 片倉は一瞬たじろいだが、すぐに冷たい笑みを浮かべる。
「おいおい、異能がないのに俺をぶっ飛ばせる気でいるのか?」
拳を振り上げた瞬間、片倉がそれを受け止め、反撃の拳が俺の頬にめり込む。 激しく揺れる視界の中、床に倒れ込む俺を片倉が見下ろす。
「力で俺に勝つつもり?」
体が熱い。殴られた割には痛みが薄い。俺はゆっくりと立ち上がり、片倉を睨みつけた。 「さっきから好き勝手言いやがって。異能があってもこの程度か?」
片倉の表情が一変し、憤怒に染まる。 「なんだと――!」
次の瞬間、片倉がこちらに飛びかかる。俺は再び拳を振り上げるが、その時だった。 拳から青白い光が迸り、バチバチと空気を裂く音が響く。そして、片倉の体が宙を舞い、壁に叩きつけられた。
教室が静まり返る。俺の手には微かな痺れと、拳を包む光の残像が残っていた。
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