第4話

 次の日、放課後すぐに病院に行った。


 病室のドアを開けると、凌は眠っていた。日に日に起きている時間が少なくなっているらしい。

 発症してから一度でも太陽光に当たったら、その後当たらなかったとしても弱っていくって本当なんだ。


 一日会わなかっただけなのに明らかに痩せたのが分かる。


「せっかく来てくれたのにごめんねぇ」


 眉を下げておばさんが言う。


「違うっ、おばさんのせいじゃないよ!」

「あら、美琴ちゃんは相変わらず優しいわね~」


 無理矢理笑顔を作っているけれど、内心本当に苦しいんだろう。もう自分の息子が死んでしまうことが分かってるから。


「おばさん。いつでもうち、来てくださいね」


 本当はこんなこと言いたくない。凌が死んでしまうことを認めているようで。死んで欲しいって言っているような気がして。

 でも、おばさんが悲しむことを凌は何より望んでいないだろう。


 彼はこんな状態。おばさんを元気づけられるのは、私しか居ない。


「ありがとうね、美琴ちゃん」


 やっぱり私のそんな言葉だけでどうにかなることじゃなかった。でもおばさんはさっきより笑顔になっていた。私が話せば、少しだけでも元気になってくれるかな。


「飲み物買ってくるわね」


 そう言って病室を出たおばさん。やることが無くなって、凌の顔を見つめる。


 病室の無機質なLEDだけに照らされた顔。窓にはアルミホイルが敷き詰められている。

 病院には窓がいっぱいだ。そこから太陽光も必然的に入ってくる。この病室から出ることさえも、凌は許されないんだ。この病室も廊下の端っこで、窓がないところにある。


 それって、どれだけ苦しいだろう。自分がいるところが縛られるって、どれだけ辛いだろう。


 分かってあげたいのに、分かれない。いっそ私が太陽病になれば良かったのに。


 何でもできて人気者の凌よりも、誰にも必要とされない私が死んだ方がこの世界はちゃんと回る。私なんか居ても居なくても同じなんだよ——凌と違って。


 その時、凌が瞼を開いた。


「凌⁉ 大丈夫……?」

「美琴……」


 一昨日来た時より声が掠れていた。私の手を握る力も弱い。


「来なくていい。うつるかもしれないんだぞ」


 押す力が無かったのか、私に握られていた手を離して反対側を向く凌。とても苦しそうで、私も一緒に痛みを知りたかった。


「うつってもいい。私にとっては今凌の隣に居ることが大事なのっ」

「うつったら死ぬんだぞ?」

「私ぐらい死んでもいいよ」

「それはダメだ!」


 今までに出したことのない大きい声を出して、軽く咳き込む彼。

 本当にいいんだよ。私ぐらい死んだって。私が死んでもいいから、凌にだけは死んで欲しくないんだよ?


「……俺は美琴に生きていて欲しい。それだけだ」


 そんなこと、言われたって。


 これから死ぬかもしれない君が、何を言っているの。

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