俺はダンジョン動画投稿者 ~ダンジョン配信? やめておけ、○ぬぞ~

あいお明

「教科書で見たやつだ!」

 人間は愚かだ。

 おのが弱さを棚に上げ、ある者はダンジョンに向かう。果敢にも魔物に挑み、そして散っていく。

 それは無謀ともいう。



 己が弱さを棚に上げ、またある者は、


「魔物がかわいそうだ!」


と絶叫する。

 魔物に敗れ、散っていった同胞たちを、彼らがかえりみる日は来ない。


 そしてそのが、魔物に打ち勝った者たちを苦しめ、死に追いやるとも知らずに。



 世界よ。これが自称・賢い猿ホモ・サピエンスだ――



 ◇


 ここは「東京トーキョー大迷宮・ラビリンス」。日本で唯一のダンジョンだ。

 病気の妹のため、今日も一稼ぎするとしよう。


 録画開始。



 ……おや? 新人配信者ライバーだろうか。まだ新しい装備を身にまとった男6人が、入ってすぐの広間にたむろしている。

 散弾銃に日本刀、防弾チョッキ……ぜいたくは素敵だ。


 いいなぁ~、お金があって。俺スーツに短刀だよ?



「もう1回、練習してこうぜ!」

「そうだな。 ……ゴホンッ、どーもー! “俺ちゃんズ”でーす !! 」

「「「ウエ~~イ !! 」」」


 いやダメだ。6人いるからか、彼ら、油断しきっている。

 もうここはダンジョンの中だ。何が起きてもおかしくない。そして、彼らの他に人影はなく、外や奥から響いてくる音もない。


 つまり彼らに何かあっても、助けは来ない。

 なのにまだ、訓練のつもりでいる。これでは“詰み”だ。



 ……いや、助けてやりたいのはやまやまだが、俺だけじゃ無理だ。もうゴブリンが湧いてしまった。

 現れた3体のうち1体が、集団の一人を後ろから殴る。

 ゴッ、というにぶい音とともに、彼は前のめりに倒れた。首の骨を何本か潰されたのだろう。


「今日は俺らの初配信! ……ってことでね」

「ウエ~……イ?」

「おぉ、どうしたどう……した ?? 」

「ゲギャ……」


 集団は、ゴブリンどもとお見合い状態になる。気まずい沈黙は、7秒ほどで破られた。


「あーっ、配信止められてる!」

「マジ !? 」

「マジマジ。何で……」


 1人がゴブリンに目をやり、そして気づく。


「あぁ、教科書で見たやつだ!」

「それってアレか?」

「そうだった……アレだ !! 」


「「「“ゴブリンの乳首”問題…… !!! 」」」


 それは、新人から芸歴15年のベテランまで、数多あまたの配信者を死に追いやった凶器である。


 “青少年への配慮”を理由に、現存するほとんどの動画投稿サイトが「不適切な投稿」を禁じている。

 といっても、流血や性器など、わかりやすいものはまだいい。たびたび問題になるのが、“男の乳首”だ。

 そして、ダンジョンで男の乳首といえば、ゴブリンのそれ、というわけだ。


 これが投稿動画なら、前もってその部分を加工したり、削除したりしてしまえばいい。だが生配信ではそうはいかない。

 突然、“規約違反による配信停止、もしくはアカウント凍結”措置を取られた配信者たちは動揺する。


 魔物にそんな隙を見せたら、終わりだ。



「ゲギャ」

「「ゲギャギャ……」」


 そして、ここのゴブリンは強い。1体に対して初心者3人がかりでやっと倒せる、といわれるくらいだ。

 俺は息を潜めて、しかなかった。



 やがてゴブリンどもが、むさぼり始める。

 いかなる魔物も、飯時めしどきと寝込みは隙だらけだ。結局、俺はそこで逃げるしかなかった。

 6人組の末路は、ご想像にお任せする。

 


……クソッ、また編集の手間が増えた!



 ◇


 その昔、「業楽ごうらくレディオ」という有名配信者がぎんじた。


配信者ライバー殺すにゃ刃物は要らぬ、チ●コ1本出せばいい」



 彼の辞世じせいの句となった、最っ低の都々どどいつはさておき。

 配信者の、真の天敵はどちらか。裸という野性か、それとも人の理性か――



――――――――――――――――――――

 お読みいただき、ありがとうございます m(_ _)m

 少々ハードボイルド(?)ですが、おつきあいいただければさいわいです。


【追記】

 応援・フォロー等ありがとうございます!

(2025/07/07)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る