第2話


 考えようによってはそこまで悪いことにはなっていない──と空騎士アロイスは思った。

 共和政府による空騎士に対する粛清の嵐は、煩わしい上層部を取り払ってくれたともいえる。出自の卑しさによって栄達の道からは外されていた身であるが、むしろそれがこの革命後の世界においてはいい方向へと働いた。

 大鳥を操る技能はあるが軽薄で政治的信念を持たない男──これが共和政府の思想調査においての、アロイスに対する結論だった。

 アロイス自身は、それが特段悪いことだとも、恥ずべき事だとも思わなかった。

 実際、忠誠心が強かった一部の空騎士たちは内戦を最後までオルゴニア帝国皇帝の側で戦ったが、彼らはいまや反革命罪で牢屋の中である。

 冷たい牢獄の中で虐待を受けるのと比べれば、自由の身で友人と楽しく過ごす方が、よっぽどよかろう……と、アロイスは当然のように考えた。

 

 査問から解放されたアロイスは、ひとつ背伸びをした。そしてやれやれと宮廷のなかを歩きだす。

 いまや、この宮廷は共和主義者によって占拠されている。内裏は共和政府中枢の会議室となり、宝物庫からは皇帝の蒐集品が運び出され、近衛兵の代わりに革命軍の兵士が巡邏をしている。

 宮廷の長い廊下を抜けると、そこには一人の男がアロイスを待ち構えていた。鋭い目と堅く結んだ口の、小柄ながらに精悍な男。(小柄であるということは、大鳥を駆る空騎士にとっては、きわめて有用な体格的資質である)

 その男の姿をみて、アロイスは内心、胸をなでおろした。そして声をかける。

「よう、カミル。おまえの方はどうだった?」

「特に問題はない」と、男はにべもなく答える。

「そうか? おれは、おまえのことが心配だったけどな。だっておまえは昔から口下手だから。なにか口ごもったりして、連中に余計な不信感を持たれたりするんじゃないかって気が気じゃなかったよ」

「そうか」

「まあ、とりあえずおれたちは無罪放免のようだから、それを喜ぼうぜ。それに、これから忙しくなるぞ。今じゃあ、まともに大鳥に乗れるやつなんて少なくなったからな」

「……」

 二人は並んで、宮廷を後にした。

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