【短編】メンヘラ、ホス狂いの妹を見捨てました。一番ひどい人間だという自覚あります。でも自分の将来を犠牲にはできませんよ?
山野小雪
第1話 訪問してみたら
私の名前は西倉
都内の有名私立大学を卒業して現在総合商社で働いている。
そして来年の6月に結婚式を控えている。
会社では知的でクールなイメ―ジがあると言われている私だけれど、結婚には強い憧れを持っていた。
相手の男性は仕事を通じて知り合った人だが、お互いの父親同士も同級生で仲が良く、彼は大変良い家柄の出身で、うちの家としてもこの結婚は喜ばしいものであった。
そして私が今回、両親から命令を受けたのは都内で1人暮らしをしている妹、
*
大学進学をきっかけに1人暮らしを始めた。しかしほとんど大学の講義には出席していないという。それどころか芹菜は周りの人間にお金を借りていて、それを返済していないらしい。
芹菜は元々、自己肯定感が低い子だった。
数か月前に芹菜が歌舞伎町のホストクラブで遊んでいるという話を聞いても私はさほど驚かなかった。
他人の評価でしか自分の価値を見出さないタイプだ。
そんな彼女がホストクラブのような自己肯定感を上げてくれるような場所に足を踏み入れたら抜け出せないのは当然だと思う。ただやっかいなことが起こるような気はしていた。
父親は興信所を使い、芹菜が自分のお気に入りのホストをナンバー1にするために風俗店で働いてることを突き止めた。両親は発狂ものだ。母親がしつこく芹菜に連絡した。結果無視されるようになった。
そのため両親から命令を受け、妹の様子を見に来たのだ。
こうして芹菜の住むマンションの前まで来た私だが自然とため息が漏れた。
*
国道から北に入った閑静な住宅街、
このマンションはうちの父親の持ち物だ。
一棟丸々資産運用で数十年前に購入したものだ。羽振りが良いと思われるかもしれないが持っている人は持っているのだ。しかしあくまでも父親の資産だ。
オートロックなのでまずインターフォンを鳴らしてみた。反応がないので合鍵で開錠し、エレベーターに乗り、部屋の前まで行ってみた。
もう一度インターフォンを押す。やはり反応はなかった。
さすがに不在時に入るのは心が咎めたが、今回は両親からの命令でもあるし、報告もしないといけないので私は芹菜の部屋に足を踏み入れることにした。
室内に足を踏み入れた瞬間、なんとも奇妙な違和感が感じられた。肌にねっとりとまとわりつくような不快なものが空間を支配しているような気すらした。
換気がされていないためか室内の空気が淀んでいるのだ。にもかかわらず甘い香りが鼻につく。そして人の気配のようなものが感じられた。
玄関には厚底のロリーター風のピンクの靴と男性のスニーカーが何足か散乱していた。
やはり推しのホストと一緒に住んでいるらしい。これは母親から聞いた情報だ。
「せ、芹菜いないの!? お姉ちゃんだよ、留守なの?」
留守なのだろうか。それとも在宅してるのか、どっちだ。
玄関の左側にある洗面所に人の気配を感じた。
「――誰?」
洗面所の中にある浴室から突如女性の声が聞こえた。芹菜のものだ。よかった、在宅だ。私は胸を撫でおろした。
「芹菜? お姉ちゃんだよ、そんな所で何やってるの? お父さんもお母さんもみんな心配して――」
ここで一瞬、言葉を失った。目の前の光景を理解するのに時間がかかったのだ。
「……なにやってるの?」
「ああ お姉ちゃんか」
パーカーとホットパンツという部屋着姿で芹菜は浴室に立っていた。
床に置かれた3つの七輪と黒い練炭。まだ火は付けられていない。こんな所でバーベキュ―をする人間なんていない。
浴室の扉を目張りするためにビニールテープを手にした芹菜の姿だった。
「……今から、練炭自殺しようと思っていたんだけど」
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