本当は誰も魔王を倒したくない物語
図科乃 カズ
1.勇者ウィンは魔王を倒したくないと思っている
皆さんは異世界への行き方を知っていますか?
それは皆さんの想像どおりではあるのですが。
「だからってトラック5台に追い回される僕の身にもなってよ」
「だって確実にこっちの世界に来てほしかったんだもん」
いかにも女神、な衣装に身を包む彼女――創造の女神ディーゼは僕に向かって舌を出す。
くっそー、憎らしいけどその仕草きらいじゃない。どうしてこいつは僕のツボばかりついてくるんだ――って、それは当たり前。だって、
「それじゃ転生させるから自分で創った世界、楽しんできてね、
そういうお約束かよ! という僕の叫びは聖なる輝きによってかき消された。
意識が遠くなり、僕の視界に映る彼女が消えていく――とはならず、何故かジャージ姿。いつの間にか枕を抱えており、見れば後ろにはコタツとテレビが。
なんだお前、やることやったらぐーたらする気だったのか? それにしたってなんだそのセンスのなさは。女神なりのぐーたらってもんがあるだろう。
「だって
やめろ、その言葉は僕に効く……僕はまっ白になって意識を飛ばすのだった。
◇
山﨑悟という冴えない高校生が勢いだけで書いてしまったのが「ゲハイムヴェルト戦記」という
だって僕はそうした厳しい現実を至福に変換してフハフハ感じちゃうマゾで、むしろ読まれないことが
――おーい、だって・もんが口癖のディーゼさん、勝手に僕になりすまして変なこと言わないでくれます? それより今ごろ出てきてなんの用なの?
『あ、一応伝えた方がいいかなと思って。ここは
「それは分かってるよ。というかもう魔王城に向かうところなんだけど」
『え? じゃあ、せっかく覚えてきた〝目覚めたのですね勇者ウィン。
「今までの冒険、見てなかった?」
『だって、
グサッ。自分で創ったキャラに言われるとダメージ甚大。だけどここで涙をこぼしている場合ではない。ディーゼには聞きたいことがあるんだ。
「と、とにかくファナのことなんだけど――」
『あっ、ごめーん。キャッチ入っちゃったから切るねー』
「おい、ちょっと待て」
「呼びましたか、勇者殿?」思わず叫ぶと先を進んでいたギルベンノが振り返る。あ、ごめんなさい、あなたじゃありません、ダッテモン族の女神に言いました。
慌ててそう答えると彼は何事もなかったかのように道案内を再開した。
ここは深遠の森、
そこまで案内してくれる彼は「ゲハイムヴェルトの目」と謳われる
その彼が大事そうに小脇に抱えているのがツインテが可愛い小人族のミリィ。
ギルベンノの助手として書いたチョイ役なんだけど彼は随分と執着しているようで肌身離さずこんな調子。
一方のミリィはといえば脱力していてなされるがまま。チャームポイントのツインテも萎びていて元気がない。
でも分からないのはこの二人だけではない。僕の違和感はここに来てから確実に膨らんでいた。
初めはディーゼ、見た目こそイメージどおりだったけどあんないい加減な性格にした覚えはない。あれじゃ単なるそっくりさん、映す価値なし、だ。
それに最初のゴブリン退治が発生しなかったせいで剣聖イゾルデ・インシュタットと氷結の魔女マギザ・マギエンにも会えなかった。これもなんだかおかしい。
僕の書いた物語のとおりに仲間になったのはただ一人、それは、
「…………」修道服を纏った銀髪の美少女がずっと僕の顔を凝視しながら並行している。
透き通るような白肌にエメラルドの瞳を持つ彼女は聖女ファナ、
心配させないように大丈夫と答えると、彼女は嬉しそうにぴとっとくっついた。
う、可愛い、回復魔法なんてかけられてないのに体力も魔力も全回復マックスハートだよ。書いているときは文字だけだからイメージ出来なかったけど、ファナはこんな独特の香りがするんだな。
照れる僕の隣で彼女はニコニコと笑っている――が、声は出さない。彼女は喋れないんだ。
僕はそんな風に書いていないのにこの世界ではそうなっていた。やっぱりこの世界は僕の物語のはずなのに僕の物語じゃない。
せめてファナは喋れるようにしたいな。きっとすごい優しい声をしてると思う。
だけどこのまま森を進んだら彼女の声を取り戻す前に大魔王のところに辿り着いてしまう。彼女にはそこで
時間と空間を断絶して
そんな風に苦悩しているといつの間にか僕達は開けた崖の上に立っていた。
「あれが魔王城です」ギルベンノが指差す先、樹海の中心に漆黒の城がその姿を露わにしていた。
【飛翔】を使えばあっという間の距離だ。それで
そんな僕の腕にファナの手が触れる。僕を見つめて大きく頷く。
彼女に迷いはない。迷っているのは僕だけ。
「ファナ、僕はね、あそこに行かなくても――」
「【素早き爆炎】!」
刹那、炎と衝撃が僕を襲った。が、勇者の鎧が自動的に弾いてくれたお陰で僕とファナは全くの無傷。
魔王軍か? ファナも聖鈴を手にはめて
それはともかく。僕達が見つめる先、消えゆく火煙の中から現れたのは――大魔道士ギルベンノだった。
「ギルベンノ、どうしてあなたが……」何がどうなってる、この流れは僕の物語にはないぞ。
「
こいつってこんなに野心家だったっけ? 単なる道案内役のつもりだったからそんな深い設定考えてなかったんだけど。
「世界の
柄に手を掛ける僕と、ミリィをしっかりと脇に抱えるギルベンノ――ん? ミリィは危ないから避難させない?
「言ったはずです、魔王は渡しません。と」更にミリィをきつく抱きかかえるギルベンノ。おい、ミリィが死んだ魚のような目になっちゃってるぞ。
「初めてミリィたんと出会った時、
とにかく、ギルベンノは「魔王を渡さない」と言ってミリィを大事に抱えている訳だから、それってつまりミリィが――って、そんな展開、
「まさか、ミリィがそうなのか?」恐る恐る聞く僕にギルベンノは満足そうに大きく頷く。
「…………」
刹那、飛び出そうとしたファナを見逃さなかった僕は、すんでのところで彼女の手を取ると勢いのまま彼女を抱きしめる。
腕の中のファナは一瞬だけ驚いた顔をしたけど、途端にニコニコして抱きついてきた。
まるで子犬みたいで可愛いなぁ、なんて思っている場合じゃない、本当にそうなのか確かめなくちゃ。
「ミリィ、君が
僕の問いかけに気づいたミリィが絞り出すように声を出す。
「吾輩は……
ミリィは
こんな時こそお前の出番だろ、ディーゼ! 僕は心の中で叫んだ。すると――、
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